丸紅株式会社は、生活産業、素材産業、エナジー・インフラソリューション、社会産業・金融、次世代事業といった5つの事業領域で16の営業本部を組織し、国内外取引、事業投資、資源開発などの事業活動を展開する。中期経営戦略ではVUCAの時代を踏まえ、2022年度~24年度を、既存事業の強化と新たなビジネスモデルの創出による成長を果たす“戦略実践の3年間”と定めた。この“戦略実践”で、プロアクティブなサポートを求められるのが同社法務部である。部長の有泉浩一氏に同部のミッションをうかがった。
「私が法務部の重要な役割と部員に伝えているのは、“パートナー&ガーディアン”です。伝統的な日本の法務部によく見られた牽制的な役割だけでなく、経営に対して法的なリスクを正確に提示し、意思決定者が的確に判断できるようにする、営業活動に必要な検討事項を営業本部と考え、案件を構築していく――そうしたパートナーとしての役割が重要と考えています。パートナーとガーディアン、両軸で企業価値の向上に資することが、我々のミッションです」
同部は、営業案件を担当する法務第一課~四課、コーポレートガバナンス関連対応の総務課、戦略企画・人財・DX関連担当の企画・開発課の6課で構成される。
「営業案件を担当する法務課は、各営業本部の契約相談や法律相談、紛争案件の対応管理、法律事務所対応、事業案件などの社内決裁対応、債権回収や担保対応などに携わります。なお、コーポレートガバナンス体制の構築・運営、株主総会・取締役会などの事務局、社内規程、各管理部門の相談対応などは総務課の担当です。部員は、経営企画部など本社内の他部署や、鉄鋼、IT、不動産といった関連会社への出向、米国をはじめ主要海外拠点法務部での駐在の機会もあります。東京本社法務部から、現在7名の海外駐在員を送り出しています」(有泉氏)
総合商社がかかわる分野・業界、国、関連する法規制は多種多様だ。法務部員は“総合商社の仕事”でどのようなやりがいを得ているのか――航空・船舶、モビリティ、次世代事業などの営業案件を担当する法務第一課の神子日路奈氏、細井亮祐氏に聞いた。
「時代の変化を先取りして事業内容も日々変化するので、飽きることがありません。直近の例としては、日本におけるエアモビリティの事業化に向けたサポートがあります。これは“空の移動革命”と言われており、国内では法整備もこれからの分野。25年の大阪・関西万博での試行や社会実装を目指し、各自治体と連携、関係各社と協議を進めている段階です。こうした新規ビジネスでは、想定していなかった法令・許認可などについて調べる必要性が生じます。例えば、和歌山県でのヘリコプターを使ったモニターツアー開催に関連して、旅行業法上の問題を調査しました。新卒入社から15年以上経ちますが、旅行業法の取り扱いはその時が初めて。そのように商社の法務は、何年経っても新しいことが学べる魅力的な仕事です」(神子氏)
細井氏は、21年にIT関連企業法務部から即戦力として中途入社。転職後、日々新たな法分野と対峙しているという。
「入社後すぐに担当したのは、中東地域の医薬品販売会社への投資案件でした。医薬品・ヘルスケアは当社が今後特に伸ばしていきたい領域の一つで、知見やノウハウが社内にまだ十分蓄積されていませんでした。そこで営業部の担当者と、医薬品関連の規制や中東ならではの商慣習・規制などについて、外部法律事務所の弁護士の力も借りて勉強し、対応しました。中東企業との契約交渉、内部での対応会議など、営業部と日々、あれこれアイデアを出し合って取り組みましたが、法務内では案件対応を基本的に一任してもらいました。即戦力採用とはいえ、入社したての私にここまで任せてくれるのかと、丸紅法務部の度量の広さに正直おどろきました」