Vol.94
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法務部は、弁護士資格者3名を含む22名(東京本社審査法務部を除く)の陣容。なお、コンプライアンス本部は、コーポレートおよび機械事業の法務を取り扱う法務部(大阪)と、水環境事業の法務を取り扱う東京本社審査法務部で構成されている

法務部は、弁護士資格者3名を含む22名(東京本社審査法務部を除く)の陣容。なお、コンプライアンス本部は、コーポレートおよび機械事業の法務を取り扱う法務部(大阪)と、水環境事業の法務を取り扱う東京本社審査法務部で構成されている

THE LEGAL DEPARTMENT

#166

株式会社クボタ コンプライアンス本部 法務部

“経営法務”を掲げ、各事業と一体となり、ビジネスのグローバル化を強力に支援

〝経営法務〟実践のための2つの役割

1890年創業の株式会社クボタは、農業機械や建設機械などの機械事業と、上下水道などのパイプラインインフラ関連製品・環境関連製品を手がける水・環境事業を主軸とするグローバル企業だ。

同社法務部部長の砂長谷卓也氏は、法務部の方針として〝経営法務〟を掲げ、事業の進化に即した法務機能の再定義を進めている。

「当社は現在、開発・製造・販売の本格的なグローバル展開を進めており、海外のサードパーティとの連携も増加中です。こうした事業環境と成長ステージを踏まえ、法務部も経営と同じ視点で、経営課題と事業課題を一体的に検討し、必要な打ち手を能動的に提案・実行することを重視しています」

経営法務の実践にあたり、〝社員と会社を守る法務〟に加え、〝儲かる法務〟という視点が重要となる。

「〝儲かる法務〟は、利益至上主義という意味ではありません。しかし、営利企業である以上、〝事業体の最終目標〟を突き詰めれば、やはり〝儲ける〟ことが必要不可欠です。よく言う〝攻めの法務〟の意味するところを一歩進めて、経営と事業に貢献していこうという気概をメンバーに浸透させたくて、あえて使っている言葉です」

その思いは課の名称にも表れる。「『法務審査課』という名称が、〝クボタ法務〟の特色を最も表しています。与信管理などの審査機能は経理や財務部門が担当するケースが多いですが、当社では法務部が、契約の法務的な内容のチェックだけでなく相手先の財務状況や信用情報も含めて審査します。例えば、当該相手方に対して当社他部門が有する債権の有無や残高を把握したり、相手企業の決算書を取り寄せて内容を確認し、必要に応じてヒアリングを行うなど。このような情報を支払い条件に反映させたり、取引の限度額(いわゆる与信枠)の設定に用います。いわば〝数字に基づいて判断する機能〟を法務が有しています。このように財務的視点とリーガルの知見を融合することも、〝儲かる法務〟の実現につながると考えます」

法務部は、企画業務やコンプライアンス関連を主に担う総括課、法務審査(第一、第二)課、カスタマー相談課で構成される。一定期間でローテーションを実施

視野を広げるための機会を多数設ける

同社では、IoTを活用したスマート農業など、新規ビジネスの支援も精力的に進めている。そうした案件に法務部がどのように関与したか、砂長谷氏にうかがった。

「一例ですが、当社では2021年11月にインドの大手トラクターメーカー、エスコーツ社(現EKL社)の過半数株式を取得し、グループに迎え入れました。金額・規模ともに近年最大級の買収案件で、インド市場を基軸に新興国を含むグローバル市場でのシナジー創出を目指す戦略的な取り組みです。法務部は、買収後の協業フェーズにも深く関与してきました。開発費や人材の確保、税務、輸出管理、知的財産などの実務的課題対応、文化の違いによるコミュニケーションの齟齬といった課題をクリアしつつ、クロスボーダーのプロジェクトが円滑に〝見とおしよく〟進むよう、当社と現地経営陣への提案や取りまとめを実施。課題が多岐にわたるなか、法務部が率先して能動的に行動し、協業を前進させる役割を担っています」

髙瀨舞氏は、砂長谷氏と取り組んだ、米国のアグリテックスタートアップ企業のグループ会社化について、次のように振り返る。

「画像解析技術とAIを用いて果樹園のモニタリングサービスを提供するブルームフィールド ロボティクス社を、当社の北米統括会社の子会社としました。この買収案件では、買収ストラクチャーをどう組むかが大きな論点でした。『株式購入方式が税務的には低コスト』との税務コンサルタントのアドバイスもありましたが、法務的にはどうかとの観点で砂長谷とメリット・デメリットを協議し、法務からは逆三角合併方式を提案しました。この検討のなかで、株式購入方式で用いるドラッグアロング権の強制的な行使には裁判所の手続きが必要で、簡単に使えないと知るなど学びがありました」

