決済ビジネスを行う事業者でありながら、金融機関でもある同社。それだけに、業務には多様かつ専門的な法律知識が必要になる。
「やはり、資金決済法が私たちの中心的なものになります。また、金融事業者として決済事業を行う以上、犯罪収益移転防止法も欠かせません。それ以外に、直接的ではないものの、外国為替および外国貿易法や金融商品取引法、特定商取引法などを理解しておかないと、加盟店への対応ができない場合もあります」(鈴木氏)
ただ、資金決済法については難しい部分があるという。
「元々は1対1の資金の移動を想定してつくられた法律なので、私たちのようなペイメント事業は想定されておらず、必ずしも参照条文などがあるわけではない。ゆえに、先行事例や判例も少ない。参照先がないため、自分たちで答えを探さないといけないわけですが、そこがこの仕事の難しさでもあり面白さでもある。当社が進む先で、法令等の違反にならない範囲で、より多くの方にサービスを利用してもらえる落とし所を探すため、常に“考える法務”であり続ける必要があるのです」(鈴木氏)
これまで国内証券会社や外資系投資銀行など、金融業界を中心に経験してきた鈴木氏。同社ならではの案件を話してくれた。
「Apple、Google play、Amazonなどに、我々の決済システムを導入しました。国内において、グローバルポリシーを持つ企業との提携は簡単なことではなく、そこを法的な面も含めて、いろいろクリアできているのはまさにPayPayらしい仕事といえます。それが実現できた背景に、我々の“個人情報保護へのこだわり”があります。QRコード決済市場において約6割のシェアを持つペイメント事業者ながら、これまで通信障害や個人情報などのデータ漏洩が一切ないのは極めて珍しいケースです」
大手法律事務所出身で、勢いのある会社かつビジネスサイドと近い距離で働きたいと考え同社に転職した鵜木氏は、そのスピード感にも驚くという。
「入社後すぐに、PayPayカードの子会社化とPayPay証券に対する出資という2つのグループ再編にかかわりましたが、どちらの案件も法務に相談が来てから極めて短期間でまとまりました。フットワークの軽さと意思決定の速さにびっくりしました。そのスピード感を緩めないよう、我々もプロアクティブに動けるよう、ビジネスサイドとは日頃からダイレクトかつ密接にコミュニケーションを取っています。一線に伴走し、自らビジネスを進めている実感がありますね。日常的に、『このサービスをこう変えたいけれどどう思うか?』など、論点の異なる相談が次々来ますし、日々新たな課題に立ち向かうことばかりなので、法律家としてのやりがいもあります。PayPayの名が付く会社やサービスが増えていますし、今後ますます多角化に向けて舵を切っていくのだろうと期待しています。サービスは大きなものになってきていますが、金融サービスのプロバイダーという観点で見れば依然成長過程なので、まだまだ伸びる余地があることが楽しみです」
鈴木氏も、こう補足する。
「世の中にないもの、お客さまが本当に便利に思うものをいち早くつくり、市場に送り出す――それが、当社の大事にしている理念で、我々も、そこに当事者としてかかわります。新たなサービスが世の中に広がっていくことを目の前で見ることができるのは、大きなやりがいです。
そんな、世の中にまだないものをいち早くつくり出していくには、我々自身が世の中のニーズが明らかになる前に、動かなければいけません。そのため、他社が1年かけることは1カ月で、1カ月かけることは1日で動く。私自身を含めて、入社者のほとんどが、最初はそのスピード感に面くらいますが、今ではそれが当たり前となっています」