開拓者たち:2017年1月号 Vol.55

開拓者たち

アトーニーズマガジン 開拓者たち

法律事務所、企業 、行政庁、NPOなどで働く弁護士たち。さまざまな分野へ挑戦し、新たな分野を切り開いている方々へインタビュー。仕事のやりがいや魅力をエピソードを交えながら、 ご紹介していきます。

新時代のWork Front

開拓者たち

淑徳中学校・淑徳高等学校 社会科 世界史 政治経済 教師 本郷さくら総合法律事務所 弁護士 神内 聡

高校の社会科教師であり、3年生のクラス担任や部活の顧問も務めている神内聡氏。司法試験に合格し、弁護士登録後も正規の教員を続けている、日本唯一の〝学校内弁護士〞だ。「インハウスだからこそ知り得る教育現場の問題を俯瞰し、最適な解決が図れるのです」。一方、教育法の専門家として、同法を学校を適切に規律するツールとして機能させる活動にも注力。まさに弁護士の職域拡大可能性を体現している。

学校は特殊な世界。利害対立を交通整理

私は日々、生徒に社会科を教え、学級担任や部活顧問、校務分掌をこなす一般的な高校教員です。一般的でないのは、弁護士を兼業していること。どの学校にも外部の顧問弁護士はいますが、教師を兼ねた〝学校内弁護士〞は国内では私だけだと思います。

業務時間の割り振りとしては、教員3対弁護士1くらい。学校が夕方終わると事務所に寄って弁護士業務を手がけるといった毎日です。勤務先の私立高校にも顧問弁護士がいますが、私の立場は企業のインハウスロイヤーに例えればわかりやすいかもしれません。

校長付という専任部署が設けられ、問題が生じた際は解決策の意見を述べることも役割です。教育委員会や学校法人などの設置者、校長・教頭などの管理職や教員、保護者や生徒といったそれぞれ異なる価値観がたびたび対立する特殊な世界。また、学校内では管理職と教員の、学校外では学校と保護者・生徒の利害対立が生じます。そうした中で問題が起きても、一般民事のように原告と被告という立場で割り切ることが難しいケースが多いのです。その交通整理をし、合理的な〝落としどころ〞を見いだすのに、弁護士の問題解決スキルを生かしています。学校側には、法律の専門家が内部にいることによる安心感を持ってもらえているようです。

教育法の専門家としてより適切な助言を可能に

弁護士としては、一般民事を手がけることもありますが、複数校の顧問を受任するなど教育分野を主要な領域としています。そもそも教育法を専門とする弁護士が非常に少なく、教育現場をよく知らずに助言する顧問弁護士も少なくありません。例えば、体罰は即刻ダメと判断されがちですが、教師が有形力を行使すれば即体罰と認定されるわけではありません。学校内弁護士は教師が有形力を行使するに至る経緯を教師の視点から考えることが可能なので、より現場に即した助言ができるのです。比較法的に見ても、担任制度は日本以外に見当たらないなど、日本の教育制度は特殊です。生徒の指導において担任は「学校教育法その他の教育法令に照らして明らかな条理上の義務」があるという判例があります。しかし、担任の立場は何ら法律で規定されてはいません。法律で守られていない慣例的な立場にもかかわらず、受け持つ生徒に何か問題が発生すると法的責任を問われるという矛盾した状態にあるのです。

さらに、家庭教育と学校教育の役割分担もあいまいです。「ほかの生徒に対し危害を加えるような人間」に育てない責任は、家庭教育にあるはず。しかし、担任にはそのような生徒への注意義務があり、「生徒が起こした事故の責任の一端は担任にある」という判例も。下手をすると、担任は予測不能な責任を負うリスクもある。教育現場に身を置く教育法の専門家として、こうした問題を是正する責務があると感じています。教育法は、児童生徒だけでなく教員や学校の権利も守るべきものだからです

教育法の研究者を志向し教育現場に導かれる

私は、学生時代に子供の人権や教育制度に興味を持ち、教育法の研究者を志しました。教育制度は文部科学省が一手に仕切っているイメージがありますが、実は地方分権が進んでいて、教育委員会や教育長がけっこうな部分で関与しています。その中央と地方の関係の特殊さにも興味を持ちました。東京大学の指導教官が同大の付属高校の校長を兼務していた方で、「自分の研究が現場にどう反映されるか、確かめながら研究したほうがいい」というアドバイスに深く納得。そこで教員免許を取得し、大学院時代に非常勤講師を始めました。これが非常に面白かった。学校には様々な教員や管理職がいて、行政との頻繁なやり取りがあり、生徒や保護者との様々な関係が絡み合った世界。そうした複雑な環境で、誰のどんな権利を優先し、利害を調整すべきか、研究の価値があると考えました。

もともと法曹になることは考えていませんでしたが、知人の教授から「筑波大学が社会人向けのロースクールをつくる」という話を聞き、教員を続けながら学べるならと入学することに。学校の教員は会社員などほかの職業の方々と交流する機会がほとんどないので、学校外との接点を持つことが重要と感じていたこと、担当教科以外の分野の学位を得ておくことは教師としての幅を広げてくれると考え、決断しました。

生徒の成長を見る喜び。学校教員は〝楽しい〞

司法試験に合格した後、周囲から「弁護士に専念しないのか?」と聞かれましたが、前述のとおり教育現場に身を置くことには大きなメリットがあります。また、ストレスがあっても生徒たちの顔を見ると解消できますし、彼らの体当たりの意見に対応するのはとても楽しい。3年間を通じて生徒の成長を見ることができる喜びもあります。法律家は性悪説、教師は性善説で、動くことのバランスを取るのはなかなか難しいですが、〝学校内弁護士〞という立場は得難い勉強の場であると感じています。今、司法改革で増えた弁護士の就業先が不足しているといわれていますが、〝学校内弁護士〞は未開拓の領域。同志が増えることを願っています。

世の中には、教育法を専門としない人が書いた学校におけるトラブル解決の指南本が溢れています。そうした状況を鑑み、『学校内弁護士 学校現場のための教育紛争対策ガイドブック』(日本加除出版)を出版しました。ご一読いただければ幸いです。

■プロフィール

  • 神内 聡(じんない・あきら)
  • 淑徳中学校・淑徳高等学校 社会科 世界史 政治経済 教師
  • 本郷さくら総合法律事務所 弁護士
  • 1978年5月香川県高松市生まれ
    2001年3月東京大学法学部政治コース卒業
    2003年3月東京大学大学院教育学研究科修了
    4月都内私立高等学校で教職に就く
    2008年3月筑波大学大学院
    ビジネス科学研究科修了
    9月司法試験合格
    2010年12月司法修習修了・弁護士登録
    (東京弁護士会・63期)
    弁護士法人筑波アカデミア
    法律事務所入所
    2012年4月淑徳中学校・淑徳高等学校
    教師兼学校内弁護士として復帰
    2015年4月本郷さくら総合法律事務所開設