弁護士会の取組み:2016年1月号 Vol.49

弁護士会の取組み

アトーニーズマガジン 弁護士会の取組み

地域司法計画を策定・推進する各地の弁護士会。地域に密着し、よりよいリーガルサービスの推進・向上のために活動を続ける各地の弁護士会の取り組みについて 、各弁護士会の会長よりお話を伺いました 。

東京弁護士会

若き法曹の数々のアイデアをかたちに。 日本最大規模の弁護士会が仕かける、 リーガルアクセス増加への新サービス

かつて本誌が、全国各地の弁護士会の活動を取り上げ、紹介してから数年がたった。司法制度改革の進展や社会環境の変動に伴って、弁護士の立ち位置や、求められるニーズも以前とは様相を異にしつつある。そんななか、各弁護士会は、今どんな課題を掲げ、活動しているのだろうか。改めてリポートしてみたい。本企画「新・弁護士会の取り組み」の第1回にお話をうかがったのは、現在7483人の会員が所属する日本最大の組織、東京弁護士会。リーガルアクセスの向上を目指して、「弁護士お試し制度」などのユニークな活動を展開する同弁護士会の委員会、「リーガルサービスセンター(弁護士活動領域拡大推進本部)」を取材した。

リーガルニーズを調査し必要なサービスを提供

「ひと言でいえば、弁護士が増えてきたという利点を生かし、これまでやりたくてもなかなか手を回すことができなかった活動をするのが目的です」リーガルサービスセンターのセンター長代行である山本昌平氏は、同委員会について、そう語る。〝これまで手を回すことができなかった活動〞とは、「事務所にかかってくる電話に対応するだけでなく、積極的に外に出ていき、法律サービスを受けたくても受けられない人たちにもアプローチして、必要なサービスを提供する」ことだ。「世の中のリーガルサービスに対するニーズを調査し、そこに対するフォローを行うことで、法の支配を徹底させたい、と考えているんですよ。取り組みのコンセプトもアプローチの仕方も、今までの〝弁護士の仕事〞とは、ひと味違います。具体的にどんなテーマ、分野を取り上げるのかは、内部で議論して決め、やりたい人間たちがチームを組んで実行します。委員会として発足したのは、2014年の9月なのですが、それ以前からスタートしていたものも含め、すでに多くのプロジェクトが、同時並行で走り始めています」現在、メンバーは80名ほど。「私は50期、弁護士登録18年目ですが、メンバーの主体は60期代。若さと情熱に支えられているという点でも、とてもユニークな委員会です」と話す。

〝弁護士といえば裁判〞を払拭するために

では、具体的にどんな取り組みをしているのか、各論をみていこう。日常的な〝法律サービスが受けにくい〞中小企業をサポートするために活動するのが、「中小企業法律支援センター」だ。同センターの本部長代行である田島正広氏は「08年に日本弁護士連合会が行った、中小企業の法的ニーズに関する全国アンケートの結果が、当センターを立ち上げる一つのきっかけになりました」と話す。「中小企業は、労働問題や債権回収の問題などの法的課題を抱えているところが多いはず。ところが、回収したアンケートを読むと、多くの企業が『弁護士に相談したいと思う問題はない』と回答している。要するに、法的課題をそう捉えずに、顧問税理士やはては銀行に相談している、という実態が浮き彫りになったのです」日弁連が、中小企業経営者向けに開設した「相談ダイヤル」に電話はかけてくるものの、「では、相談したいことの詳細をファクスで送ってください」と話しても、約4分の1がその後音沙汰なし、という実態もあったという。自分の会社が抱える問題点を整理できているのはまだいいほうで、それさえもわからず困っている経営者がこれだけいるということだ。「我々が本当にフォローしなくてはならないのは、この4分の1なのではないか、と。中小企業のための法的支援の体制を仕組みとして確立する必要性を強く認識したわけです」同センターの活動は、主に2つ。一つは弁護士の紹介だ。同センターへの相談専用電話には、弁護士が「コンシェルジュ」として応対する。相談の中身を直接聞いたうえで、事業再生、事業承継、海外展開、コンプライアンス、債権回収といった、その会社が抱える具体的な課題別に、〝その道のプロ〞である弁護士につなぐのである。「初めから、事務員ではなく弁護士が電話を取ってお話を聞くというのが、ポイントです。やってみてわかったのですが、多くの相談がコンシェルジュ弁護士の段階で解決できるんですよ。彼らがほとんど〝入り口〞の問題で悩んでいることの、証左といえるでしょう。逆にいえば、とにかく弁護士とつながりを持ってもらうことがいかに重要か、ということです」そうした意味も込めて取り組むのが、「アウトリーチ活動」だ。「弁護士にお世話になるのは、裁判になった時くらいというイメージを払拭し、事業再生にも債権回収にも役立つんですよ、ということをわかってもらうためには、こちらから積極的に働きかけを行う必要があるのです」具体的には、金融機関や諸団体を窓口にしたセミナーなどの実施、法律相談会の開催、中小企業支援に向けたイベントやシンポジウムの開催などを行っている。「税金が絡む話は税理士、従業員の問題だったら社会保険労務士というように、課題別にほかの士業と協力できる体制を築いたり、官公庁や金融機関、経済団体など各種団体との連携を強化したりして、より中小企業に寄り添ったリーガルサービスを提供していきたいと考えているのです」そんな田島氏が今後の重要課題に位置づけるのが、〝権利保護保険とのマッチング〞である。「我が国には中小企業向けの権利保護保険は、まだありません。でも、例えばお話ししたようなコンシェルジュ対応の部分は、そのまま保険の初期相談にスライドが可能な中身になっていると思います。諸外国のように、この保険制度の創設を望みたいですね。それと連携できれば、より幅広く厚い支援体制が実現できるはずです」

