Vol.82
HOMEスペシャルレポート富士通株式会社
  • ▼弁護士のブランディング支援サービス

    Business Lawyer's Marketing Service
  • ▼弁護士向け求人検索サービス

    想いを仕事にかえていく 弁護士転職.JP
  • ▼弁護士のキャリア形成支援サービス

    弁護士キャリアコンシェルジュ
  • 当社サービス・ビジネス全般に関するお問い合わせ

#21

ゼネラルカウンセル室は、富士通の法務部門の統括的な役割を担う(撮影には、ガバナンス・コンプライアンス法務本部、ビジネス法務・知財本部のリーダーたちも参集した)

ゼネラルカウンセル室は、富士通の法務部門の統括的な役割を担う(撮影には、ガバナンス・コンプライアンス法務本部、ビジネス法務・知財本部のリーダーたちも参集した)

SPECIAL REPORT

#21

グローバルな「One Legal」で、
世界へのあくなき挑戦を支える

富士通株式会社
ゼネラルカウンセル室

「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスに掲げる、富士通株式会社。同社の法務・知財・内部統制推進部門(以下、法務部門)は、ダイナミックに変化するビジネス環境に対応するため、2022年4月1日、組織体制を刷新した。

世界へ挑戦する歴史を支えてきた法務部門のこれまで、そして未来について、執行役員EVPで、ゼネラルカウンセルの水口恭子氏、ゼネラルカウンセル室のロバート・パットランド氏、岸川奈々氏、坂田大氏、白石洋也氏に語っていただいた。

組織体制

「One Legal」で経営とビジネスを支える

――まず、法務部門の新たな体制について教えてください。

水口:ゼネラルカウンセルである私の直下に、ゼネラルカウンセル室(以下、GC室)、デジタルテクノロジー推進法務室、ガバナンス・コンプライアンス法務本部、ビジネス法務・知財本部があり、これに海外の法務機能が加わったものが、部門全体の体制になります。海外は、当社の事業体制に合わせ、Europe、Americas、APACの3つのリージョンと、中国・韓国などを含む東アジアに分けています。国内約350名、海外約200名が国・地域を超えたグローバルな「One Legal」として、富士通グループの経営とビジネスを支えています。

――GC室の役割を教えてください。

パットランド:ゼネラルカウンセルを補佐し、法務部門全体が国・地域を超えて一体となって動けるようファシリテートするのがGC室の役割です。私自身は、水口の代理として各方面への方針の徹底や個別案件の指示などを行っています。

富士通のグローバルビジネスを支える法務部門も当然、グローバルチームであるべき。その力が最大限発揮できるよう、「我々はワンチームである」というメッセージを常に社内外に発信しながら、共通の価値に基づくオープンなマインドセットを醸成することに尽力しています。

水口:ゼネラルカウンセルは、法的見地を軸として“守り”と“攻め”の両側面から幅広く経営層や現場部門にアドバイスを行うとともに、自らも経営層の一員として会社の重要な意思決定に参画する役目を担います。GC室を設けた背景には、広範にわたるゼネラルカウンセルの職責を遂行するために「各法務機能間のファシリテーションを行う司令塔となる部隊をつくりたい」という私自身の思いがありました。

法務部門の仕事は明確な切り分けが難しく、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、契約審査、訴訟対応、知財など一応の役割分担はあるものの、そこだけで仕事が完結することはほぼありません。例えば、クロスボーダーM&Aやグループ再編案件では、デューデリジェンス、契約交渉、各国法に基づく届出、機関決定のサポート、リスク低減策の策定と実行を、事業部門や関係国のリーガルメンバーと協議しながら対応しています。そうした時、以前は私が各法務機能からメンバーを集めてチームを組成していたのですが、チーミング自体を組織として行いながら、グローバルかつマルチファンクショナルな経験を通じた人材育成も行えるようにしたいと思ったのです。幅広い視点で一人ひとりのタレントやプロジェクトのパイプラインを見る。個別案件では重要なイシューを見極め、ベストメンバーを集めて問題解決にあたる。そのチーミングとファシリテーションを、私個人の采配ではなく組織として行い、仕組み化したい――これがGC室設立のきっかけです。

そのような背景から、海外リージョンの法務を束ねるグローバルリーガルのヘッドであるロブ(パットランド氏)に、GC室の室長を兼務してもらっています。

富士通株式会社
様々な社会課題の解決のため、テクノロジー・サービス、ソリューション、製品を世界中で提供する同社。革新的なDX化推進には、データ保護・利活用など法的側面からビジネスを牽引する法務の力が欠かせない

