最初の顧問先は2件(現在は55社以上)。樋口弁護士はどのように事務所を成長させてきたのか。
「企業の経営者、士業仲間、留学時に出会った方、お世話になった法律事務所など、種を蒔いたあらゆる人脈からの紹介で仕事が増えていきました。〝人間関係をつなげること〞はとても大事です」
新規の依頼があった時は、可能な限り自ら出向く。
「事務所で依頼者を待つのではなく、こちらから出かけて行く。すると、その企業の雰囲気、事業の状態がよく見え、提案もしやすい。受け身でいたら知り得ない多くの情報が現場にあります。また、出向くことで先方の弁護士に対するハードルがぐっと下がるのを実感します。でもそれは、事業会社の営業職なら当たり前に行うことですよね」
樋口弁護士は「依頼者にとって身近な存在でありたい。遠慮せず相談してもらい、ビジネスを良い方向に導くお手伝いがしたい」と言う。また「自ら動けば動くほど、新たな仕事が生まれる」とも。この姿勢と行動力が、事務所の堅固な土台をつくってきたのだ。
顧客層は中小企業を中心に、一部上場企業まで様々。業種も、メーカー、商社、IT、サービス、エンタメと多様で、外資系企業もある。業務の約半数が国際取引契約、海外進出支援、インバウンド案件などの国際系だ。
「香港や英国での企業買収、アメリカでの物流拠点設立のような案件もありますが、大手事務所が手を出したがらない小ぶりなレベル感の、しかし中小企業にとっては重要な事案が大多数です。派手ではないけれど、誰かがやる必要がある案件ばかりです」
中小企業からの依頼の多くは、海外展開にあたっての英文契約書作成など予防法務的な案件だ。
「どこから手をつけるべきかわからないという場合は、問題点の洗い出しからサポート。契約案件では、要望に応じ、前面に出て交渉することもあれば、黒子に徹することもある。中小企業の場合、ガチガチの契約ではだめで、バランスを取ることが大事。そのツボを心得ていることに価値を見いだしていただき、気軽に相談できる事務所と思っていただけることが私たちの喜びです」
同事務所では、近年、国際相続の相談が増えているそうだ。
「『亡くなった夫の資産がタックスヘイブンを含む地域に散逸しており、どこから着手してよいかわからない』という類のご相談は増えています。その場合、香港、シンガポールなどの手続に協力してくれる現地弁護士が必要ですが、ここでも、これまで培ってきた〝海外ネットワーク〞がものをいいます」
海外の企業案件から個人案件まで網羅できる理由は、樋口弁護士がAIJA(国際若手法曹協会)やIBA(国際法曹協会)といった国際団体で活発に活動しているからだ。
「世界中に、顔が見える弁護士仲間がいます。地域を問わず顧客の希望を叶えるために、海外ネットワークでの情報交換や直接交流を常に怠らないようにしています」
困っている人を助けるのは弁護士の社会的責任。ボーダーレスな時代、弁護士業務もボーダーレスな対応を――これが樋口弁護士の仕事の基本スタンスなのである。