欧米企業のインハウスロイヤーは、契約書の作成やレビューにとどまらず、経営トップに対して法的あるいはコンプライアンス上のアドバイスを行うことが多い。本誌11ページの特集にもあるように、欧米企業と日本企業とではインハウスロイヤーに求められる仕事や役割に差があるようだ。
現在、日本IBMで法務・知的財産・コンプライアンスの担当取締役を務める名取勝也氏は、グローバルなビジネス展開を推進する数々の欧米企業においてその手腕を発揮してきた、いわば日本におけるインハウスロイヤーの先達といえる。
「1993年、ヘッドハンターから『エッソ石油の日本法人部門の社内弁護士を探している』という電話があったのが始まりです。当時の私は、米国ワシントンの法律事務所に務めながらビジネス・スクールに通っていましたが、そのまま現地で仕事を続けるか日本に帰国するか迷っていたのです」
もともと海外とかかわりながら仕事をしたい、との思いを抱いて弁護士を目指したという名取氏は、エッソ石油への入社を決めた。
「米国系企業は、明確なレボーティングライン・システムにより組織が体系化され、法務部門には弁護士や質の高いスタッフが多くいます。どのような考え方や価値観で企業としての意思決定がなされるのか、そこで社内弁護士はどのような役割を担うのかを知ることができましたが、それほどの驚きも違和感もなかったですね。それに先立ち米国の法律事務所やビジネス・スクールで経験したり学んだことが役立ちました」
インハウスロイヤーとして1年目。ここでは一般的な契約書の作成・レビューや労働問題の相談・紛争解決などの業務に携わる。それからさらに半年ほど経過した頃、今度はアップル日本法人で人事部長を務める知り合いから「法務部長として来ないか」との誘いを受けた。
「当時のアップルは、PC産業や市場の急激な変化の影響を受け、日本法人においてもかなりの混乱が生じていました。私は、日本法人のジェネラル・カウンセルとして誰の利益を最優先に考え、判断・行動すべきかといった、コーポレート・ガバナンスに関する極めて重要で困難な問題に多く直面しました。前述の人事部長と協議を重ね、最善の提案を米本社に行うことで、日本法人のコーポレート・ガバナンスを回復・向上させた、という自負はありますね」