Vol.97
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法務部は16名の陣容(2026年5月時点)。中途採用者は全体の約3分の1で、弁護士は、石田氏(62期)、實方氏(63期)の2名。なお、両氏はロースクール修了後に入社。「リスクマネジメントと法務組織の強化を目的に、2010年に当社初のインハウスローヤーとして採用されたのが石田です」(荒井氏/後列左から4人目)

法務部は16名の陣容(2026年5月時点)。中途採用者は全体の約3分の1で、弁護士は、石田氏(62期)、實方氏(63期)の2名。なお、両氏はロースクール修了後に入社。「リスクマネジメントと法務組織の強化を目的に、2010年に当社初のインハウスローヤーとして採用されたのが石田です」(荒井氏/後列左から4人目)

THE LEGAL DEPARTMENT

#175

株式会社西武ホールディングス 法務部

鉄道・ホテルなど“事業の現場”に寄り添い、グループの健全かつ持続的成長に寄与する

複合事業を支える伴走型法務の構築

株式会社西武ホールディングスは、不動産、ホテル・レジャー、鉄道など多様な事業会社を抱える持株会社だ。都市交通を支えるインフラ機能と沿線開発や観光事業を組み合わせた独自のビジネスモデルで、暮らしと移動、余暇などの事業を総合的に創出してきた。近年はグループ経営体制を強化し、事業間のシナジーをさらに高めながら持続的成長を目指している。こうした事業構造のもと、グループ全体のリスク管理と事業推進を両立させるため、2025年に法務部を新設。執行役員法務部長の岩﨑則雄氏に、背景を聞いた。

「当グループでは、コロナ禍を契機に、ビジネスモデルの転換を図ってきました。レジリエンスでサステナブルな成長を実現すべく、ホテル事業ではオペレーションに特化した会社を新設し、運営受託により飛躍的にホテル数を拡大させる戦略に舵を切りました。不動産事業では、保有型と回転型の両輪での成長を目指しています。また、海外展開や新規投資も活発です。こうした構造変化のなかで顕在化してきたのが、“法務機能の分散による限界”でした。従来は、各社管理部に法務担当を置き、それぞれで案件対応していましたが、事業の高度化・多様化により、個社単位かつ少数メンバーでは十分にカバーしきれない領域が生じてきました。ナレッジの共有や活用を通じ、グループ横断での法務機能を強化する観点から、法務部の新設に至りました」

法務部は、担当する事業部門により、「グループ法務」「都市交通・沿線」「ホテル・レジャー」「不動産」の4チームで構成されている。各チームの主な業務は、担当事業部門の契約書審査や法律相談、予防法務、訴訟対応など。ちなみに契約書審査は、時期や担当事業部門によって増減があるものの、おおむね月に300~440件にも上る。岩﨑氏は言う。

「事業部門からは、日々様々な法務相談が寄せられます。膨大なグループ社員の全員が法務の知見に長けているわけではありませんから、私たちは相談者に親身に寄り添う姿勢を何よりも大切にしています。また、相談内容やプロジェクト規模の大小にかかわらず、初期段階から完了まで伴走し、各段階におけるリスクの整理や方針妥当性の確認などのハンドリングも行います。さらには、予防法務の観点から、社員向けの研修やガイドライン、マニュアルなどの整備・周知にも取り組んでいます。こうした幅広い業務を通じて、グループ全体のリスクを適切にコントロールしていくことが、法務部の基本的な役割といえるでしょう」

法務部内で活用頻度が高いワークスタイルは、フレックスタイムとテレワーク。基本的に働き方の判断は各自の裁量に委ねている

事業の現場で問われるスキーム設計と実行力

各チームは、どのような案件に関与しているのか。都市交通・沿線チームに所属する石田梨紗氏に、具体的な取り組みを聞いた。

「私たちのチームでは、西武鉄道株式会社および沿線のレジャー施設を運営する子会社などの法務を担当しています。事業連携の一例が、『西武線アプリ』のサービス拡張です。従来の時刻表や運行情報提供に加え、特急券・指定券やイベントチケットの販売、沿線にあるエンターテインメント施設などの他社チケットも取り扱えるアプリで、新たな機能搭載に向けたスキーム設計や契約関係の整理を事業部門とともに進めました。また、鉄道事業者間で連携した太陽光発電事業への出資や、そこから調達した電力で鉄道を運行する取り組み、駅のロッカーで預かった荷物を宿泊先へ配送するサービスの立ち上げなどでも、スキーム設計、許認可対応、関係者との調整などを担い、初期段階から事業の立ち上げを支えました。複数の事業者や制度が交錯する本案件を通じて、社内外の関係者とのコミュニケーションがかなり深まりました」