「買収の検討段階で大枠の金額は双方合意していましたが、どの費用や項目が含まれるのかといった定義が不明確なまま議論が進んでいたようで、先方と話がかみ合わないことを、私も髙瀨も感じていました。そこで私たちは項目や金額を洗い出し、図にしてプロジェクトメンバーに提示し、ギャップを浮かび上がらせることにしました。それが議論を前に進めるきっかけになりました。また、買収の実行段階で必ず必要となる現地の財務や法務関係者を巻き込み、必要な人材をプロジェクトに早期に加えることも提案。結果的に、プロジェクト全体の進行や体制構築にも関与できたことで、契約やスキーム設計といった法務本来の業務にとどまらない事業貢献ができたと思っています」(砂長谷氏)

髙瀨氏は、26年に米国のロースクールへ留学する予定だ。その意志を固める契機となったのが、同案件を担当したことだった。

「私が米国の法律や実務にもっと精通していれば、よりよいアドバイスができたのではないか。私が弁護士の資格を持っていれば、もっと発言の信頼性や説得力も高まったのではないか――そうしたことを痛感し、留学を決意しました。来年、夫と2歳の子供と一緒に渡米予定です。上司の理解と仲間の協力、そして『成長したい。挑戦したい』を応援してくれる風土であることに感謝しています。帰国後、事業の発展に貢献できるよう、しっかり勉強してきます」(髙瀨氏)

留学以外にも、〝グローバル〟を経験できる機会が数多くある。

「国内にいながら英語でのコミュニケーション力を高められるよう、人事制度の一環で、プライベートやグループでの英会話レッスンを全員が受講できる体制を整えています。また、昨年から本格的にインド、ヨーロッパ、タイ、北米の各拠点をつなぎ、四半期に一度のリーガルミーティングを実施しています。その際、若手メンバーに担当地域を割り当て、各拠点からアジェンダを収集し、会議を招集・進行する役割を担ってもらっています。メインスピーカーとして議論をリードすることは、日頃の語学学習や実務経験の成果を試す絶好の機会です。さらに海外出張の際には、若手メンバーにも可能な限り同行してもらう予定です。こうした取り組みが、語学力や実務力の向上とともに学び続けるモチベーションや自信につながることを期待しています」(砂長谷氏)

クボタは、高齢化と人手不足が深刻化する農業現場の省力化などの社会課題に挑む。写真は、自動運転農機「アグリロボ」シリーズのトラクタ(提供/㈱クボタ)

グローバル体制の整備を加速する

法務部では、砂長谷氏が中心となってDXを推進してきた。例えば、CLMツールは業務効率化の手段にとどまらず、蓄積されたデータを可視化・分析し、経営に示すための材料としても活用する。事業ごとの契約傾向や対応の特徴を数値で捉えることで、事業の方向性との相関を見いだし、将来の業務負荷を予測。必要な対応を早期に提案し、経営層と共有することで、法務の視点から事業を力強く後押ししている。まさに「数字をもって経営と対話する法務=経営法務」を体現していると言える。

コンプライアンス本部長の山田進一氏は、今後を次のように語る。

「現在、当社の事業はすでに約8割が海外で展開されており、砂長谷も話したとおり、開発・製造・販売すべての機能がグローバルに広がっています。こうしたなかで、法務・コンプライアンスも〝日本対海外〟という構図ではなく、現地法人と連携しながらクロスボーダーで課題を把握・対応できる体制が一層求められます。今後は、本社と各拠点のリーガル機能を有機的につなぎ、世界全体で最適なリーガル体制を築いていかねばならないと考えています。こうした変化のなかで求められるのは、各国のビジネスや文化を理解し、現地の人と垣根なく協働できる人。また、〝1円のコストの重み〟や〝安全性確保の責任〟といった現場感覚に共感できる仲間も増やしていきたい。今後5年間で、事業に最も貢献できる法務部の体制・人材配置を見極め、グローバル全体で最適なネットワークを構築していきたいと考えます。新たな挑戦の連続ではありますが、今こそ大きな成長のチャンスと捉えています」