Vol.2
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PIONEERS

「企業という共同体の内科医」として、やりがいある組織内弁護士

芦原 一郎

アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)
統括法律顧問代行
弁護士(日本/米国ニューヨーク州)

#3

新時代のWork Front 開拓者たち

組織内弁護士(企業内弁護士と行政庁内弁護士)の数は、日本組織内弁護士協会の推計によれば約242名(2007年12月末調べ)。司法制度改革によって組織内弁護士への参入障壁が撤廃され、徐々に増加しているとはいえ、日本において未だ少数派であることに間違いはない。今回は、組織内弁護士の第一人者ともいうべき芦原一郎氏に、組織内弁護士の実情について語っていただいた。

企業を変える、新たな組織作りへの挑戦

1999年10月にアフラックへ入社し、以来、組織内弁護士として活動を続けている芦原一郎氏。2006年11月から、その取り組みを伝えるべく、雑誌「NBL」(商事法務 刊)での連載も開始しているので、目にされた方も多いのではないだろうか。

芦原氏は司法修習終了後、森綜合法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)に入所し、企業法務全般と、訴訟・金融・民暴・労務人事などの案件に携わりながら、4年半勤務した。

「ある日、ヘッドハンターから電話があって『インハウスに興味はあるか』と聞かれました。その時は、正直戸惑いました。というのも、『どこそこの会社に組織内弁護士がいるらしい』という話を聞くことはあっても、実際にお会いしたことはなく、案件で一緒になったこともなかったからです。当時、組織内弁護士が何たるかを知らない私が抱いていたそのイメージは『法律事務所のパートナー争いに敗れ、企業内に活路を見出す』という、ネガティブなものでしたから」

当初は興味本位で、紹介先であるアフラックとの面談に赴いた。

「私を面接してくれたのは、当時の法律顧問(現:日本における代表者・副会長)のチャールズ・レイクでした。彼はアメリカの弁護士で、米国通商代表部日本部長の経験もありました。彼はその時、日本のアフラックをアメリカ型、つまりコンプライアンス重視型の組織に変えるというミッションを持っていました。彼に言われたのは『英語が話せる弁護士ではなく、日本の法律を肌で知っている弁護士が欲しい』ということ。その弁護士と共に、日本の会社を変えていきたいといわれました。私はまずチャールズ・レイクに興味を持ち、この人となら何か新しいことができるのではないかと考え、転職を決意しました」

その時、一点だけ懸念したのは、収入面だったという。

「法律事務所のパートナーや、自ら事務所を設立することと比較すれば、『毎日仕事がある』という精神面の安定は図れても、収入・給与の大きな伸びは、それほど期待できないだろうという思いはありました。ただ現実には、自営やパートナー弁護士の場合、案件獲得の責任が伴いますし、必ずしも安定しているとは言いがたい側面もあります。ならば収入の安定が図れて、プライベートな時間や長期休暇も取りやすい組織内弁護士というスタンスも悪くない、と考えるようになったのです」

組織内弁護士と法務部の不協和音に悩んだ

弁護士 芦原 一郎

芦原氏が入社した当時のアフラックには、管理職2名、部員2名体制の法務部があった。とはいえ、「体制としては貧弱さを感じた」と芦原氏は当時を振り返る。社内から法務部が受ける仕事と、法律のプロフェッションである自身が受ける仕事は「別立て」がいいと考えた芦原氏は、まずは法務部が企業内の各部署と並列な立場で機能していくことを提案。自らは副法律顧問として、組織内弁護士のキャリアをスタートした。

「法務部を充実させるには、弁護士を何人か採用して、『法務部としての基盤』を作ることが一番だと考えていました。日本人弁護士は私が第一号ですが、翌年にはもう1人を採用し、数年で都合4名の組織内弁護士を抱える体制ができました。安心した私は、社の薦めもあり、後を任せてアメリカに留学したわけです」

一度は完成したと思った『理想の法務部』だったが、アメリカから帰国した芦原氏を待っていたのは、法務部員が、組織内弁護士の完全な脇役になっていたことからくる部内の不協和音。契約書の確認や、保険金の支払いをめぐるトラブル処理といった業務に、突発的・断片的に関わる部員にとって、業務は受身的な作業となり、責任の所在やその後の経緯が見えない不透明なものになっていた。折りしも2人の弁護士が退職することになり、部員にかかる比重が必然的に大きくなるという事態に直面する。芦原氏は、すぐさま「どうしたら部員の仕事の効率を上げられるか」「部員の能力を高めるためにはどうすればいいのか」に、取り組んだ。

