Vol.80
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法務室の陣容は総勢33名(産休・育休中のメンバー含む)。日本法弁護士のほか、米国ニューヨーク州弁護士(法務室内の留学制度を利用)も在籍。20~30代のメンバーの割合が高く、若手が活躍できる

法務室の陣容は総勢33名(産休・育休中のメンバー含む)。日本法弁護士のほか、米国ニューヨーク州弁護士(法務室内の留学制度を利用)も在籍。20~30代のメンバーの割合が高く、若手が活躍できる

THE LEGAL DEPARTMENT

#120

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ) 法務室

IT、グローバル化対応を推進。ビジネスにプラスとなる法務へ

国内外グループ会社と連携を密にする

AI、IoT、VR、フィンテック――次々と新しい技術が生まれ、トレンドの変化も激しいIT業界において、高い技術力をもとに社会に必要とされるシステムを構築・提供している株式会社NTTデータ。1988年に日本電信電話株式会社(NTT)からの分社・独立により設立され、官公庁や製造業、金融、エネルギーなど幅広い領域で事業を展開する日本のトップSIerである。法務室長の松下健氏に、同室のミッションについて聞いた。

「一番重要な使命は、やはりリーガルリスクマネジメントです。問題を事前に察知してその芽を摘み、すでに発現している場合には拡大防止に努めます。また、このようなリスクマネジメントとは別に、新規ビジネスに関する法規制の調査やアドバイスなど、ビジネスのプラス面を拡大する役割も求められています」

同社は日本だけでなく世界50カ国以上に拠点を持つ。グループ全体の従業員数は約14万人で、そのうち半数以上が外国人というグローバル企業でもあり、同室はその法務部門のまとめ役も果たす。国内グループ会社及びグローバルにおける同室の役割については次の通りだ。

「国内だけで約80社のグループ会社があり、会社によって法務担当の体制や業務への取り組みは様々です。そこで当社から各社に対し法務に関する情報の提供や研修の実施などを進めています。近年は『グループ会社法務連絡会』を四半期に1回程度開催し、各社が直面する課題を共有・議論する機会を設け、グループ全体でのリーガルリスクマネジメント力アップを目指しています。一方、海外についても、グループ会社間の連携強化に取り組んでいます。例えば、各地域の法務の代表者含むメンバーと協議しながら、海外グループ会社間の契約における取引条件を統一したり、GDPR(EU一般データ保護規則)などの国際的なデータプロテクションへの対応について、ワーキンググループをつくって議論したりするなどしています」

同社は2025年に、ITサービスベンダとして、「Global Top5入り」を目指す。海外部門とのやりとりが増加し、グローバル人材の育成が急務である。

「海外留学制度により、概ね毎年1名留学させています。留学先は米国で、現地ロースクール修了後は、米国のグループ会社のリーガル部門や現地法律事務所でインターンとして実務経験を積みます。この制度により、現在、メンバーのうち2名がニューヨーク州の弁護士資格を取得しています。ただ、私はロースクールでの勉強や資格取得だけでなく、留学中に多様な文化やバックグラウンドを持つ人たちと様々な形で交流し、ともに働く経験ができることも大事だと考えます。留学を経験したメンバーには、米国や欧州、東南アジアの拠点とのやり取りなどで活躍してもらっています」

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)
テレワーク実施率は100%(この日は、取材のために法務室メンバーに参集いただいた)。フレックス勤務の導入率も、産休・育休からの職場復帰率も100%と、働きやすい環境であることがわかる

9割以上がテレワーク。働きやすい制度設計

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)
オフィスは、フリーアドレス制を採用。新型コロナ禍以降は、テレワークが基本となり、法務室員の出社率は1~2割程度

近年、同社の育児休職からの復職率は、ほぼ100%。短時間勤務制度などが整っているほか、復職後の仕事と育児両立のためのワークショップの開催など、復職とその後のキャリアアップを見据えたサポートも手厚い。外資系法律事務所出身の萩岡由美子氏は、同社の働きやすさについて、こう語る。

「フレックス勤務や短時間勤務、育児休職などの制度面が充実しているほか、有給休暇の取得が推奨されており(平均取得日数16.2日)、ワークライフバランスが取りやすいですね。新型コロナ禍の今は、9割以上のメンバーがテレワークをしています」

