Vol.45
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PIONEERS

手話通訳士と二人三脚。困っている人に寄り添い、一緒に悩みながらよりよい解決策を模索し続ける

若林 亮

法テラス東京法律事務所
常勤弁護士

#28

The One Revolution 新・開拓者たち~ある弁護士の挑戦~

依頼者の声に耳を傾け、適切な打開策を伝え、法廷に立てば弁論を駆使して戦う。弁護士ほど、聞き、話す能力が求められる職業はないだろう。聴覚障がいを持ちながら、司法試験を突破し、弁護士となった若林亮氏。約2年前、法テラス東京法律事務所に入所して以来、法テラス職員(手話通訳士)の遠藤友侑子氏との二人三脚で、自らが思い描く弁護士としての活動を続けている。

同じ聴覚障がいのある、弁護士の背中を追って

私は生まれつき聴覚障がいがあり、耳で人の話を聞くことができず、発音発声も不得手で話すこともままなりません。しかし、私が小学生の時に同じような聴覚障がいのある田門浩(たもん・ひろし)さんが弁護士を目指しているという記事を読みました。「果たして聴覚障がいのある人が弁護士になれるのか?そんな困難に挑戦しようとしている先輩がいるんだ」と驚きました。

その後、田門さんの司法試験合格をニュースで知りました。その頃から私も彼の背中を追いかけたいと思うようになったのです。しかし、旧司法試験はかなりの難関だったため、当時は就職を選び、新聞社に校閲記者として入社。夜勤続きの激務のなか、勉強との両立に苦心し、一度は弁護士になりたいという夢をあきらめました。

しかし、新聞などで田門弁護士はじめ様々な弁護士の活動に接し、弁護士は困っている人に寄り添い、一緒に悩み、一緒によりよい解決策を見つけていける仕事なのではないかと思い、再び弁護士になりたいという気持ちが強くなってきました。当時、私は30代になったばかり。まさに、法科大学院制度が軌道に乗り始めた頃です。そして、思い切って2008年に新聞社を退職して、法科大学院に入学しました。

多くの助けを受け、念願の弁護士に

法科大学院の授業では、大学が学内で募集してくれた「ノートテイク」ボランティアが講義に一緒に出席してくれました。また、有志での自主勉強会では、クラスメートがパソコンのチャットだけで会話する方法を考案してくれ、私も議論に参加することができました。結果、11年に無事法科大学院を修了し、司法試験に合格。法科大学院時代だけでも本当に多くの方々に助けていただきました。

その後、12年末に司法修習を修了。弁護士登録をした翌年、法テラスに入所しました。

ところで、法律相談や法廷活動などは、筆談だけでは難しいことが多々あります。そこで、法テラスは手話通訳士を私と一緒に採用してくれました。このような配慮をしてくれる組織は、日本では極めて稀だと思います。ただ、それまで手話通訳士とペアで仕事をした経験はなかったので、弁護士になれたという夢が叶った嬉しさの一方で、本当にやっていけるのかという不安もありました。

手話通訳者と二人三脚で弁護士活動をスタート

弁護士 若林 亮
依頼者との電話も遠藤さんを介して行う。完璧な通訳ぶりに、受話器の向こうの相手が目の前で話しているような感覚だという

手話通訳士の遠藤友侑子さんも聴覚障がいのある弁護士と一緒に仕事をするのは初めてです。当初はとても不安だったと思います。通訳の方法は、遠藤さんに依頼者の隣に座っていただき、彼女が依頼者の話を手話に通訳する一方で、私の話を私の手話を読み取りながら通訳するという方法です。しかも、それをリアルタイムで行ってくれます。法廷や電話でも、基本的にこのやり方です。また、遠藤さんは、例えば電話では、相手の感情をも読み取って自身も表情をつくったり、手話表現に強弱をつけたりして伝えてくれます。

性格も価値観も、歩んできた人生も異なる二人が、いきなり二人三脚で仕事をするわけですから、信頼関係を醸成するまではとても大変でした。思っていることを素直にぶつけ合ったこともあります。

地味で泥臭い仕事の日々。二人で乗り越え続ける

私は、民事事件や刑事事件などを担当する傍ら、本人の状況をよくするために、本人の周りにいる人や機関と連携して知恵や力を貸し合い、総合的な解決を目指すいわゆる「司法ソーシャルワーク」も手がけています(法テラスが力を入れている分野でもあります)。この2年間だけでも会った人は、福祉事務所のケースワーカー、地域包括支援センターの担当者、精神病院のソーシャルワーカー、民生委員、本人の家族や友人など、数え上げればきりがありません。現場では、いつも多くのことを学ばされています。

日常の仕事は、いたって地味です。相談を受け、依頼を受け、解決に向けて活動する。その繰り返しです。このマガジンに掲載されている先輩たちのような目覚ましい活躍などしていません。可能な限り依頼者や関係者とたくさん会うために、いつもあちこち遠藤さんと二人で飛び回っています。遠藤さんとは、「私たちの仕事は地味で泥臭いけど、いろいろな人に会って、様々な経験をしてきたよね。これからも地道に積み上げていきましょう」とよく話しています。

ただ、依頼者から「ありがとう。あなたたちに頼んでよかった」、関係者から好意的に「こんな弁護士もいるんだ」などの言葉をもらった時は、遠藤さんとペアで信頼された確かな証拠だと思い、素直に嬉しくなります。弁護士3年目、まだまだ学ぶべきことが数多くありますが、困っている人に寄り添って一緒に悩み、よりよい解決策を見つけることができる弁護活動を、これからも研鑽を重ねながら、続けていきたいと思っています。

ところで日本では、まだまだ手話通訳士は〝専門家〞として認識されていません。その一方で、聴覚障がいのある学生たちが、弁護士含め様々な専門家を目指して日々頑張っている話を聞きます。これからますます多方面で、聴覚障がいのある専門家が増えてくるでしょう。近い将来、聴覚障がいのある専門家と、ペアで仕事をする手話通訳士という〝もう一人の専門家〞がいることが、当たり前になってほしいと願っています。