Vol.84
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法務部員は、東京本社と海外採用の“ナショナルスタッフ”を合わせて約85名(東京本社には50名が所属)。日本法弁護士資格者が約4割、外国法資格者が約6割で、全体の約3割がキャリア入社だ

法務部員は、東京本社と海外採用の“ナショナルスタッフ”を合わせて約85名(東京本社には50名が所属)。日本法弁護士資格者が約4割、外国法資格者が約6割で、全体の約3割がキャリア入社だ

THE LEGAL DEPARTMENT

#132

丸紅株式会社 法務部

総合商社の多様な法領域で、変革への挑戦力、未来を見据える洞察力、戦略実践力を磨く

“パートナー&ガーディアン”が使命

丸紅株式会社は、生活産業、素材産業、エナジー・インフラソリューション、社会産業・金融、次世代事業といった5つの事業領域で16の営業本部を組織し、国内外取引、事業投資、資源開発などの事業活動を展開する。中期経営戦略ではVUCAの時代を踏まえ、2022年度~24年度を、既存事業の強化と新たなビジネスモデルの創出による成長を果たす“戦略実践の3年間”と定めた。この“戦略実践”で、プロアクティブなサポートを求められるのが同社法務部である。部長の有泉浩一氏に同部のミッションをうかがった。

「私が法務部の重要な役割と部員に伝えているのは、“パートナー&ガーディアン”です。伝統的な日本の法務部によく見られた牽制的な役割だけでなく、経営に対して法的なリスクを正確に提示し、意思決定者が的確に判断できるようにする、営業活動に必要な検討事項を営業本部と考え、案件を構築していく――そうしたパートナーとしての役割が重要と考えています。パートナーとガーディアン、両軸で企業価値の向上に資することが、我々のミッションです」

同部は、営業案件を担当する法務第一課~四課、コーポレートガバナンス関連対応の総務課、戦略企画・人財・DX関連担当の企画・開発課の6課で構成される。

「営業案件を担当する法務課は、各営業本部の契約相談や法律相談、紛争案件の対応管理、法律事務所対応、事業案件などの社内決裁対応、債権回収や担保対応などに携わります。なお、コーポレートガバナンス体制の構築・運営、株主総会・取締役会などの事務局、社内規程、各管理部門の相談対応などは総務課の担当です。部員は、経営企画部など本社内の他部署や、鉄鋼、IT、不動産といった関連会社への出向、米国をはじめ主要海外拠点法務部での駐在の機会もあります。東京本社法務部から、現在7名の海外駐在員を送り出しています」(有泉氏)

総合商社がかかわる分野・業界、国、関連する法規制は多種多様だ。法務部員は“総合商社の仕事”でどのようなやりがいを得ているのか――航空・船舶、モビリティ、次世代事業などの営業案件を担当する法務第一課の神子日路奈氏、細井亮祐氏に聞いた。

「時代の変化を先取りして事業内容も日々変化するので、飽きることがありません。直近の例としては、日本におけるエアモビリティの事業化に向けたサポートがあります。これは“空の移動革命”と言われており、国内では法整備もこれからの分野。25年の大阪・関西万博での試行や社会実装を目指し、各自治体と連携、関係各社と協議を進めている段階です。こうした新規ビジネスでは、想定していなかった法令・許認可などについて調べる必要性が生じます。例えば、和歌山県でのヘリコプターを使ったモニターツアー開催に関連して、旅行業法上の問題を調査しました。新卒入社から15年以上経ちますが、旅行業法の取り扱いはその時が初めて。そのように商社の法務は、何年経っても新しいことが学べる魅力的な仕事です」(神子氏)

細井氏は、21年にIT関連企業法務部から即戦力として中途入社。転職後、日々新たな法分野と対峙しているという。

「入社後すぐに担当したのは、中東地域の医薬品販売会社への投資案件でした。医薬品・ヘルスケアは当社が今後特に伸ばしていきたい領域の一つで、知見やノウハウが社内にまだ十分蓄積されていませんでした。そこで営業部の担当者と、医薬品関連の規制や中東ならではの商慣習・規制などについて、外部法律事務所の弁護士の力も借りて勉強し、対応しました。中東企業との契約交渉、内部での対応会議など、営業部と日々、あれこれアイデアを出し合って取り組みましたが、法務内では案件対応を基本的に一任してもらいました。即戦力採用とはいえ、入社したての私にここまで任せてくれるのかと、丸紅法務部の度量の広さに正直おどろきました」

