Vol.94
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法務部は13名の陣容で、うち70期台の弁護士が3名、60期代の弁護士が1名所属。即戦力入社者も多いが、近年は新卒入社者も増えている

法務部は13名の陣容で、うち70期台の弁護士が3名、60期代の弁護士が1名所属。即戦力入社者も多いが、近年は新卒入社者も増えている

THE LEGAL DEPARTMENT

#168

大鵬薬品工業株式会社 法務部

創薬を通じて医療と人々の健康を守る、“生命関連企業”の法務として尽力

グローバル化に資する体制を構築

1963年に設立された大鵬薬品工業株式会社は、がん領域を柱とする医療用医薬品と、一般用医薬品の製造販売をグローバルに展開する総合医薬品メーカーだ。
 
大塚グループの事業会社の一つであり、新薬の研究開発力強化と海外進出を加速し、事業成長を続けている。同社の経営を法的側面から支えている法務部が注力する取り組みについて、部長の杉原俊浩氏にうかがった。

「グローバル市場での事業が急拡大し、24年度では海外売上比率が全体の約6割に達しています。ゆえに、法務ファンクションとしてグローバルで機能する体制の構築が喫緊の課題となっています。複数ある海外子会社は、抗がん剤ビジネスを展開している会社や、がん領域のスタートアップ企業への投資を主な事業としています。抗がん剤に関する法務業務は、国・地域が変わっても共通点が多いため、法務同士で連携する際も〝同じ基盤〟での議論や協働が可能です。大鵬全体のリスク低減と事業成長の後押し、その両方に寄与していくため、海外子会社の各法務メンバーとの〝ワンチーム〟体制構築をさらに推進していきます」

もう一つ、同部が注力しているのがDXの推進だ。

「生成AIの活用においては、従来業務すべてを置き換えるのではなく、〝活用しやすい部分〟を見つけ、そこから始める発想で進めています。例えば、契約書レビューに関しては、AIが得意とする契約類型から導入していくといったかたちです。また、ナレッジマネジメントにおいては、これまで属人化していた知見を収集、文章化・データ化し、蓄積して活用できる仕組みづくりにも取り組み始めました。こうしたDXの推進によって削減できた時間は、各人のスキルアップの時間に充ててもらいます。グローバル関連業務としては、現在、英文契約書のチェック、海外拠点の設立・立ち上げ、海外法務メンバーとの協働などで、当該業務に携わるメンバーが法務部全体の約半数を占めます。今後もDXの導入に挑戦しながら、ビジネス知識や法的専門知識の習得はもちろん、グローバルな対応力を備えた人財が育ちやすい職場環境を整えていきます」

「相談相手の話をしっかり聞く風土と、案件を任せたメンバーを、しっかりサポートする体制があります。だから、若手も安心して業務が遂行できます」と、佐々木氏

プロアクティブな実務力をつける

法務部内は、研究、開発、信頼性保証、製造、販売・マーケティングなど、製品のライフサイクルの工程軸であるバリューチェーンの機能ごとに担当分けされている。佐々木佳奈依氏に、具体的な仕事内容をうかがった。

「印象深かったのは、医療用医薬品候補の導出(他社へのライセンス供与)案件です。当社の研究所で創薬した開発候補品を、研究開発に強みを持つ他社に導出し、早期実用化を目指すプロジェクトでした。事業開発部門が選定した提携先とのライセンス契約において、条件整理や交渉、契約文書のチェックなどを担当しました。さらに、提携先への開発資金の一部出資のため、投資契約にも関与。知的財産や開発義務の明確化、将来的な収益配分など、法的リスクを最小化する契約条件を整えました」

提携先は、本製品開発のために新たに設立された特別目的会社(SPC)。将来的な販売継続を前提とする従来型のライセンス契約とは異なり、提携先はエグジット(事業売却)も見据えた投資的要素が強い契約であった。

「私自身は、それまで導出先自身が製品の販売を想定した案件の対応経験しかなく、提携先が考えるゴールと弊社のゴール、双方の利益となる最善の落としどころを探り、持続可能な条件を構築していくことは難題でした。また、短期間での合意締結が必須で、なおかつ複数部署や関係会社との調整を並行して進める必要もありました。研究、事業開発、知財、経理など、多岐にわたる部署と連携し、相手方ともスピーディーに条件を詰めていく過程はとてもチャレンジングで、期限内に契約をまとめ上げられた時は、大きな達成感を得ることができました」(佐々木氏)