常勤でも顧問でもなく弁護士を〝試せる〞制度

「弁護士お試し制度」も、同委員会の性格がにじみ出たプロジェクトだ。副センター長で、同制度の部会長を務める堂野達之氏に説明してもらおう。「正式名称を『弁護士トライアル制度』というのですが、企業や自治体に、その名のとおり弁護士の〝使い勝手〞を試していただく取り組みです。企業などに弁護士が〝入る〞時には、常勤のインハウスロイヤーとして入社するか顧問になるのが、従来の姿でした。この制度は、それらとは違う〝第3の道〞で、弁護士が3〜6ヵ月くらいをめどに、週に2〜3日などの非常勤で勤務するのです」非常勤業務受託弁護士で勤務可能として名簿に登録されている弁護士は、現在60〜70名ほど。企業や自治体はその登録名簿から、適した条件の人間を選び、個別にコンタクトを取って契約する仕組みだ。とはいえ、あえて〝お試し〞で受け入れるメリットは、どこにあるのだろうか?「『契約書をどう作成すればいいのか』『この行為は法的に問題ないのか』など、企業活動などにおいてはちょっとした法律問題が、結構頻繁に発生するんですね。そうした諸々について、弁護士が身近にいて気軽に相談できる環境にあったらいいのに、という声をよく聞きます。でも、細かなことをいちいち顧問に電話するのは気が引ける、そもそも中小企業などではインハウスや顧問弁護士を雇うような余裕はない、という現実がありました。そうしたギャップを埋めようというのが、この制度の趣旨なのです」〝試用期間〞が過ぎた後は、契約の延長や変更も、あるいはインハウスとしての登用もアリだ。「弁護士は、日頃から様々な交渉の場に出向き、相談事に乗っていますから、その方面のスキルも経験も豊富です。純粋な法律問題への対応以外にも、例えば上司の説得、対外的な説明などの局面でもお役に立てるはず。この制度を通じ、『近くに弁護士がいたら、こんなに便利なんだ』ということを知っていただきたいですね」同時に、「弁護士にとっても意義のある制度です」と堂野氏は言う。「特に若手には、法廷だけでなく、いろんな現場でキャリアを積みたい、という意識を持つ人が増えています。名簿に登録しておけば、そうした道が開かれるわけですね。原則的に非常勤なので、事務所に戻って通常の仕事をすることができるのも、大きな魅力ではないでしょうか」まだスタートしたばかりだが、制度を利用したある自治体から、「職員が相談できるだけでなく、市民対応でも頼りになる」と評価されるなど、手応えを感じているようだ。