新たな試み、「定期便」を生み出す

弁護士 芦原 一郎
日々、社内各部署と法務部のメンバーとのやりとりにアドバイスを行う。

芦原氏が出した結論は、法務部員を主役に据えて、それぞれの部員を各部門専属の担当者・専門家にするというものだった。

「法務部員は法律の知識・経験においては弁護士に頼らざるを得ない部分もありますが、社内の人脈やネットワークを活かした、現場に即したサポート力は高い。ここが発想転換の分岐点でした。部門でトラブルが起きた場合、まず一番に、その部門を担当する法務部員に相談が来るようになって欲しい。『各法務部員が、各部の法律顧問になる』だけの能力を備えるためなら、私の弁護士としての経験やノウハウはすべて教えていこうと決めました。所詮、私一人が頑張っても、全社各部門の対応はできません。それならば私の分身として活躍できる人材に、部員を育てようと考えたのです。加えて、法務部(員)が、能動的に自分たちの仕事を社内へ探しに行くことも組織のモチベーション向上の点から重要なポイントでした。法務部員が主体となって全社に働きかけを行う施策として、『定期便』という仕組みを作りました。毎週決まった曜日・時間に各部門を訪問して、法的な相談に乗り、問題点と改善策を法務部の視点から提案する。それが『定期便』だったわけです」

ぎくしゃくしていた組織内弁護士と法務部員との関係の再構築。また、仮に組織内弁護士や法務部員が退職しても、業務が滞らない体制作りに着手したのだ。

「とはいえ『定期便』は、きつかったですよ。各部門にすれば週1回ですが、部員に同行する私は、朝9時からは『料金第一部』、10時30分からは『料金第二部』、昼食をとりながら『契約審査部』、そして13時から『契約保全部』……といったように1日にいくつもの部門の相談を受ける。それも毎日。夜の8時頃、1日の相談が終わると、頭の中は真っ白でした(笑)」

アフラック社内に「定期便」が定着していくのと時を同じくして、芦原氏は2005年7月から法務部長として、人事考課や体制構築といった法務部内のマネジメントにも着手した。(法務部長は2007年12月で退任)。

「法務部員を『機長』とし、組織内弁護士が『副機長』となり、各部門に定期訪問する。法律の専門知識を使って各部門の利益をサポートするというこの仕組みは、部門の再構築からスタートして、法律関係の案件を処理するための仕組みとなり、部員と組織内弁護士の役割分担の仕組みをマジメントする手法にまで成長しました。同時に、私たちの方針に合致した組織内弁護士の採用も積極的に行いました」

周囲からシビアに評価される、組織内弁護士

弁護士 芦原 一郎
「定期便も軌道に乗り、『次の一手』に思いをめぐらせるのも仕事の楽しみです」(芦原氏)。

「定期便」が定着し、社内からの需要も高まる中、芦原氏は次の一手を打つ必要に迫られる。「部員を弁護士並みに」と教育した結果、法曹を目指し、ロースクール進学のために退職したり、他社に転職したりする社員が出てきたためである。

「これからの法務部員は、法的な知識は必要ですが、法曹よりもビジネスマンを目指して欲しいと考えています。ビジネスサイドに立って、組織内弁護士や社外弁護士という法的インフラを使いこなす立場です。そのためには、ずっと法務部にいるのではなく、数年経験した後は、他部署で実務的な業務を経験する。その後、法務部に戻って他部署での知識を活かすなり、あるいは法律的なスキルを持った社員として他部署で力を奮ってもいいでしょう。そうした社員が社内に増えることにより、社全体の法的リスクへの感度や、それらへの対応能力が向上し、よりコンプライアンス型の組織になるものと考えています」

この「定期便」は、芦原氏がアフラックに入社するきっかけとなったコンプライアンス重視型の組織構築に一役買う一方で、アフラックの組織内弁護士にとっては、生き残りに対するシビアな緊張感につながった。