国・地域を超えた連携でプロジェクトを推進

――次に、GC室の具体的な業務について教えてください。

パットランド:まずは法務部門全体が非常に幅広い領域の仕事にチームで取り組んでいます。コーポレートガバナンス、データ保護・プライバシー規制対応、紛争対応、コンプライアンス対応、知財・リーガルの専門性を活用したビジネスサポートです。GC室はその中でも、国や地域をまたぐ課題に対処するべく様々なプロジェクトにかかわり、各法務機能間の連携をリードしています。

坂田:私の主なミッションは3つです。1つ目は、GC室の日本側の運営リーダーとして、水口やロブを補佐する役割です。2つ目は、データプロテクション。GDPR(一般データ保護規制)の対応経験から、現在はグローバルな観点で個人情報あるいはデータ全般を、富士通としてどう扱っていくかという課題に取り組んでいます。3つ目は、グローバルな法務の連携を高めるGC室のミッションそのものにかかわる業務。各リージョンの法務部長たちと協働しながら、法的問題の対応をしています。

白石:私も同じく運営リーダーとして坂田と同様のミッションを分担しています。加えて、M&Aやグループ内再編など多数の重要プロジェクトに法務のリード役として関与しています。また、リーガルの業務プロセスのDX推進、人材育成、リソースマネジメントにも力を入れています。

岸川:私は現在ロンドンに駐在し、グローバルリーガルのヴァイスヘッドというポジションで、ロブの補佐役を務めています。欧州の重要プロジェクトを管理しつつ、ドイツ子会社のマネージングディレクターも兼務しています。

グローバルチーム

地域を超えて最適なチームを編成

――富士通の法務部門では、“専門軸でのリーダーの配置”を推進しているとうかがいました。

白石:これまではリージョンを中心とした、いわゆる“地域軸”で業務を推進していましたが、そのやり方には、いくつかの課題がありました。メンバー自身が専門性をなかなか蓄積できない、ゆえに複雑な問題に対応しきれない、グローバルに点在する優秀な人材を生かしきれないなどです。

そこで、これからは地域軸に加えて専門性を軸に取り組んでいかなければと考えたわけです。具体的な専門軸としては、M&A・再編対応、紛争・トラブル対応、リーガルDXなどです。例えば、リーガルDXに関しては、英国メンバーをGC室幹部に登用しています。「英国にいるからヨーロッパのことだけをやる」ではなく、DXに関しては彼がリーダーとなり、グローバルにチームを率いる。また、紛争対応に関しても、ノウハウの蓄積は地域にかかわらず行っていきたいので、海外の法律事務所からリーダーをリクルートし、グローバルチームを編成しています。こうした専門軸によるチーミング例をさらに増やし、ワンチームの意識をさらに高めていきたいと考えています。

坂田:プロジェクトにおいて、本社チームと海外チームが一緒に動くケースは、もともと多くありました。例えば、18年に発効されたGDPRの影響はEU域内に留まらず、また違反に対する制裁金は一法人だけではなくグループ全体の売り上げを基に課されます。よって、グループ全体として一貫した対応が必要となるため、本社がリードしなければなりません。そこで、ヨーロッパと日本の混成チームをつくり、社内ポリシーの策定や社内教育、様々なインシデントに対する対応プロセスの統一などについて、連日ヨーロッパと日本のチームがテレビ会議でディスカッションし、対応策を決めていきました。こうしたプロセスを、あらゆるプロジェクトで横断的に行っているのが、「One Legal」である我々の強みです。

富士通株式会社
ゼネラルカウンセル室と、ガバナンス・コンプライアンス法務本部、ビジネス法務・知財本部は、日々、密接なコミュニケーションを行っている

経験よりもオープンなマインドセット

――グローバルなチームの一員として求められる資質や経験について、教えてください。

パットランド:まず申し上げたいのは、「すべての仕事の中心にあるのは人」ということです。経験年数や資格も考慮しますが、当社では何よりポテンシャルを重視して採用しています。求めるのは、オープンなマインドセットを持ち、好奇心旺盛で、学ぶ意欲や改善への意欲にあふれている人材です。そういった人材に我々は、成長できる多くの機会と、国や地域を超えた真にグローバルなチームで働ける経験を提供できます。現在のチームメンバーを見ても、水口は豪州、米国、英国での駐在経験があり、坂田はシンガポール、白石は米国に駐在していました。岸川は英国のほかドイツの駐在経験もあります。私自身、米国、豪州、欧州各国で働いてきました。このように様々な文化、環境下で働きながら、一方で常に富士通の価値とは何か、どうすれば社会に貢献できるかを考えられる――そのような人材を育てていくこともGC室の重要なミッションです。

