Vol.98
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左から、本間隆浩弁護士(60期)、野口祐子弁護士(50期)、今仲翔弁護士、髙田洋輔弁護士(63期)、武田彩香弁護士(62期)

左から、本間隆浩弁護士(60期)、野口祐子弁護士(50期)、今仲翔弁護士、髙田洋輔弁護士(63期)、武田彩香弁護士(62期)

STYLE OF WORK

#208

ARX法律事務所

“答えがない経営課題”の解決を目指し、戦略的コンサルティングで企業法務を支援

法務部門の悩みに寄り添う

企業の法務部門が経営陣から寄せられる期待は、法律問題への対応だけでなく、経営への関与、法務人材の育成や組織づくり、AI活用による業務効率化など幅広い。そうした期待に対して、様々な試行錯誤を重ねる法務部門や法務責任者に伴走しているのが、2025年に誕生したARX法律事務所である。今仲翔弁護士は、言う。

「創業メンバーは全員、法律事務所で多くの企業法務案件に携わった後、インハウスローヤーとして様々な企業に転職し、ゼネラルカウンセル(GC)などの法務責任者を経験しています。企業内で責任のある立場になって、より現実的に実感したのは、弁護士として外からかかわっていた法務業務は、経営課題を解決するための手段の一つでしかないということ、事業や経営の推進こそが真の目的であることなどでした。その一方で、『法務責任者として自分が負う幅広い役割について、気軽に相談できる相手が身近にいない』ことに、いつも思い悩んでいました。創業メンバー全員が、『法務責任者が気軽に法律問題以外についても相談できる法律事務所は希少で、その需要は大きい』と考えたことが、事務所設立のきっかけです」

設立前、ベンチャーキャピタルで投資マネージャーを務めていた髙田洋輔弁護士は言う。

「日々、多くの起業家や経営者とビジネスを進めるなか、経営陣が私に対して求める問題解決のスピード感や仕事の粒度は、弁護士として法律事務所にいた頃に提供していた内容とは大きく異なることを痛感しました。その経験があったので、弁護士として経営陣が求める品質のサービスを提供したいと考え、立ち上げに参画しました」

依頼を受ける側と依頼する側、双方の立場を深く経験した弁護士が揃うことが、同事務所の特徴であり、強みである。

創業メンバー3名(今仲弁護士、武田弁護士、髙田弁護士)のもとに、野口弁護士・本間弁護士が参画し、2026年7月から5名体制となった。コミュニケーションはオンラインが中心だ

法律相談の先にある戦略的な企業支援

同事務所を特徴づけるのは、M&Aやコーポレートガバナンスといった法律業務はもちろん、法務組織の課題分析や改善提案、組織計画・予算策定など、法務部門の運営を支援するコンサルティングサービスを提供していることだ。今仲弁護士に、その一例を聞いた。

「つい先日、上場企業の法務責任者から、マテリアリティの策定やコーポレートガバナンス施策に関するKPI設計の相談を受けました。こうした相談への対応が、コンサルティングサービスの一例です。私たちがコンサルティングを行う相談内容は、多くの企業が悩んでおり、なおかつ私たちも絶対の正解を持っているわけではない、難しいテーマであるケースが多いと感じます。ですから私たちは、まず所内で各自の知見を共有し、クライアントに対しては各社の事情を踏まえて、『こういう進め方もあるのではないか』と提案していきます。法務責任者と一緒にゴールを考え、彼らの“壁打ち相手”として伴走していくスタイルです」

また、同事務所には、積極的にグローバル展開を進める日系企業の法務責任者からの相談も多い。

「『グローバルの法務を本社が統括できていない』という課題を抱えている法務責任者や経営陣が相当数いらっしゃいます。とはいえ、ハイレベルなグローバル法務体制をいきなり構築するのは難しいので、『現地でどのような人材が必要か?』『日本側の統括者のスペックは?』『そういう人を採用するには?』など、現実的な面から問題を解消し、一つずつ一緒に前に進めていくことを心がけています」

こうしたクライアント支援のあり方について、野口祐子弁護士は次のように語る。

「例えば、著作権やM&Aの法律相談を起点に、『次はどの部署にどんな機能をもたせるべきか?』『この案件の最終判断を下すのは組織内のどの部署がよいのか?』などと、議論が発展していくことがあります。つまり、企業において法律相談と組織づくりは地続きなのです。それを知っているからこそ、私たちも法律相談とイノベーティブで強い企業づくりというコンサルティングの境目なく、総合的なアドバイスを心がけています。企業での勤務経験があり、課題全体を俯瞰して支援する知見を有した弁護士が集結していることが、ARXの魅力だと思います」