グループリーダーの梅本恵太氏は、「佐々木にとって初めての外部企業とのライセンス契約でしたが、初めてとは思えないほど安心して任せられました。本件は海外と日本、2つの法律事務所を併用する変則的な体制で、事務所間の調整や想定外の対応も必要でしたが、期限内に着実にまとめ上げてくれました。案件としても良い成果を収め、本人にとって大きな成長の糧になったと思います」と、語る。

「担当した当初はやや受け身で、周囲のサポートや指示を待ってしまうこともありました。しかし、社内の関係各所とのやり取りが非常に多く、期限も限られていたため、『レスポンスを待っていては進まない』とすぐに気づき、それからは主体的かつ積極的に行動しました。この経験は、自分の仕事のスタンスを大きく変えるきっかけになったと思います」(佐々木氏)

佐々木氏は司法修習を経て、新卒として同社に入社した。入社動機について、次のように語る。

「インハウスローヤーを選んだのは、企業の一員として、そしてビジネスの当事者としてプロジェクトの入り口から出口まで携わりたいと思ったからです。数ある企業のなかで当社を選んだきっかけの一つに、『いつもを、いつまでも。』というコミュニケーション・スローガンがあります。これは、創薬を通じて病気を治すだけではなく、すべての生活者のかけがえのない〝いつも〟が続く力となり、支え続ける――という企業からのメッセージです。弁護士として『人を助けたい』という思いが強かった私にとって、このスローガンに込められた思いは、自分の目指す姿と重なりました」

様々ながん領域の医療用医薬品を国内外の幅広い市場に提供し、患者の治療選択肢を拡大している。また、栄養ドリンク「チオビタ・ドリンク」、胃腸薬「ソルマック」シリーズなどの一般用医薬品も幅広く展開する

多様性をよしとする組織づくり

佐々木氏は、「創薬のシーズは星の数ほどあっても、医薬品として承認が得られるまでたどり着けるものはごくわずか。研究部門の担当が長かったこともあって、研究段階から見てきたものが将来的に薬として完成するのを楽しみに働いています。そうした楽しみが持てるのは、製薬会社ならではだと思います」と語る。佐々木氏のように、「自らの仕事に誇りと喜びをもって仕事に向き合えるメンバーばかりです」と、杉原氏も続ける。

「法務部の強みは、〝大鵬薬品〟を肌で感じて理解しているメンバーが多数在籍しているということです。社歴は様々ですが、抗がん剤事業に関する知識はもちろん、〝大鵬らしさ〟―― 佐々木が述べたスローガンを含めた企業文化や価値観を理解し、実際に体感してきた人財が多いのです。また、当社の行動規範に『生命関連企業人としての自覚を持つ』という言葉があります。〝生命関連企業人〟とは、『我々の製品は患者さまの命に関連するため、高い倫理観をもって行動しよう』ということを示す造語ですが、法務部の一人ひとりが、この言葉を大切にし、業務に向き合っています。この姿勢もまた、法務部の強みの要因になっていると思います」

梅本氏に、どのような人財が法務部に合うかうかがった。

「法務業務は多岐にわたるため、会社にとって何が重要で、何がそうでないかを見極め、メリハリをつけて効率的に仕事を進める姿勢が求められます。その見極めを行うための前提として、部内外の人たちと円滑にコミュニケーションを取る力が、法務部員には必須です。また、リーガルテックの進展や新法の施行、事業のグローバル化など環境が大きく変わっているので、新しいことに興味を持ち、積極的に学び、取り入れるといった好奇心旺盛な方が向いています」

梅本氏は、「キャラクターは多様であればあるほどいい」と言う。新卒採用・キャリア採用・社内異動によって部内の多様性を深めていくことはもちろん、海外子会社などとの人財交流も、将来的に行われる可能性もある。

「人財の〝流動性〟は、組織の活性化につながります。人財が入れ替わっても、組織が円滑に機能するよう、私たちマネジメントは、システムや部内ルールなどの仕組みをしっかり整えるよう尽力していきます」(梅本氏)