「先述のとおり、〝個〞を伸ばすことを重視しているため、グループ制やディビジョン制は敷いていません。組織のセクショナリズムに陥ることなく、アソシエイトが様々なパートナーと組み、そのなかで自ら独自性を見つけ、育んでいってほしいと考えています」
そんな同事務所が掲げる理念は、「チームワーク・クオリティー・コミュニケーション」だ。
「我々は早期から全国規模の案件を対象とし、かつ国際化にも対応できる総合法律事務所となるべくこの理念を掲げてきました。一人で一つの案件を抱え込まず、必ずチームで取り組む。時には非効率となるケースもありますが、教育効果を第一に考え、続けているのです。若手はベテランから学び、逆にベテランが若手から学ぶことも多い。双方にとって教育効果は高いと考えます」
教育体制の一環であり、国際化への対応を図るため、留学も支援している。近年では手塚弁護士がロンドン大学、松宮弁護士がサウザンプトン大学でLL.М.を取得し、2年目は現地法律事務所で実務研修を積んできた。
〝個〞を伸ばす試みは、パートナーとなる力を育むことでもある。それには経営者感覚も必要だ。同事務所では、アソシエイトもパートナーも、個々の売り上げをオープンにする。「若手の頃は、自分の給与額は今の働きに値するのかと悩むこともありますが、ただ事務所運営や経営参画という意識が若いうちから高まるという利点は大いにある」と手塚弁護士。上谷弁護士も、次のように語る。
「たまたま報酬のいい案件を担当した結果として給与に差が出てしまうこともあるので、合理的ではないと考える弁護士もいるでしょう。ただ、一時的な差は生じても、長い目で見れば業績は平準化されていきますし、そうやって客観的な視点を持つことで〝稼げる人には稼げる理由がある〞ことが見えてくるのです。それが、各自の足りない点を伸ばすヒントになります。なによりも、〝事務所運営は全員で行う〞という事務所のポリシーを、アソシエイトに理解してもらうきっかけにもなっていますね」
東町法律事務所は、その前身も含め、95年の歴史を持つ〝老舗〞法律事務所だ。歴史に裏付けられた実績があり、信頼もある。しかし、そこにたのむことなく、多様な人材を集め、先進的な組織づくりを行い、未来を見越した挑戦を忘れない――そうした柔軟な発想や対応、進取の気風が、〝事務所の永続性〞を支えているのだろう。