Vol.63
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写真左から、古手川隆訓弁護士(58期)、大武英司弁護士(66期)、黒﨑裕樹弁護士(64期)、高山桂弁護士(68期)、林田芳弘弁護士(70期)、岡本明弁護士(66期)、碓井晶子弁護士(69期)、戸田晃輔弁護士(68期)、森田博貴弁護士(67期)、茂木佑介弁護士(64期)、永渕友也弁護士(65期)

写真左から、古手川隆訓弁護士(58期)、大武英司弁護士(66期)、黒﨑裕樹弁護士(64期)、高山桂弁護士(68期)、林田芳弘弁護士(70期)、岡本明弁護士(66期)、碓井晶子弁護士(69期)、戸田晃輔弁護士(68期)、森田博貴弁護士(67期)、茂木佑介弁護士(64期)、永渕友也弁護士(65期)

STYLE OF WORK

#116

弁護士法人グレイス

市場開拓、事務所運営に独自の視点で斬り込む。鹿児島発、“ニュータイプ”法律事務所の挑戦

東京も地方も変わらない。むしろ地方の方が弁護士が活躍できるチャンスは多い

弁護士法人グレイス
古手川隆訓弁護士/日本アイ・ビー・エム株式会社勤務を経て、弁護士に。東京都内の法律事務所で3年勤務したのち、独立。「弁護士は法律を扱うサービス業である」という考え方の根底には、企業人時代の考え方・経験が生かされている

桜島の御岳を望む鹿児島市の中心地に、活気に満ちあふれた法律事務所がある。それが、弁護士法人グレイスだ。開設者は、古手川隆訓弁護士。2009年に古手川総合法律事務所を開業し、13年の法人化と同時に名称を変更した。東京にも支社を持ち、顧問先は300社を超え、増え続けている。この勢いの源は何か、古手川弁護士に伺った。

「私たちは通常の客観的アドバイス業務にとどまらず、各企業の法務部のかなり深いところまで踏み込みます。〝法務のアウトソーシング先〞のような関係で仕事ができる安心感が、顧問先を増やすことができている一番の理由ではないでしょうか」

「法律事務はサービス業」が、事務所の理念。弁護士の型にはまらず、顧客に満足してもらうには何が必要かを徹底して考え、提供するのが全所員の姿勢だ。

「顧問先から、人材採用や育成に関する相談を受けるケースが多々あります。特に鹿児島の一次産業企業では、人手不足が深刻。法律相談ではないけれど、その問題解決に貢献したいと考え、外国人技能実習生を受け入れ・サポートする組合支部を立ち上げました。当該事業の知見を生かし、所内に外国人技能実習生の監理団体に向けた技能実習制度に関する専門窓口も設置。相談件数も増えています」

顧客のために新領域に挑戦し、法的サポートを必要とする市場を開拓しているわけだ。自ら仕事をつくり出し、顧問先を増やすことで経営の土台を安定させる――事業会社での営業経験を持つ古手川弁護士ならではの発想力と瞬発力が、事務所運営に生かされている。また、組織体制もグレイスならでは。

「当事務所では、企業法務部、事故専門部、家事専門部と、取り扱い分野を大きく3つに分けた事業部制を導入しています。地方では総合力が必要といわれますが、強い法律事務所は本来、専門性が高いブティック型であると私は考えます。ゆえに、限りなくブティック型に近づけるため、この体制を構築しました」

実際、企業法務部と同様に、事故専門部、家事専門部の相談件数も伸びている。分野特化しているのでリサーチ対応が早く、高度な専門知識が期待でき、顧客に支持されやすいのだ。しかし、事業部制を導入した本当の理由は〝人材育成〞にある。

「入所後、専門分野をじっくり扱うので、若手の成長が格段に早いのです。本人が希望すれば、遠方であっても費用を負担してセミナーや勉強会に参加させていますが、現場で身につく知識・経験の量と質は、その比ではない。また、一般企業のような事業部長職も設けていて、部長になった弁護士には人材採用の決裁権を与え、教育方法もその人のやり方を尊重します。一方で、事務スタッフを含めた一人あたりの毎月の生産性を、私と各部長で必ず確認。各部長は常にそれを意識しながら業務を進めなければなりません。つまり、経営がきちんとわかる弁護士が育つ。若手もベテランも、未来に必要な能力が得られることが、事業部制導入の最大のメリットです」

弁護士法人グレイス
対応力やコミュニケーション力が高く、顧客から高評価を得ている事務スタッフ。「事務スタッフの対応一つで法律事務所の敷居は下がる。彼らも含めて、私たちは法律のプロ集団といえるのです」と古手川弁護士

古手川弁護士は、弁護士になったら3年で独立・開業すると決めており、地縁のない鹿児島を開業の地に選んだ。その理由は、「下見に来た時、土地の環境もいいし、休日は趣味の釣りが存分に楽しめそうだった」から。迷うことなく決断したという。

「独立するなら地方でと決めていました。その根底には、『これからは他の弁護士と同じことをしていたらダメだ。あえて違うことをしなければ』という思いがあったからです。鹿児島で仕事を始めた実感としては、M&Aなど一部の案件を除けば、地方も東京も仕事の中身はさほど変わらないということ。『地方だから大変』『エキサイティングな案件がない』ということは、まったくありません。むしろ地方のほうが、弁護士が活躍できるチャンスは多いと思います」

古手川弁護士は「弁護士は自分自身が商品であり、自分の力で飯を食っていくもの」と考えている。同事務所では独立前提で入所している弁護士もいて、そうした弁護士も含め、「経営のノウハウを惜しみなく教えていく」と古手川弁護士は語る。

「独立を応援するし、『完全な独立は心細いが、別の土地でやってみたい』という弁護士なら、うちがのれん分けのようなかたちでコストを負担し、開業をサポートすることも考えています。各弁護士の『やってみたい!』という思いを実現できる事務所でありたいですし、『弁護士や事務スタッフが、いかにハッピーになれるか』を、今後も私なりに追求していきたいと思います」

古手川弁護士の取り組みは、地方におけるリーガルアクセスを改善し、かつ質の高い法的サポートを誰もが受けられる社会になるための起爆剤であるかもしれない。

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    月1回、古手川弁護士と各事業部長で、営業報告や営業戦略会議を行う。事業部制にしたことで、事業部間に競争意識が芽生え、生産性向上などの経営メリットが生まれている
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    セミナーや講演後のアンケート回収とフォローアップが、顧客(顧問先)獲得の一助に。そうした対面コミュニケーションとWebサイトによるマーケティングを活用した顧客との関係づくりにも力を入れる
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    2016年10月、屋久島へ所員旅行。事務スタッフも大勢参加し、親睦が深まった
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    古手川弁護士の趣味は釣り。メンバーと離島へ出かけることもある。なお鹿児島事務所では、同県出身の弁護士は1名のみ。埼玉など他県から移住した弁護士が活躍している