新型コロナ禍以降、同室も前例のない様々なトラブルに直面した。同社は顧客企業に赴きシステム開発を行うこともあり、緊急事態宣言の発出により現場作業ができず、開発スケジュールに影響が出ることもあった。通常、開発期間が延びればその分追加の費用が発生する。だが新型コロナ禍は同社にとっても顧客企業にとっても想定外の事態で、費用の扱いについてはプロジェクトにおいて個別の交渉が必要となり、同室もそのサポートにあたった。その経験から、“次の感染の波”に備えて、感染リスクを考慮したプロジェクトの業務継続体制の考え方やそれに伴う費用について顧客との間で予め合意しておくよう、社内及びグループ会社に提案し、そのための覚書のひな型を作成・展開したという。
「電子契約の仕組みは以前からありましたが、様々な課題があり、あまり活用されていませんでした。しかし、お客様からの要望が強く、その対応が急務になり、当室が主導して、事業戦略部門、会計、税務、セキュリティ、監査などの部門と連携し、スピーディに整備を進め、20年8月頃には運用体制を整えました。電子契約はリスクを伴うため、慎重に行わなければいけませんが、当時の社会情勢に鑑みると、多少のリスクを負っても早期に導入する必要があると判断しました」と、松下室長。
従来の慣習や部門間のしがらみなどにとらわれず、非常時にこういったフレキシブルな対応ができることも同社の強みといえそうだ。同室では、21年春に体制を大幅に変更した。それまでは公共、金融、法人、グローバル、スタッフといった全5チームに分けていたが、それを一新。法務室内の機能を、①“ガーディアン機能”としての経営法務担当と、②“パートナー機能”としての出資・取引担当と大きく2つに分けた。①にはグローバルヘッドクォーター、リージョナルヘッドクォーターの2チーム、②には出資対応と契約対応の2チームを置いた。
その目的を松下室長に聞いた。
「以前の体制ではそれぞれのチームにおいて幅広い法務業務に携われるメリットがありましたが、専門知識を深めることが難しいというデメリットもありました。この体制変更により、例えば当社各部門の“出資に関する法的相談”は、すべて出資対応チームに集約されるので、様々な出資案件に携わることができ、出資に関する深いノウハウや経験をチームとして蓄積できるようになります」
今後の課題を、松下室長は「IT知識を有する法務人材とグローバル・リーガル人材の確保」と語る。
「事業部の悩みや法的リスクを的確につかむためには、当然ながらIT知識が不可欠です。当社では法務人材についても新入社員研修時にシステム開発の基本的な知識を習得するための研修が用意されています。また、法務室で使用する契約書レビューなどの法務相談に関する申請登録システムの検討・開発に携わり、契約書自動リスクチェックツール・チャットボットを自作するメンバーもいます。日々の業務を通じて一定の理解を深めることはできますが、とはいえIT知識はやはり十分ではないというのが現状の認識です。近年、AIなど最新技術を理解したうえで法的リスクを洗い出し、事業部門にアドバイスする役割がより強く求められるようになっており、一層、ITに精通したリーガル人材が必要です。さらには海外の事業展開が加速しているため、各国法を理解し、語学力を駆使しつつ交渉できる人材も欠かせません。そのような能力を有する人材と、当社事業を支えていきたいと思います」
※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。