水口:当社の法務部門にはもともとオープンな組織文化がありました。入社年次、役職・ポジション、所属地域などに関係なく誰もがより良い解決策を導くべく意見を交わす。問題の解決には多面的なアプローチがある中で、その時点において「どれが当社グループにとってベストか」「あとから振り返った時に誇れる内容になっているか」などを考えていくわけですが、場合によってはリーダー層の価値観だけでは十分ではないこともあります。そうした組織文化をさらに向上してくれたのが、17年から現任となったロブです。彼は、法務人材の成長とビジネス部門との信頼関係が、プロジェクト成功につながることを証明してきました。

人材育成について

グローバルチャレンジ人材制度による育成

――法務人材育成の取り組み手法について、教えてください。

白石:我々の強みであるグローバルな組織力をさらに強化するため、「グローバルチャレンジ人材制度」というプログラムを新たに立ち上げました。これは「ボーダーレスにチャレンジしたい」という強い意欲を持った人材を組織内で早期に発掘し、いわば“人材のパイプライン管理”として計画的に育成し、キャリアプランも一緒に考えていこうという制度です。なお、第1期に12名が登録しており、現在2期メンバーを募っているところです。

――その、応募の条件はどのようなものでしょう。

白石:この制度は「手を挙げた人の意欲を重視し、組織として後押しする」ことが根幹にあります。ゆえに応募に際して年齢制限はなく、経験や所属長の推薦なども一切不要としています。グローバルに活躍することを目指すうえで英語力があることに越したことはないですが、自信がない人でも応募は可能で、英語力の向上も含めて教育するというスタンスです。

坂田:参加者は、20代前半から40代と幅広く、入社1年目の社員も応募しています。

――プログラムの内容について、教えてください。

白石:eラーニングや、個別のフォローアップセミナーといった教育コンテンツを充実させています。とはいえ一番の学びは、座学よりも実際の経験。例えばクロスボーダーM&Aや、海外でのトラブル対応時などは、当該制度の登録者に優先的に声をかけ、積極的にプロジェクトチームに参加させます。今後は、海外のロースクールへの留学や現地法人駐在なども、基本的にはこの制度に参加するメンバーを中心に選抜していく計画です。

水口:グローバルチャレンジ人材制度は、法務部門の横断的な取り組みです。「やってみたいけどよく分からないから手を挙げられない」というよりは、「手を挙げたら思ったより大変そうだけど、今の自分はこれに取り組みたい」といった本人の真剣な思いを法務部門全体として後押しする仕組みとしています。定期ローテーションの機会もありますが、法務が関与するプロジェクトは“生もの”なので、新鮮なうちにチャンスをオープンにしたい。それだけ、部門内で多様な機会があることを部門内のリーダーたちが実感し、多くのメンバーに、そのような機会を提供したいとの思いを持っているということでもあります。

白石:本制度は、日本の社員に適用されるプログラムですが、今年度は新たな取り組みとして海外の社員を対象にした制度の立ち上げも決まっています。今後は、これら2つの制度における人材交流も、図っていきたいと考えています。

キャリアプランと海外駐在

水口:当部門では、多くのメンバーに海外駐在のチャンスがあります。一口に海外駐在といっても、現地サポートを主とした担当者レベルか、リージョンの上級経営幹部チームの一員として行くかでは、果たすべき役割も異なります。グローバルチャレンジ人材制度に参加するメンバーについては、「キャリアプランも一緒に考える」ことが前提ですから、現地での役割などをあらかじめ設定しておき、現地と調整したうえで駐在させるというルールを、プログラムに組み込んでいます。

――岸川さんは3度海外駐在を経験されています。海外で働く醍醐味について教えてください。

岸川:一度目のロンドン駐在時は管理職ではなかったのですが、今回はリージョンの上級経営幹部チームの一員として駐在しています。各リージョンの上級経営幹部チームや、リージョンCEOとの対話も多く、現地の経営陣と一体となって法務の仕事ができるという醍醐味があります。

また、会社として何らかのアクションを起こす際、現地法の観点での法的論点の検討はもちろん、その判断は各国にいる社員、お客さま、ひいては社会からどう捉えられるかなど、国の違いを踏まえた判断・行動が求められますので、ロブや現地経営陣と綿密にディスカッションしながら、最適解を探っていくようにしています。

これは、リージョン側が日本の本社側に働きかける場合も同じです。私には本社との“リエゾン”の役割もあるので、言葉や文化の違いを踏まえ、コミュニケーションをサポートし相互理解を深められるように努めています。

