――これまで担当した中で印象的な事件は?
エレベーター事故、リコール未回収製品による事故などたくさんありますが、社会的に大きな関心を集めた「パロマ湯沸器死亡事故」でしょうか。
パロマ製のガス湯沸器の欠陥により、20年間で、一酸化炭素中毒事故が28件も発生(死亡21人・重軽症19人)。近々の事故は2005年に起こっています。東京港区の家庭で1人が死亡、1人が重症を負った事故で、刑事と民事の両方で争い、どちらとも勝訴しています。
刑事事件になったことで、被告人の供述調書や事故現場の写真、製品の調査結果などたくさんの証拠が揃いました。我々は、犯罪被害者参加制度によりパロマの業務上過失致死罪刑事事件の証拠書類を閲覧・コピーすることができ、裁判を有利に進められたわけです。
実はPL事件は、勝訴に至らないケースも多々あります。しかし、裁判を続けるなか、被告の企業が製品を安全な仕様に改良したり、事故が報道されることによって製品の売り上げが急落して製造中止になることもあります。ですから、勝ち負けだけではなく、PL訴訟を起こすこと、そのものに社会的意義があるのです。
ひとつ間違えば消費者の命を脅かすリスクを持って世に送り出される製造物は今後もなくならないでしょう。人命をないがしろにして儲けを追求する企業は到底許せません。企業はより安全に配慮して製品をつくる、製品に欠陥が見つかればすぐ改良する、被害を受けた消費者には十分な補償をする。これらのことをしっかり遵守してもらいたい。そのために、現状の日本の法制度ではまだまだ不十分なので、法制度の改革にも意見を表明していきたい。しかし今も、PL事故の被害者はたくさんいます。今後も一つひとつの事件に注力し、彼らを救済する努力を積み重ねていきます。
――若手弁護士に対するメッセージをお願いします。
人と企業が存在する社会が続く限り、PL事件は絶対になくならないばかりか、増加するのは確実です。従ってPL問題に精通する弁護士が活躍できる場が増えることが予測されますが、専門的な知識やノウハウ、スキルが必要なため、まだまだその数は不足している状況です。
今後も東京PL弁護団の活動を通じて、PL事件に力を発揮してくれる弁護士をたくさん養成していきたい。特に若手弁護士の方々には、ぜひともこの分野に興味を持ってほしいと思っています。