本間隆浩弁護士も、言う。

「企業内の事案は、それぞれ独立して存在しているものではなく、経営戦略や事業計画をベースに、すべてが“線”でつながっているものだと考えます。そのため私は、一つひとつの法律相談だけではなく、企業全体の文脈や背景を理解したうえで伴走することが重要だと思っています。つまり、点ではなく線を意識したサポートができることが、私たちの価値と考えています」

スタートアップやベンチャーキャピタルが集積するシリコンバレー・パロアルトに開設したオフィス。同オフィスを拠点に、最先端のA I領域の情報をキャッチアップし、法務支援に生かす

未来の法務人材育成も見据える

不確実性の高い時代において、経営陣が法律の専門家である弁護士に望むのは、「リスクを取っても実現する」というギリギリの経営判断を支える存在になってくれることだ。今仲弁護士は、言う。

「例えば、企業が新規事業を推進する際は、法的リスクや前例のない課題がつきものです。誰も手を出さない事業には何らかのハードルがあるけれど、そこに大きなチャンスも眠っている。法律というルールを熟知している私たちだからこそ、限界まで攻めることができる。ルールを正しく理解した者が、『どこまで挑戦できるのか(リスクが取れるのか)』を経営者とともに考え、動かしていく。事業と経営を前へ進めるために、法律の知識や法務の経験を生かすことを戦略法務ととらえ、これを提供し続けていきたいと思います」

近年、同事務所では企業のAI活用に関する相談も著しく増えている。今年7月にジョインしたばかりの野口弁護士は、元Google日本法人のGCで、彼女の参画を契機に、シリコンバレーオフィスを開設した。今後は野口弁護士を中心に、現地で得た最新のAIと組織経営や法曹実務の知見を日本企業へ還元していく考えだ。

AI活用がどこまで広がろうと、事業の前進に向けた意思決定を支える戦略法務の重要性は揺らがない。武田彩香弁護士は、言う。

「AIが進化するほど、人にしか提供できない価値はむしろ明確になっていくと思います。これまで人手を要していた調べ物や論点整理といった作業は、今後はAIに置き換えられていくでしょう。しかし、そもそも、弁護士や法務の本質的な提供価値は、情報そのものの提供ではなく、経営陣やクライアントの悩みに対して『どうすれば解決できるか』を考え、それを実現するための支援をしていくことだと思います。これはまさに戦略法務の領域であり、AIには到達できない領域の仕事ではないでしょうか」

AIにはできない“人の判断”を、野口弁護士はこう説明する。

「AIは、法令や判例の整理などに力を発揮する一方で、文字化されていない情報を取り入れた判断はできません。例えば契約交渉や紛争解決には、相手との関係性や社内事情、優先順位をふまえたアドバイスが必要です。法律上の正解だけで現実の課題は解決できないのです。経験に裏打ちされた“相場観”や、感情を考慮した“落としどころを探る力”は、今後も人間ならではの強みであり続けるはずです」

こうした力は、一朝一夕に身につくものではない。次世代の法務人材を育てることも、これからの企業法務における重要なテーマだ。法務部門の組織づくりや人材育成に長年携わってきた野口弁護士は、「企業経営のなかでリスクをどう考え、どう意思決定するのか。そうした経験や考え方を還元し、次世代のGCを育てることにも力を注ぎたい」と話す。同事務所だからこそ、人材育成まで見据え、法務部門を支えていくような新たな価値の提供が可能となる。本間弁護士は言う。

「企業法務の強化が日本企業の強化につながると言われていますが、その重要性を企業に勤務して実感しました。企業法務をサポートする新たなサービスをつくり、日本の企業法務の強化をリードする事務所でありたいと思います」

法律事務所で培ったプロフェッション、企業法務での経験、そしてAI時代を見据えた人材育成や組織づくり。それぞれの経験や強みをかけ合わせながら、同事務所は企業の課題に深く寄り添う。法律相談の枠を超え、ビジネスの明日をともに創造するパートナーとしての挑戦は、始まったばかりだ。

Editor's Focus!

事務所名のARXは、「依頼者と歩みを“共に”し(Accompany)、真の課題を“解決”し(Resolution)、常に“卓越”を目指す(Excellence)」という価値観を象徴する。全員、森・濱田松本法律事務所出身だが、「偶然が重なっただけで同じ事務所の出身者にこだわっているわけではない」と今仲弁護士は笑う。「前事務所のシニアパートナーなどレジェンドと呼ばれる弁護士は、CEOを含む経営陣の右腕として外の弁護士の立場からGCに近い働き方をしていたように見えた。我々もそうありたい」(今仲弁護士)