同社では、IoTを活用したスマート農業など、新規ビジネスの支援も精力的に進めている。そうした案件に法務部がどのように関与したか、砂長谷氏にうかがった。
「一例ですが、当社では2021年11月にインドの大手トラクターメーカー、エスコーツ社(現EKL社)の過半数株式を取得し、グループに迎え入れました。金額・規模ともに近年最大級の買収案件で、インド市場を基軸に新興国を含むグローバル市場でのシナジー創出を目指す戦略的な取り組みです。法務部は、買収後の協業フェーズにも深く関与してきました。開発費や人材の確保、税務、輸出管理、知的財産などの実務的課題対応、文化の違いによるコミュニケーションの齟齬といった課題をクリアしつつ、クロスボーダーのプロジェクトが円滑に〝見とおしよく〟進むよう、当社と現地経営陣への提案や取りまとめを実施。課題が多岐にわたるなか、法務部が率先して能動的に行動し、協業を前進させる役割を担っています」
髙瀨舞氏は、砂長谷氏と取り組んだ、米国のアグリテックスタートアップ企業のグループ会社化について、次のように振り返る。
「画像解析技術とAIを用いて果樹園のモニタリングサービスを提供するブルームフィールド ロボティクス社を、当社の北米統括会社の子会社としました。この買収案件では、買収ストラクチャーをどう組むかが大きな論点でした。『株式購入方式が税務的には低コスト』との税務コンサルタントのアドバイスもありましたが、法務的にはどうかとの観点で砂長谷とメリット・デメリットを協議し、法務からは逆三角合併方式を提案しました。この検討のなかで、株式購入方式で用いるドラッグアロング権の強制的な行使には裁判所の手続きが必要で、簡単に使えないと知るなど学びがありました」
「買収の検討段階で大枠の金額は双方合意していましたが、どの費用や項目が含まれるのかといった定義が不明確なまま議論が進んでいたようで、先方と話がかみ合わないことを、私も髙瀨も感じていました。そこで私たちは項目や金額を洗い出し、図にしてプロジェクトメンバーに提示し、ギャップを浮かび上がらせることにしました。それが議論を前に進めるきっかけになりました。また、買収の実行段階で必ず必要となる現地の財務や法務関係者を巻き込み、必要な人材をプロジェクトに早期に加えることも提案。結果的に、プロジェクト全体の進行や体制構築にも関与できたことで、契約やスキーム設計といった法務本来の業務にとどまらない事業貢献ができたと思っています」(砂長谷氏)
髙瀨氏は、26年に米国のロースクールへ留学する予定だ。その意志を固める契機となったのが、同案件を担当したことだった。
「私が米国の法律や実務にもっと精通していれば、よりよいアドバイスができたのではないか。私が弁護士の資格を持っていれば、もっと発言の信頼性や説得力も高まったのではないか――そうしたことを痛感し、留学を決意しました。来年、夫と2歳の子供と一緒に渡米予定です。上司の理解と仲間の協力、そして『成長したい。挑戦したい』を応援してくれる風土であることに感謝しています。帰国後、事業の発展に貢献できるよう、しっかり勉強してきます」(髙瀨氏)
留学以外にも、〝グローバル〟を経験できる機会が数多くある。
「国内にいながら英語でのコミュニケーション力を高められるよう、人事制度の一環で、プライベートやグループでの英会話レッスンを全員が受講できる体制を整えています。また、昨年から本格的にインド、ヨーロッパ、タイ、北米の各拠点をつなぎ、四半期に一度のリーガルミーティングを実施しています。その際、若手メンバーに担当地域を割り当て、各拠点からアジェンダを収集し、会議を招集・進行する役割を担ってもらっています。メインスピーカーとして議論をリードすることは、日頃の語学学習や実務経験の成果を試す絶好の機会です。さらに海外出張の際には、若手メンバーにも可能な限り同行してもらう予定です。こうした取り組みが、語学力や実務力の向上とともに学び続けるモチベーションや自信につながることを期待しています」(砂長谷氏)