インハウスローヤー(組織内弁護士)と社外弁護士は共存共栄の関係にある
組織内弁護士(企業内弁護士および行政庁内弁護士)の社会的な位置付け、あるいは現代社会における存在価値とは何だろうか。
弁護士法改正を含む一連の司法制度改革の結果、司法試験合格者が倍増すると共に、弁護士が企業や行政庁に勤務することについての規制が撤廃され、こうした分野に弁護士が次々と進出するようになってきた。こうした動きをどう見るべきか。梅田氏の見解は次のとおりだ。
「確かに、司法制度の改革によって弁護士が増えてきたのは事実。一部の地域を中心に弁護士の就職難も聞かれますし、『いずれ余るのでは』という見方もあります。そのためか、弁護士が企業や行政庁に進出するのは、働き口がないからだと受け取る向きもあるようです。しかしそれは、司法制度改革の原因と結果を完全に取り違えています。なぜなら、弁護士過疎の問題を解決すると共に、企業や行政庁で働く弁護士を増やすことで社会基盤を整備することを目指したのが、弁護士数の大幅増員を含む司法制度改革のねらいそのものだったからです。ようやく日本の弁護士にも多様性の時代がやってきたのです」
法曹人口の急増と組織内弁護士への参入規制の撤廃は、法曹界にも大きな衝撃を与えている。特に法曹界の内部からは、弁護士の独立性を脅かすのではないかとの危惧感も未だに根強い。
「従来は権力からの独立という観点から、公務員への就任は原則として禁止されており、営利法人の従業員や役員になるときも許可が必要とされてきました。いずれも『弁護士としての独立性』を確保するためと説明されてきました。しかし、企業や行政庁は、弁護士の専門性に期待して雇い入れる訳ですから、専門的判断を述べることの独立性、すなわち、英米法でいうところの『プロフェッションとしての独立性』については常に保証されているといって差し支えないでしょう。もしそうでないのなら、そもそも一般の職員よりも高い給料を払ってまで雇う理由がありません。プロフェッションとしての独立性を保ち、組織内の特定の部署や個人、特定のステイクホルダーなどに惑わされず、常に組織の利益を第一に考えて行動することは、組織内弁護士としての職務の当然の前提となっているものです」
近年では海外との渉外活動だけでなく、国内におけるビジネスでも弁護士を用いた法的な施策が不可欠になっている。従来のように外部の顧問弁護士を活用するだけではなく、企業が「組織内」に弁護士を置く。
では、弁護士を組織内に置くことのメリットとは何か?
「この辺り、外部のいわゆる社外弁護士と比較してみれば、その役割の特徴がおのずと分かるかと思います。企業の法務案件は一般的に、(1)法的問題の把握、(2)解決方針の策定、(3)案件処理、(4)案件の終結、(5)日常業務へのフィードバック、という一連の流れを辿って処理されていきます。このうち、一般的に社外弁護士が処理するのが(3)の案件処理の部分です。これに対して組織内弁護士は、案件が生じるところから最後の仕上げ、さらに案件自体を次のビジネスにフィードバックしていくところまで、(1)から(5)まで全体が仕事の領域になります。まさに、案件の『入口』と『出口』をしっかり押さえ、その案件自体の社内での位置付けや価値までも左右していく訳です。『案件の頭から尻尾まで関与するのが組織内弁護士』という表現をされる方もいますね」
このように組織内弁護士の「存在価値」は明白なようだが、従来の顧問弁護士の存在を否定しているわけではない。むしろ、組織内弁護士が増えることによって、外部から関わる弁護士の活動も、より活発になると梅田氏は力説する。
「組織内において、組織内弁護士が活躍する場面が増えていけば、企業が抱える(主に法的な)問題点を次々と発見することにつながる。それによって、業務を外部に依頼する機会も増えるでしょう。また、依頼する側が弁護士であれば、顧問弁護士を始めとする外部の専門家への要求水準も高くなる。外部と組織内の弁護士がより密接に連携すればするほど、事業そのもののレベルも上がるはずですし、社会への貢献度も大きくなるに違いありません。また、例えば頻繁に開かれ専門性や機密性も高い取締役会に毎回出席するのであれば社内弁護士が向いていますが、株主総会については、多くの会社の株主総会を見ている社外弁護士の方が専門性の点からも、第三者性の確保の点からも向いているとも言えます。社外弁護士と社内弁護士は共存共栄の関係にあるわけです」
最後に、こうした社会的使命を負う組織内弁護士の仕事の醍醐味を、梅田氏にあらためて問うた。
「組織内弁護士の魅力は『クリエイティブな仕事ができる』という点に集約されます。社外弁護士の仕事の多くは、それが訴訟であれ、契約交渉であれ、M&Aであれ、それ自体を自ら主体的に始めようと発案する訳ではありません。しかし組織内弁護士の場合、同じ組織の一員としての立場から、社内の事業分野や経営者に対し、効率化やリスクヘッジの手法などを積極的に提案することで、企業そのものの仕組みを創造していくことができます。就業規則の改正から、場合によっては組織再編まで、『自分と会社にとって、よりよい姿』をカスタマイズしていくという楽しみが持てるのです。社内の他部署からアドバイスを求められて初めて動くのではなく、企業の各部署に自らアプローチしていく。独立性について危惧する方がいるようですが、正に組織の一員だからこそ『こんなことができる』と直に発言できる訳で、それこそが、私たち組織内弁護士の強みであり楽しさなのです」
組織の一員だからこそ経営者にも直言でき、実現できることもあると説く梅田氏。これからの企業経営には、彼ら組織内弁護士の持つ弁護士としての専門性と、組織の一員としての一体感、そして、個々の資質である創造性が欠かせない要素となっていくことは間違いない。
現在、インハウスローヤーを置いている主な企業
日本組織内弁護士協会が保有する、「日本組織内弁護士協会会員一覧」会員一覧より、正会員である59名の組織内弁護士の所属企業を掲載した。
国内の名だたる企業あるいは行政庁が、弁護士を雇用していることが分かる。(法人格省略・50音順)
アメリカンファミリー生命保険/アルパイン/アルプス電気/NTTコミュニケーションズ/大阪証券取引所/オリックス/外務省国際法局/カーバル・インベスターズ・ピーティーイー・リミテッド/金融庁証券取引等監視委員会/金融庁検査局/KDDI/公正取引委員会/ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン/CBREレジデンシャル・マネージメント/GEコンシューマー・ファイナンス/JSR/シスメックス/シャープ/新潮社/新日本監査法人/スズキ/スパークス・アセット・マネジメント投信/住友化学/住友商事/住友生命保険相互会社/ソフトバンクIDC/第一生命保険相互会社/第一フロンティア生命保険/大東建託/中央三井信託銀行/ドイツ証券/東京ドーム/特許庁制度改正審議室/ドリーム・インキュベータ/名古屋テレビ/日本IBM/日本テレビ放送網/日本放送協会/バイエル薬品/万有製薬/フィデリティ投信/富士通/マイクロソフト/松下電器産業/三井住友/ヤフー/りそな銀行 など
出典:「日本組織内弁護士協会会員一覧」(2007年10月7日現在)