「彼らのダンスはそろそろ勘弁してほしい」。今から15年ほど前、日本最大手の一角である総合法律事務所のオフィスパーティーに参加した弁護士たちは半ば苦笑しながらそう述べた。〝彼ら〟とは、毎年頼まれてもいないのにパーティーで歌やダンスなどの一芸を披露する、存在感と個性抜群の5人衆である。一風変わった彼らが後に共同で事務所を立ち上げ、弁護士50名を超え、顧問および職員を含めると80名以上にのぼる規模に急成長させることになるとは、誰が予想できただろうか。
今回はそのT&K法律事務所を訪ねた。同事務所は、国内・海外を問わず企業法務をメインに扱う総合法律事務所だ。冒頭のエピソードから窺われる、勢いのある5人衆との印象とは裏腹に、彼らは練り上げられた経営戦略と、そして依頼者や事務所を想う真っすぐな信条を持っていた。結束の固い5人衆が〝日本一の事務所〟を目指して旗揚げして以来、仲間を増やし成長を続けてきた同事務所が、全所員一丸となって洗練されたリーガルサービスの新たなスタンダードを打ち立てていく――今回の探訪で垣間見たその物語の一端を、以下紹介しよう。
T&K法律事務所の創業メンバーの一人である角谷直紀弁護士は、製造・流通・金融・通信・コンテンツ・アートやITなどにおける、老舗の上場企業から新興企業、官公庁や独立行政法人などまで、ほぼすべての業態や規模のクライアントから依頼を受けている。それは角谷弁護士が単にゴルフがちょっと上手だからだけではない。角谷弁護士はこう語る。「特定の法律に長けている弁護士はいくらでもいます。しかし、私が最も大切にしているのは、依頼者の経営課題はもちろん、実務上のニーズ、ひいては依頼者の社内外における立ち位置や想定される関係者の反応などの様々な変数を踏まえ、最適解となり得る対応の〝筋〟を読み解き提示することです。依頼者が『この人しかいない』と頼ってくださる時、究極的には、週末の夜に依頼者のお子さんの歯が痛くなってしまったというような法律とは全く関係のない困り事を相談される時こそ弁護士冥利に尽きるとも言えます」
同じく創業メンバーである墳﨑隆之弁護士は、大学3年生時に司法試験に合格しており、経済産業省模倣品対策・通商室での執務も経験し、現在は文化庁文化審議会著作権分科会の委員も務めている。また、海外での訴訟を含む数多くの知的財産案件を扱い続けることで、最新の法制度に加え、多様な実例に基づいた分析・助言が可能な、同分野においては屈指の存在である。加えて、インターネットやSNSの普及に伴って益々重要になっている個人情報保護法についても造詣が深いなど、時代の要請や依頼者のニーズを捉えながら高度な専門性を磨いてきた。なお、法制度や実例と同じように最新のアニメーションやJポップ、ゲームにも詳しく、〝オタク〟としても比類なき弁護士かもしれない。
「5人は何でも話せる飲み仲間で、互いを知り尽くして信頼していましたし、何より各自が異なる分野を得意としていて、互いに補完し合えば誰にも負けないと信じて走り出しました」と、墳﨑弁護士は事務所開設当時を振り返る。一方の角谷弁護士はこのようにも語る。「私以外の4人は、『俺たちがやれば、うまくいかないわけがない。100人規模の事務所にする』と。とにかく猪突猛進で、勢いだけはありましたね。『自分のことになると急に楽観的になるこの面々をまとめるのは自分しかいない』と、一人孤独に損益分岐点を算出していました」
これらの会話からも、各弁護士の性格や人間性まで含めた特徴を生かしながらシナジーを生み出す事務所であることが垣間見える。