「空家対策」など今日的テーマも

主がいなくなり、老朽化した「空家問題」が深刻化している。「でもそれは、人口減少が著しい地方に限った話ではなく、東京の都心部でも、すでに数多く発生している問題なのです」と「空家等対策部会」担当の尾谷恒治氏は指摘する。同部会は、空家等対策の推進に関する特別措置法の施行を見据えて、15年8月に発足した。「特措法を活用して、安心して暮らせるまちづくりを進めようという自治体を、法的側面からバックアップするのが目的です。空家対策には、危険な不良物件の除却と、ストックして活用する、という2つの方向性があります。特措法は前者に主眼が置かれていますが、弁護士としてはいずれについてもお手伝いする予定です」例えば、特措法は、倒壊の恐れなどがある「特定空家」については、行政代執行による除却を認めている。とはいえ、「危険だから」と勝手に取り壊すわけにはいかない。「所有者に任意の除却を求め、それが難しい場合には、行政手続きを踏んで代執行も、という流れになります。任意に除却するよう所有者を説得するのにも一定の法律知識が必要ですし、代執行には国家賠償リスクが伴うわけですから、それをヘッジしながら進めなければなりません。それ以前の問題として、所有者が不明でどう探したらいいのかわからない、というケースも少なくない。初めから終わりまで、法的問題が絡んでくるのです」すでに東京都の豊島、足立、杉並の3区と、具体的な事例に関するモデル事業をスタートさせていて、「そろそろ成果を報告できそう」だという。現在、日本に暮らす外国人は200万人。彼らの法的ニーズは何なのか、法律問題は、実際にはどのように解決されているのか――。同委員会は、〝ブラックボックス〞の部分も多いその課題の調査にも着手している。「問題意識はあっても、コネも何もなかったので、まず在日ドイツ商工会議所と連絡を取って、調査に行きました。すると、彼らの反応は予想以上で、逆に日本における紛争解決のプロセスについてセミナーをやってほしい、と要請を受けたんですよ」(山本氏) 今力を入れているのが、日本に1万人近くが住むインドネシアだ。「大使館に出かけて話を聞いたら、毎日のように法的な問い合わせがあるのだそう。母国語の話せる日本人が少ないというのも、悩みのタネであることがわかりました。先日、ジャカルタにも行って法曹関係者と会ってきたんですよ。彼らは非常に親日的で、日本の法制度などに対する関心も、とても高いものがありましたね。こうした取り組みも通じて、在日外国人に対するよりよい法的支援のあり方を検討し、実行していきたいと思っています」(同)

東京ドームで弁護士会をアピール

「弁護士に相談するのは、なんとなく敷居が高い」。そうした固定観念を崩すための広報活動にも余念がないのだが、そのやり方も同委員会ならではの斬新さ。極めつきが「東京ドーム企画」である。東京ドームで行われるイースタンリーグの試合のスポンサーになり、球場の通路にブースを設けて、オーロラビジョンで弁護士会の広報ビデオを流し、着ぐるみのメンバーがチラシを配るのだ。この企画に参加した重富智雄氏は言う。「ただ普通に街頭に立って配っても、反応はイマイチのことが多い。でも、球場でのブース設置やゆるキャラによるわかりやすい訴求を行うことで、多くの人が捨てずに持ち帰ってくれるのです。『弁護士会はこんなこともやっているんだ』『身近な存在なんだ』と感じてくれたら、うれしいですね」重富氏は、弁護士登録3年目。「とにかく機動力のあるところが、当委員会の特徴です。『これがやりたい』と提案すると、どんどん意見を吸い上げてくれて、チームができる。おかげで、非常に充実した活動をやらせてもらっています」こうした取り組みについて、同弁護士会の伊藤茂昭会長は、「若手の頑張りを、頼もしく感じます」と語る。「国民のあらゆる法的ニーズに応えよう、というのが弁護士人口を増やした理由です。それで〝食えなく〞なるとかいうのは、あまりに皮相的な考え方で、話に出てきたように、弁護士が手を差し伸べてくれるのを待っている人が、まだ数多くいるわけですね。そこに正面からアプローチしていく活動に、執行部としても大いに期待しています」最後に、同委員会代表の湊信明副会長にお話をうかがった。「今回の取り組みのルーツをたどれば、国民の8割が法的サービスの埒外に置かれている〝2割司法〞を正そうという、司法改革に行きつきます。今まで、それに適した体制を作ろうと一所懸命やってきて、ようやくスタートラインに立った、というのが現状ではないでしょうか。司法改革の目的が達せられるかどうかは、むしろこれからの頑張りにかかっている。そうした意味でも、当委員会のチャレンジは意味のあるものだと思います。全国の弁護士会の方々にも、ぜひ我々のこうした活動について知っていただき、将来、連携した運動にできればいいですね」

■プロフィール

  • ●所在地
  • 東京都千代田区霞が関1-1-3 弁護士会館6階
  • http://www.toben.or.jp
  • ●会員数:7483人(2015年4月1日現在)