實方摩由子氏は、ホテル・レジャーチームにおける取り組みを教えてくれた。

「私たちのチームは、株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドと、その国内外の子会社を担当しています。同社では不動産を保有せず、運営に特化した“ホテルオペレーターへの転換”を図っていますが、これはオーナーとの契約に基づいて運営を行うアセットライト型のビジネスモデルで、賃貸借や運営受託など複数のスキームを組み合わせていく必要があります。契約スキームが複雑化し、利益配分や責任分担の設計、各国の規制への対応など、法務の関与領域が広範囲に及ぶ、国内でも比較的新しいビジネスモデルの創出に関与しています。『2035年度までに250ホテル体制を構築する』という目標のもと、国内外でのホテル開業や海外のホテルグループのM&Aも進んでおり、私たちもスピード感を重視して業務に取り組んでいます」

また、荒井啓一氏(課長)が率いるグループ法務チームでは、株式会社西武ホールディングスとその子会社の一部の法務をはじめ、投資や提携に伴う契約対応、複数のM&A案件にも関与している。西武グループの主要事業領域である不動産チームの仕事については、荒井氏が教えてくれた。

「不動産事業は鉄道やホテルといった各事業を支える基盤であると同時に、グループの持続的な成長戦略を担う中核領域です。これを支える不動産チームは、保有アセットの活用や成長投資を軸として、まちづくりを踏まえた再開発・運営といった不動産に付加価値をつける事業の展開に寄与しています」

多様な事業領域を守備範囲とする法務部の魅力を實方氏に聞いた。

「法務部は4つのチームに分かれているものの、チーム連携で進める案件も多く、ほかのチームが得た法的知見を学ぶ機会に恵まれています。チームごとに事業領域に関連する業法や事業環境、商慣習や考え方など〝文化〟は違いますが、“縦・横・斜め”の連携が密で、他事業の文化を学びながら、一体感を持って業務にあたれていることを魅力に感じています」

石田氏も、法務部の仕事の魅力について語ってくれた。

「いまだに毎日が勉強です。特に鉄道分野については、入社当初は現場の仕事をほとんど知らない状態でしたので、現場の方々がどのような業務を担い、どのような場面で課題やトラブルが生じやすいのかなど、一つひとつ教えていただきながら理解を深めました。鉄道営業法をはじめとする業法もかかわるため、運輸部門の方々のほうが実務に精通していることも多く、規則なども含めて現場から学び、対応しています。このように現場と一体となって事業理解を深め、自分自身の成長を感じられることが、この仕事の魅力です」

不動産事業、ホテル・レジャー事業、都市交通・沿線事業を中心に、人々の生活に密着した幅広い事業を展開する西武グループ

価値創出を実現する法務組織のあり方

岩﨑氏が考える法務部のミッションは、次のとおり。

「一つめは、事業を支える“パートナー”になることです。法令に照らし、適切であれば事業を後押しし、問題があれば見過ごさずにブレーキをかける。そうしてグループ全体の企業価値向上につなげていく。二つめは、“内にも外にも開いた”組織であること。個々が持つナレッジをチーム内で共有し、組織の力に変え、同時に事業部門や現場とも積極的に連携して、現場で起きている課題に寄り添いながら対応していく姿勢を大切にする。特に当社はBtoC事業を多く展開しているので、現場には多様な法的課題が存在します。そうした“現実の課題”にしっかり向き合い、支えていきたいと考えます。三つめは、積極的かつ能動的に行動し、視野を広げていくことです。法務としての専門性を高めることに加え、経営視点を持ち、中長期的には経営に求められる法務部となり、健全かつ持続性のあるグループの成長を支えていく存在になりたいと考えています」

最後に、法務部が大切にしている“人財育成の基本”を聞いた。

「まず、“原典に当たる”、です。法令や規程については条文に立ち返って確認することを徹底しています。併せて、契約や相談対応、社内教育などの場面では、相手にしっかりと伝わる言葉を選ぶ。強い“目的思考”も大切です。原典に基づいた判断力、伝える力、そして目的から逆算して行動できる力を備えた法務人財の育成を目指していきます」(岩﨑氏)