独立して1年半で片岡氏は事務所を友人に託し、松下電器産業(現パナソニック)に入社。インハウスロイヤーに転身した。
「松下を選んだのは、実家が近かったから。松下は私にとって身近な地元企業だったんです。会社員になることで仮に収入が減っても、実家から通えばなんとかなるという単純な発想もありました(笑)」
しかし、当時の同社は弁護士資格を持つ社員を募集していたわけではない。「企業には法務部があるのだから、法律の知識が生かせる仕事はいくらでもあるはず」という鋭い勘どころで、同社に勤める友人に履歴書を託したという。彼女の履歴書が法務部門のトップの目に留まり、トントン拍子に採用が決定。当時三十数万人いた社員の中で、唯一の日本の弁護士有資格者であった。
「それまで組織で仕事をした経験がなかったので、面食らうことばかり。“報・連・相”すら、何のことだかわかりませんでした(笑)。けれど、協調性はあるほうですから、環境に慣れることから始めました」
松下電器産業といえば、世界を舞台に事業を展開する巨大企業である。初めて配属された先では、会社法まわりや、知財など、それまで無縁だった案件に携わり、一気に活躍の幅を広げていった。そんな時、業績不振を理由に企業年金の給付利率を一律2%引き下げられたことに反発した同社の退職者が、減額分の支払いを求めて集団提訴(福祉年金訴訟)。片岡氏は、同社の代理人として03年5月の提訴以降、会社の勝訴が確定した07年5月の最高裁決定までの一切に関わる。
「丸4年闘った難しい裁判に勝ったときは、ひと仕事やり終えた、という充足感がありました。けれど、法務部員として特別な評価を得ることはありませんでした。会社員ですから仕方ない部分もありますけど、正直寂しかったですね」
そんなある日、ヘッドハンターから「ファーストリテイリングが法務部で働く弁護士有資格者を探している」との電話があり、さんざん悩んだ末これに応じた。
「ここには、個性と可能性にあふれた若さがあります。皆とワイワイやりながら、自分の専門性を生かして会社の発展に尽くすこともできる。革新性のあるスピード経営を実践する柳井社長とは、直接語り合うこともしばしば。そんな環境が私に合っている気がします。ここでインハウスとしての成果を上げ、日本企業のインハウスロイヤーの成功事例になりたいですね」