このようにして、私やロブがロンドンにいて、現地の経営陣と共に仕事をしながら、リエゾンとして本社との橋渡しをすることで、法務だけでなく富士通グループ全体のグローバル連携の実現に貢献しています。

富士通株式会社
取材時は、ゼネラルカウンセル室を兼務するSVP, Head of Global Legalのロバート・パットランド氏(英国弁護士)、VP, Vice Head of Global Legal(Europe Projects)の岸川奈々氏(弁護士/63期)の両名も、ロンドンオフィスからオンラインで参加

今後の展望

人材育成・交流の両輪でさらなる発展を目指す

――今後、どのようなチャレンジを行い、どのような組織を目指していく意気込みでしょうか。

水口:私たちが実現しているグローバルな「One Legal」を、より発展させていくこと自体が大きなチャレンジです。現在、非常にいいチームができていますが、これをさらに発展させることが一つの課題です。この解決に近道はなく、グローバルチャンレンジ人材制度も活用し、スキルと経験を高めながら、経営層に対するプレゼンスも発揮する。かつ多様な文化の人たちとしっかりコミュニケートして、お互い真に頼りあえる信頼関係を築ける人材を育てていくプロセスを地道に続けていくことが重要だと考えています。今後は外部法律事務所との人材交流の機会も増やし、各自の経験の幅を広げる一助にしていきたいとも考えています。

自ら手を挙げる文化をさらに推進

白石:我々が掲げている「One Legal」――グローバルな組織であり続けることは、当社のパーパス実現にもつながります。経営に直結する仕事、経営層に近いところで働けることは実にダイナミックで、単純に「仕事が面白い」と、私は思っています。困難な仕事ほど面白いと感じて果敢に挑戦するマインドセットを、次の世代にもつないでいきたいです。

坂田:私は当社に中途入社しましたが、富士通の良いところは「意志のある人には機会が平等に与えられる」点です。その機会を着実に捉えられるか、期待された結果を出せるかは本人次第ですが、チャレンジできる機会は潤沢にある。本人の意欲を尊重する文化が、当社法務部門の最大の特徴だと私は思っています。

また、グローバルなチームの一員として仕事をする際、自発的・主体的に行動・発言すること、自ら手を挙げることが必要だと思っています。それができる人材が育っていくよう、法務部門の組織全体をサポートしていきたいと考えます。

富士通株式会社
ゼネラルカウンセル室は、意欲ある人材のキャリア形成を支援するとともに、グローバルな組織としての戦略的な人材配置も担っている

読者へのメッセージ

法律の専門家にとって貴重な機会の宝庫

――若手弁護士やロースクール生へ、インハウスローヤーのやりがい、魅力を教えてください。

水口:富士通は90年近くにわたり、激しいグローバル競争を生き抜きながら、国内外でプレゼンスを示してきました。その道のりは平坦ではなく、まさにチャレンジの歴史でしたし、その活動を支えるべく、法務も多々貢献してきました。古くは米国企業との特許訴訟で最高裁まで争い勝訴したのも一例です。今また新たなビジネスモデルを模索し、転換を図っていくなかで、法務部門も新たなチャレンジに挑んでいます。グローバルで活躍したいという意欲ある法務人材にとっては、挑戦しがいのあるプロジェクトが数多くあることは間違いありません。

岸川:インハウスローヤーは、案件の始めから終わりまで関与することができるので、すべての案件を“自分事”として捉えることになります。そのうえで、社内の他部門と協働しながら、富士通グループ全体の利益、国内外の社会経済に与えるインパクトなどを踏まえ、バランスを取りつつ法的な課題を解決していくダイナミックな仕事ができるわけです。このような案件への関わり方にやりがいを感じる仲間が、法務部門には大勢います。

パットランド:我々法律家の仕事の本質は問題解決です。当社のような事業会社は、弁護士にとって問題解決のスキルを存分に発揮できる、またとない機会にあふれた場所です。近年、事業環境はデジタル化による変容が見られ、国や地域を超えたつながりが深まるとともに、求められる問題解決のスピードも加速しています。そうした環境下で、我々は単なる法務アドバイザーではなく、ビジネスアドバイザーたること、また社内外のビジネスパートナーから信頼されることが、一層重要になってきています。そのためには、「どれだけの法律を知っているか」といったインプットの量ではなく、「何をするか」というアウトプットが重視されます。入社年次や経験の有無よりも、むしろ、ものの考え方、ビジネス課題の理解度、成長意欲などを重視していきたい。継続的な学びに対するオープンなマインドセットがあれば、法律の専門家として、また人として成長できる素晴らしい機会が、ほかのグローバル企業よりも豊富にあると私は考えます。

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。