Vol.87
HOME法務最前線三井不動産株式会社
  • ▼弁護士のブランディング支援サービス

    Business Lawyer's Marketing Service
  • ▼弁護士向け求人検索サービス

    想いを仕事にかえていく 弁護士転職.JP
  • ▼弁護士のキャリア形成支援サービス

    弁護士キャリアコンシェルジュ
  • 当社サービス・ビジネス全般に関するお問い合わせ

総務部 法務グループは、13名の陣容。商品本部制で業務を振り分けているが、M&Aなど商品によらない事案の際は、随時グループ内横断でチームアップする

総務部 法務グループは、13名の陣容。商品本部制で業務を振り分けているが、M&Aなど商品によらない事案の際は、随時グループ内横断でチームアップする

THE LEGAL DEPARTMENT

#146

三井不動産株式会社 総務部 法務グループ

新たな産業創造を加速し、未来にふさわしい街づくりを支援する

弁護士の所属割合が高い組織

不動産デベロッパー大手の三井不動産株式会社は、不動産業を超えた多様な取り組みを国内外で展開する。事業を支える法務グループの特徴の一つは、メンバーの約半数がインハウスローヤーであること。その理由を、グループ長の奥村彰子氏にうかがった。

「約20年前の不動産証券化への参入や約10年前のアジア市場進出といった事業の動きに応じて、法律事務所からのパートタイムでの駐在や、出向受け入れなど、社内に弁護士を置くという機会が増加。その過程で“社内弁護士”の有用性が認識され、弁護士の採用を開始しました。インハウスローヤーのアドバイスにより、機動力を持って問題解決にあたれるという実感が社内に浸透したことも大きい。現在の体制になったのは、積極的に弁護士採用を進めた2020年頃からのこと。ゼネラリストかつ事業経験を経たうえで法務業務に携わる社員と、プロフェッショナルな弁護士とのバランスが取れた組織体制が出来上がってきました」

続けて、同グループの仕事と体制についてうかがった。

「契約書レビューなど一般的な法務業務をベースとしながら、事業部門が行う土地売買やオーナーへの提案に向けた事業スキームの検討、リーシングなど運営フェーズで起こりがちな紛争解決にあたっての法務相談、顕在化した訴訟対応管理、商標登録申請など、知的財産関連業務も私たちの守備範囲となっています」

同グループでは、ビル、商業施設、ロジスティクスなど「商品本部」に基づき、グループ内のチーム分けを行っている。各チームには、複数名のインハウスローヤーが所属する。「当社では法務グループに限らず、個人プレーではなく最小でも2~3名がチームを組んで業務を遂行することが通例です。ゆえに、チームワークを重視します」と、奥村氏。

「私たちのミッションは、『当社の企業活動に伴う様々な課題に対し、法的知見を基にソリューションを提供し、企業価値の最大化を図ること』。各部門に最適解を提案するべく、グループ一丸となって業務に臨んでいます」

“ミクストユースの街づくり”となる「東京ミッドタウン」のコンセプトは、「DIVERSITY、HOSPITALITY、ON THE GREEN、CREATIVITY=JAPAN VALUE」(写真提供:三井不動産)

法務グループに求められる役割

法務グループ主事の中野達彦氏(2023年10月に他部門へ異動)が、仕事のやりがいについて教えてくれた。

「私は法務グループ在籍4年半で、ビルディング本部やロジスティクス本部を担当しました。印象に残るプロジェクトについて紹介します。当社は設立80年超と歴史があり、不動産会社の特徴として賃貸借契約など継続的な契約も多数。私が担当したのは、50年近くの長いスパンでの契約に関わる案件でした。長期の契約の中で、認識の齟齬も含め解決を図るべく、昔の契約や覚書、議事録、時には社史などを追っていきました。なかには、不動産の容積率制度が施行される前の議事録もありました。手探りする中で、『どうしたらいいものができるのか、どうしたらいい街になるのか』といった侃々諤々の話し合いがなされている様子が記録されていて、『50年前の社員も、今の自分たちと同じマインドで仕事をしていたのだ』と感動しました。経緯を読み解くことで――歴史をひもとき、紙(契約書や覚書など)となって残されたものにもう一度、風を通し――先人の情熱に触れられたことはかけがえのない経験です。結果、当該案件は、円満に解決にいたることができました。今現在も、そうしてつくられた土地建物が存在し、これからも続いていくのだと思うと感慨深いです。何十年も前の社員の仕事・思いを今につなぎ、なおかつ事案の解決にも寄与できるという経験は、当社ならではだと思います」

