「私の同期(53期)で組織内弁護士になったのはわずかに三人。まだまだ日本では遅れた分野だと認識していたのですが、組織内弁護士は専門性が高く、ある意味特殊な立場なので、当然、それを束ねる組織があるだろうと思っていたのです。ところが実際にはなかった。そこで仲間三人で集まり、勉強会を始めました。それが日本組織内弁護士協会の母体となったのです」
そう語るのは、同協会の理事長を務める梅田康宏氏だ。当初は十名程度の組織だったが、現在では会員数は八十二名(平成十九年十月七日時点)を数えるまでに拡大。それでもアメリカなどに比べれば圧倒的に人数は少ないし、情報も足りない。
「もちろん組織内弁護士同士の情報交換も大切。ただ、それと同等以上に重要な目的が、『実際に弁護士を雇う企業の側に、いろいろなことを知ってもらう』という点です。大企業に限らず、組織内弁護士の重要性を認識している企業は少なくないのですが、弁護士に何を任せるか、迷っているところも少なくありません」
梅田氏自身は、日本放送協会(NHK)の組織内弁護士を務めている。もともとメディアに興味があったこと、一般の弁護士がなかなか踏み込めない「表現の自由」や、人権に取り組めると考えたことなどが同社を選択した理由だった。
「実際に携わって知ったのは『ビジネスの最初から最後にまで関わることができる』という、組織内弁護士の強みでした。企業のビジネスに関わるのは顧問弁護士も同じですが、どうしても範囲が限られてくるうえ、一つの事案を深く追求することはできません。企業の内側で働けば、事件の解決だけでなく大きなプロジェクトを牽引することもできます。基本的に弁護士の仕事は受動的なものですが、組織内弁護士は能動的に仕事を進めることができるというわけです」
企業法務部において社内の各部門に助言をしたり、適切な社外弁護士を選定することが企業弁護士の一般的な役割だが、「法律の専門家」の立場で積極的にビジネスの創出に携わることこそが、彼らと彼らを雇う企業のメリットだと梅田氏は説く。
「多くの場合、土日や年次休暇、育児休暇などもきちんと取れますので、仕事と私生活の両立には向いています。しかし、ラクをしたい手を抜きたいという気持ちでこの仕事を選ぶとしたら大きな間違い。弁護士でありながら主体的に仕事をしたい、クリエイティブな仕事に取り組みたいという人にこそ向いています。企業も、万が一の保険で『社内に弁護士を置く』のではなく、もっと積極的に組織内弁護士を活用してほしいですね」