  • 丸紅株式会社
    取材には有泉部長と、営業案件を担当する法務第一課のメンバーに参加いただいた。左から、神子日路奈氏、岡本靖氏(課長/58期/ニューヨーク州弁護士)、細井亮祐氏。コミュニケーションラウンジにて撮影
  • 丸紅株式会社
    執務エリアに設けられた「Round」というフリースペース。なお、同オフィスは「第35回 日経ニューオフィス賞」のクリエイティブ・オフィス賞を受賞

個人裁量が大きく、任せてもらえる風土

法務部には若いうちから大きな仕事を任せる風土がある。有泉氏は言う。

「これは全社的な風土でもありますが、我々は、失敗を恐れず果敢に挑戦する人を応援します。とはいえ任せるには相応のバックアップ体制が必要です。当部の部員育成は基本的にOJTですが、インストラクターとなる先輩1名がしっかりサポートします。また、20代後半から30代前半までに、米国ロースクールや中国語学学校などの海外研修を経験させます。そうした機会を通じて、自分の幅を広げ、自立的に働ける力を養ってもらいたい。当部は『若手をしっかり育てていこう』という意識が非常に高く、実際に若手は、自分が思い描くキャリアを築けていると思ってくれているようです」

「重要案件の社内決裁では、法務の見解をまとめるにあたり、別の課の課長などを交えた検討会を実施します。法務は少人数チームで対応することが多いのですが、部全体のナレッジを結集し、多角的な観点から検討して適切な経営判断に貢献していこうという趣旨です。私にとってはそれが、様々な視点からの意見や気づきをもらえる貴重な機会となっています。他者のアイデアや意見を積極的に取り入れる風土であることも、当部の特徴と感じます」(細井氏)

部内ローテーションは3~5年ごとに行われる。風通しも人間関係も良い理由を、法務第一課課長の岡本靖氏は次のように語る。

「フレックス制度やリモートワーク、育児休暇などを活用してワークライフバランスを重視した働き方を推奨する一方、会議や研修などを含めて、部員同士のコミュニケーションの機会をしっかりと確保。全部員を対象に実施したエンゲージメントサーベイでは、ほとんどの部員が『部内の人間関係が良い』と回答しています」

神子氏は、数年前、国内外のグループ会社の統合・再編という大型M&A案件を担当した。

「育休復帰直後に担当した案件で、途中、第二子の産休に入ることが判明してからも産休直前まで任せてもらえました。時間的な制約を考慮し、同僚とペアで担当させてもらったこともありがたかったです。各自のライフスタイルを尊重しつつも、キャリアに応じた仕事をアサインしてくれる当部の方針・風土に感謝するとともに、それが次の仕事、次のステップにも果敢に挑戦しようというモチベーションになっています」(神子氏)

ビジネス理解を深め、専門性をさらに向上

法律事務所出身の弁護士である岡本氏に、同部の仕事の魅力をうかがった。

「ビジネスの現場で、現場目線で仕事ができること、当社事業にかかわるあらゆる法分野について学べることなど、“ビジネスの当事者”として、提案・判断を行える点がインハウスローヤーとしての最大の魅力です。“商社パーソン”として、そのように幅広いビジネス・法分野の対応をしていくうちに、法律家として究めたい専門分野も、きっと見つかるでしょう。自己成長の機会がたくさん得られる環境であると思います」

有泉氏は、同部の今後の展望を次のように語ってくれた。

「業務の効率化を推し進め、部員が高度な法的判断業務に特化できる環境をさらに整えていきます。そもそもグローバルな事業展開を行う総合商社の法務部員は、国内外の関連法令・法制度などについて、常に最新の知識を備えておかねばなりません。そのため数年前からナレッジのプラットフォーム構築と運用に取り組んだ結果、一定の成果を上げており、経営や営業本部からの信頼も高まってきていると感じています。また、DXやGXといった先端的な分野の法務知識、新たな法令・法制度の知識の習得を推進し、それらに関連する案件が生じた際には、部として即座にアクションが起こせる体制の構築も進めています。そのうえで、経営、営業部などすべてのステークホルダーとのコミュニケーションを一層深め、リーガルニーズと課題をつかんで対応し、新たな事業の創造、ひいては企業価値の最大化に資する機能を担う存在になりたいと考えます」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。