官・民・地元一体で始動した「日本橋再生計画」第1ステージで開業した「COREDO日本橋」(写真提供:三井不動産)
官・民・地元一体で始動した「日本橋再生計画」第1ステージで開業した「COREDO日本橋」(写真提供:三井不動産)

ビルディング本部、ロジスティクス本部や22年に新設されたサステナビリティ推進本部などを担当してきた春田大吾氏(65期)に、インハウスローヤーとしての醍醐味についてうかがった。

「数年前から、当社が運営する施設の使用電力の“グリーン化”案件に携わっています。これは、電力会社と連携して、非化石証書由来の環境価値がついた電気をテナントなどに供給するというもの。今でこそ、論文や関連書籍があり、ナレッジもある程度まとまっていますが、私が本件にかかわり始めた頃は、まとまった情報はほぼなく、暗闇のなかを手探りで進むような状態でした。そのような状況でも、存在する情報を最大限吸収し、想定されるリスクや法規制を確認しつつ、担当部門とワンチームで事業をゼロからつくり上げることができました。こうした新規性の高い案件やゼロから事業をつくり上げる案件に携われるのは、インハウスローヤーの醍醐味だと思います」

そんな春田氏が意識しているのは、一般的な法律知識を述べるにとどまらず、当事者として担当部門に伴走することだという。

「法律事務を取り扱ううえで一般的な法律知識が必要なことは言わずもがなですが、インハウスローヤーの場合、それに加えて自社の社則やポリシー、過去の事例、そこから蓄積されたナレッジなど、自社ならではの事情にも精通している必要があると思います。いずれについても日々研鑽の必要性を痛感しておりますが、法律知識と自社ならではの事情両方を踏まえながら、課題の発見から意思決定まで担当部門に伴走することがインハウスローヤーに求められる役割だと思っています。例えば当社の本業といえる不動産開発では、一件一件、地権者や共同事業者といったステークホルダーの意向、法規制などを踏まえてスキームを構築していきます。そうした案件に一般的な法律知識のみで対応することは必ずしも十分ではなく、過去事例やそこからのナレッジなどを総動員しながら伴走するのが役割だと思っています」

同社には「MAG!C(マジック)」という事業提案制度がある。

「MAG!C案件では当社内にナレッジが蓄積されていないことが通常なので、他の案件よりも一層、インハウスローヤーが担当部門の一歩先をいき、課題の洗い出しなどを行って事業化をサポートしていくことが求められていると思います」(春田氏)

転換期にある事業をリードしつつサポート

育児支援制度や介護支援制度、勤務場所の選択ができるリモートワーク制度など、働きやすい制度・環境が充実している。

「リモートワーク制度としては、週2回というルールの範囲で、運用は柔軟に行っています。また、当社は『ワークスタイリング』という全国約140拠点で展開するシェアオフィスサービスを運営していますが、当社社員もこの施設を利用できます。私も通勤や保育園の送り迎えの隙間時間など外での空き時間ができた際に、この“ワクスタ”を活用しています」(中野氏)

最後に、奥村氏に同グループの今後についてうかがった。

「当社では、『街づくりを通じた社会課題の解決』を、街づくりの思想として掲げています。また、4月に社長に就任した植田は、『新たな需要を創り出し、産業創造を加速するプラットフォーマーになろう』というメッセージを発信しています。ライフサイエンス、宇宙、仮想空間など新分野での事業を進めていくには、法的にも新たな視点が求められますが、事業にどう組み合わせていくのか――その入り口を支えていくのが私たちの責務です。一つひとつの細かい論点の洗い出しはもちろんのこと、さらにその先を見据え、プロアクティブに対応できる法務を目指していきたいと思います」

  • チームワーク抜群な同グループのメンバー。全員が新たな知識の習得に意欲的で、社外セミナーにも積極的に参加。「自発的にセミナー受講し、各自学びの機会を得ています」(奥村氏)
  • 同社は“ゼロからの街づくり”も推進。写真は一例の「柏の葉スマートシティ」。東京大学・千葉大学・国立がん研究センターといったトップアカデミアや、千葉県・柏市などの自治体、生活者とともに、公・民・学が連携して、「世界の未来像」をつくるために、新産業創造、健康長寿、環境共生をテーマに取り組んでいる(写真提供/三井不動産)