組織内弁護士が普及するとどんなメリットがあるのか。室伏氏は次のように言う。
「組織内弁護士の積極的な関与により、コーポレートガバナンスが整備されることで、端的にはすべてのステークホルダーがその企業の評価を高め、企業価値の向上をもたらします。また、信頼性の担保により、成長する企業が増えることで、日本経済全体に発展をもたらし、ひいては国民全体に恩恵が及ぶことになるでしょう」
昨今、コーポレートガバナンスやコンプライアンスの未整備から不祥事を起こす日本企業が多発し、海外の投資家の日本企業を見る目が厳しくなった。組織内弁護士が力を発揮できる仕事は格段に増えている。しかし、経営サイドに直言できる管理職クラスの組織内弁護士がまだ少ないのも事実だ。
「その意味においても、日本にもアメリカ同様ジェネラル・カウンセルを導入すべきだと考えています。ジェネラル・カウンセルとは、社長に直言できるナンバーツー的存在の組織内弁護士。その下に法務部を置いて運営させることで、はじめて全社内的なリーガルマネジメントが可能になると思っています。私はクレディ・スイスの東京でジェネラル・カウンセルを務めており、その効用を実感しています。企業へのジェネラル・カウンセルの導入・促進のアプローチも、今後のJILAの検討課題の一つです」
では、企業内弁護士にはどのようなやりがいがあり、ロー・ファームに所属する弁護士とどんな違いがあるのだろうか。
「組織内弁護士は、所属する組織の業務と非常に近いところで、当該業務プロセスの最初から最後まで一貫して深くかかわることができます。社外の弁護士が、ある程度交通整理された状態で一部分を任されるのと大きな違いがありますね」
ロー・ファームの弁護士は、顧問であるないにかかわらず、顧客から依頼を受けて初めて仕事がスタートする。しかし、組織内弁護士は、そうはいかない。
「社内のどこかに問題が潜んでいないか能動的にウォッチする必要がありますし、自らプロジェクトに参加してリーガル面からビジネスをリードする役割も期待されます。そうした面で、高いコミュニケーション力や自社ビジネスへの深い興味関心が求められると思います」
室伏氏は、個人事業主として働く多くのロー・ファームの弁護士と比べ、一般事業会社で働く組織内弁護士は、おしなべて就労環境が整っていると言う。
「社内の制度がしっかりしていて同僚のサポートがある職場も多いので、性別を問わず、子育てや介護などへの対応を含めワークライフバランスを図ることを大切に思う人たちにとっては、とても向いている職場だといえるでしょう。ちなみに、上場企業が一人ずつ組織内弁護士を導入するだけで、約3500人の弁護士が必要になります。まずはそれくらいの普及を目指したい。そのために、経団連などにも働きかけていきたいと考えています。一人でも多くの優秀な弁護士が、この働き方に挑戦してくれることを期待しています」と室伏氏は結んだ。