「正直に言えば、最初は業務推進の主体が法務部員に移行することで、弁護士はラクができるかと思いました。ところが結果的には、弁護士に対する評価制度としての側面を持ち合わせたシビアな仕組みになっています。常日頃、各部門の細かな業務に入り込み、現場との強い信頼関係を強みに、ネットワークと情報力を活かした課題解決をする法務部員と異なり、社内の弁護士は、常に的確な法律的判断や提案ができなくてはなりませんから。各部門固有の課題を把握せずに、建前や見栄えを重視した解決法しか提案できない弁護士は、必然的に機能しなくなり、淘汰されます。組織内で機能する弁護士とは、法律だけではなく、アフラックという企業のカルチャーを理解し、各部門や担当者に深く入り込む力が必要とされるのです」

日本における組織内弁護士の現状と今後

組織内弁護士をアフラックに定着させ、法務部の機能の充実を図り、法務部長としてマネジメントにも取り組んできた芦原氏。氏は今日の日本における組織内弁護士の現状をどう感じているのだろうか。

「私は、企業は組織内弁護士をさらに活用すべきだし、企業で弁護士としてのキャリアアップを目指す人の数も、さらに増えて欲しいと考えています。しかし、日本は米国や欧州に比べると、まだその数は圧倒的に足りません。企業側も弁護士側も、一緒に働くイメージをお互いにつかみきれていないのが理由ではないでしょうか。私がよく、組織内弁護士の雇用について、経営者などから尋ねられた際にお話するのは、『まずは試しに採用してみたらどうか』ということ。例えば、普段依頼している法律事務所から、若手弁護士に出向してもらうのもいいでしょう。そして一緒に仕事をして、彼らがどんなことができるのか、どんなものが作れるのかを見て、自分も共に取り組んでみることが大切なのです。採用の基準は、専門性よりも会社の社風に合うかどうかが一番でしょう」

では、企業や個人の代理人として活動する社外弁護士と、企業の立場に立つ組織内弁護士との違いはどの辺りにあるのだろうか。

「人によっても違うでしょうから、あくまでも私見ですが……『組織内弁護士は専門家ではない』と、私は捉えています。例えば私の場合は、保険分野の専門家であっても、他の法律分野については詳しくないことは認めざるを得ません。また、日々法廷に立つ弁護士が持つ、ある種の『職人的な感覚や技術』は、多少は鈍るかもしれません。一方で組織内弁護士は、企業と社会の仕組みについて深く理解した上で、企業という共同体をどのように成長させていくかという知恵と経験が身に付く。社内のさまざまなジャンルのプロフェッショナルから、その知識を吸収することも可能です。私自身、調整能力やバランス感覚、マネジメント能力を身に付けられたことは、法律事務所勤務時代には想像していなかったことです」

「内科医」として企業の健全な成長の舵取りをする仕事

法律事務所での弁護士経験と、組織内弁護士としての長いキャリア。そのどちらも併せ持つ芦原氏から見る組織内弁護士の役割とは、どういったものだろうか。

「例えば倒産処理を担当する弁護士は、医師でいえば、外科の執刀医。企業という命を生かすためには、足を切る決断をしてもその手術を実行する、そんな仕事です。一方で組織内弁護士は、内科医や漢方医に例えられるかもしれません。長期的な視点で事象を予測して、リスクを未然に防ぐ、あるいはリスクヘッジの提案をする『先回り』の仕事ですから。私のキャリアを振り返ってみると、『企業活動の最前線を見る』という醍醐味を得たことと共に、『慎重さ』と『調整力』の2つが磨かれたと思っています。その理由は『企業という社会』で生活する、一人ひとりの社員の日常と人間模様に、あらゆる場面で関わっていくからです。そこに困っている人がいれば、法律的な側面からアドバイスをして、時間をかけて一緒に改善を図っていく。そうした社員との日々のコミュニケーションが、ひいては、企業の利益、個人のやりがいにつながります。泥臭い人間模様に日々関わり、企業という大きな身体を動かしていく。これが組織内弁護士の仕事の面白みであり、使命であると思います」

弁護士 芦原 一郎

アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)

所在地:〒163-0456東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル
事業内容:生命保険業
設立:1974年
総資産:5兆5,142億円(2007年9月末)
保険料等収入:5,501億円(2007年9月期)/1兆691億円(2007年3月期)
社員数:3,510名(2007年9月末)
代理店数:18,573店(2007年9月末)
役員:幹 晶稔(会長)・チャールズ・レイク(日本における代表者・副会長)・外池 徹(日本における代表者・社長)