働き方だけでなく、前職との仕事内容にも違いがある。

「法律事務所では、法的問題に対して第三者的な立場からアドバイスをすることが多く、最終的な決着にまで関与できないこともありました。ですが、インハウスローヤーの場合は、プロジェクトの立ち上げ段階からかかわり、結果まで見届けることができる。プロジェクト全体を通して当事者意識を持って携われるのが、この仕事の魅力であり、やりがいでもあります」(萩岡氏)

4分の1程度が萩岡氏のような中途入社者だが、別部門から異動してきたプロパー社員も多い。

「弁護士資格があっても中途入社者でも、本人の特性を生かしながら多様な業務を経験してほしいという組織の方針のもと、キャリアパスや適性、本人の意向をくみとったうえで、別部署で経験を積んでもらう場合もあります。法務経験者は、問題を論理的に突き詰めて解決していく力があり、どの部署でも活躍できると私は考えます。法務出身者が今後も様々な部署に配属されることで、会社全体のリーガルリスクマネジメント強化に貢献できると思います」(松下氏)

柔軟性を発揮し、法務主導で仕組みづくり

新型コロナ禍以降、同室も前例のない様々なトラブルに直面した。同社は顧客企業に赴きシステム開発を行うこともあり、緊急事態宣言の発出により現場作業ができず、開発スケジュールに影響が出ることもあった。通常、開発期間が延びればその分追加の費用が発生する。だが新型コロナ禍は同社にとっても顧客企業にとっても想定外の事態で、費用の扱いについてはプロジェクトにおいて個別の交渉が必要となり、同室もそのサポートにあたった。その経験から、“次の感染の波”に備えて、感染リスクを考慮したプロジェクトの業務継続体制の考え方やそれに伴う費用について顧客との間で予め合意しておくよう、社内及びグループ会社に提案し、そのための覚書のひな型を作成・展開したという。

「電子契約の仕組みは以前からありましたが、様々な課題があり、あまり活用されていませんでした。しかし、お客様からの要望が強く、その対応が急務になり、当室が主導して、事業戦略部門、会計、税務、セキュリティ、監査などの部門と連携し、スピーディに整備を進め、20年8月頃には運用体制を整えました。電子契約はリスクを伴うため、慎重に行わなければいけませんが、当時の社会情勢に鑑みると、多少のリスクを負っても早期に導入する必要があると判断しました」と、松下室長。

従来の慣習や部門間のしがらみなどにとらわれず、非常時にこういったフレキシブルな対応ができることも同社の強みといえそうだ。同室では、21年春に体制を大幅に変更した。それまでは公共、金融、法人、グローバル、スタッフといった全5チームに分けていたが、それを一新。法務室内の機能を、①“ガーディアン機能”としての経営法務担当と、②“パートナー機能”としての出資・取引担当と大きく2つに分けた。①にはグローバルヘッドクォーター、リージョナルヘッドクォーターの2チーム、②には出資対応と契約対応の2チームを置いた。

その目的を松下室長に聞いた。

「以前の体制ではそれぞれのチームにおいて幅広い法務業務に携われるメリットがありましたが、専門知識を深めることが難しいというデメリットもありました。この体制変更により、例えば当社各部門の“出資に関する法的相談”は、すべて出資対応チームに集約されるので、様々な出資案件に携わることができ、出資に関する深いノウハウや経験をチームとして蓄積できるようになります」

今後の課題を、松下室長は「IT知識を有する法務人材とグローバル・リーガル人材の確保」と語る。

「事業部の悩みや法的リスクを的確につかむためには、当然ながらIT知識が不可欠です。当社では法務人材についても新入社員研修時にシステム開発の基本的な知識を習得するための研修が用意されています。また、法務室で使用する契約書レビューなどの法務相談に関する申請登録システムの検討・開発に携わり、契約書自動リスクチェックツール・チャットボットを自作するメンバーもいます。日々の業務を通じて一定の理解を深めることはできますが、とはいえIT知識はやはり十分ではないというのが現状の認識です。近年、AIなど最新技術を理解したうえで法的リスクを洗い出し、事業部門にアドバイスする役割がより強く求められるようになっており、一層、ITに精通したリーガル人材が必要です。さらには海外の事業展開が加速しているため、各国法を理解し、語学力を駆使しつつ交渉できる人材も欠かせません。そのような能力を有する人材と、当社事業を支えていきたいと思います」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。