法務最前線:2016年9月号 Vol.53

法務最前線

アトーニーズマガジン 法務最前線

経営そのものに深くかかわる企業法務部。現場からの相談に瞬時にかつ的確に判断することが求められる組織に必要なファクターとは、その精鋭が弁護士に期待することとは何か?各社の法務部長へ伺いました。

新時代のWork Front

法務最前線

JSR株式会社 法務部

法務部を強化・拡大中

タイヤなどに使われる合成ゴムや合成樹脂を扱う石油化学系事業、半導体製造材料やディスプレイ材料などを扱うファイン事業が2本柱。診断試薬材料などのライフサイエンス事業にも注力する。同社は最先端の研究開発力を武器に、世界トップクラスの商品を多数創出する化学メーカーだ。その法務部は、グローバル化を視野に入れ、さらなる体制強化・拡大を図る予定。上席執行役員で法務部長の土居誠氏に、同部の現体制を聞いた。「国内外のグループ企業を含めたグループ全体を管轄しています。体制としては、事業分野に応じて法務部を2チームに分け、各々で担当事業部のすべての法的サポートを行います。また法務部に置かれた法令遵守事務局がグループ全体のコンプライアンスの仕組みに目を配っています。さらに、法務講座の計画的な提供を通じて、グループ全体のリーガルマインドの向上にも力を入れています。なお、個々の法務部員の経験値を上げるため、チーム内メンバーや法令遵守事務局の担当についてはシャッフルを行っていく予定です」

法務部には「3つの基本方針」があるという。「1つめは〝事業部やグループ企業は顧客である〞と認識し、納期(対応スピード)と品質(アドバイスの質)の両面で〝顧客〞の要望に応えて、〝社内CS〞を行おうというものです。2つめは〝全体最適〞を意識すること。3つめは〝評論家にならない〞こと。〝必ず提案。必ず代案〞を意識して仕事に臨んでいます。これらが、私が徹底し続けている法務部の基本方針です」

主体的に取り組む人材を育成

実際、事業支援という観点で法務部が果たす役割は大きい。「当社ではSSBR(溶液重合スチレンブタジエンゴム)という、エコタイヤの材料となる合成ゴムの事業に力を入れています。四日市工場がその製造拠点ですが、グローバル展開の一環で、タイおよびハンガリーの企業と合弁会社を設立しました。投資額は数百億円規模と当社にとってはビッグプロジェクトです。このプロジェクトに法務として私も参画。どのような運営体制・販売体制にするのか、技術導入のスキーム、契約スキームなど、ビジネスサイドと協力し、メインネゴシエーターとして契約交渉してまとめ上げました。今、すでに稼働開始したタイや建設中のハンガリーの工場が、当社事業の屋台骨となれば、嬉しい限りです。なお、この契約交渉には、法務部の若手も参加させ実地体験を積ませました。そうした重要プロジェクトを経験した若手がスキルアップし、やがて大きな案件に中心的に携わってくれることが楽しみです。望めばダイナミックな経験を積める――これが当社で働く醍醐味だと思っています」

土居氏が描く法務部の理想像は、次のようなものだ。「法務部のミッションは〝当社グループ全体の利益の最大化を図るための事業支援〞と〝コンプライアンス〞。我々は単なるアドバイザーではなく事業推進の主体となることが求められますから、〝事業を知る法務であること〞が必須なのです。その観点から、事業部と法務部との人事ローテーションを、もっと進めたいと思っています。事業に詳しい人材が法務部にいることが事業支援の質の向上に資する、また逆に法的知識を持った人材が事業部にいることによりグループ全体のコンプライアンス向上につながると考えています。また、海外拠点との人材交流も行っていきたいですね。海外については、なかなか国内企業と同じようにサポートできないのが課題ですが、さらなるグローバル展開を見据えて、人材を育成していきたいと思います。数年ごとに1人ずつ、社費でロースクール留学に送り出しているのもそのためです。いずれも長期的な取り組みになりますが、理想の法務部をかたちづくるべく推進いたします」

■企業概要

  • 設立:1957年12月10日
  • 資本金:233億2000万円
  • 連結従業員数:6587名(2016年3月31日現在)
  • 所在地:〒105-8640 東京都港区東新橋1-9-2汐留住友ビル

  • ■プロフィール

  • 土居誠(どい・まこと)
  • JSR株式会社
  • 上席執行役員
  • 法務・総務・CSR担当
  • 法務部長
  • 京都大学法学部卒業。1983年、住友金属工業(現新日鉄住金)入社。労務部、総務部。在職中、コーネルロースクール(アメリカ)に留学。95年に帰国後、法務に従事。2002年、ユニ・チャームの法務に転職。03年、JSRの法務に転職。12年、執行役員法務部長、16年、上席執行役員に就任。