Vol.45
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事業の現場に寄り添い、信頼される法務室メンバー(中央が山内室長)

事業の現場に寄り添い、信頼される法務室メンバー(中央が山内室長)

THE LEGAL DEPARTMENT

#53

松竹株式会社 法務室

日本を代表するエンターテインメント企業の作品製作をサポートする“知的ミーハー”集団

作品は、一人が〝一気通貫〞で担当

今年、創業120周年を迎えた同社は、邦画やアニメ映画の製作・配給、洋画の買付・配給などを行う「映像」、歌舞伎、一般演劇の企画、製作、興行などの「演劇」、それに「不動産・その他事業」を事業の3本柱としている。

各部署がそれぞれ契約書の作成などを行っていた同社に、独立した法務担当部門が置かれたのは、2005年のこと。07年に、山内貴美子氏が別のエンターテインメント企業から転職し、法務室室長に就いた当時は、まだ現在のような体制の確立に向けた過渡期だった。「契約書の作成や商標に関する業務は、法務室が一手に引き受ける、という法務としての輪郭づくりからスタートしました」と山内氏は振り返る。

「契約書づくりを引き受けるようになって以降、徐々に各部門から入る情報量が増え、契約書以外の相談案件も多く寄せられるようになりました。現在では、法的な問題があれば、すぐに我々のところに話が来ますよ」

法務室は、山内氏を含め5人の体制で、そのうち司法書士資格保持者が一人。このメンバーで、年間700件ほどの契約書作成依頼に応じている。

「映像も、演劇についても、基本的に一つの作品を、一人の室員が〝一気通貫〞で担当する」のが、同社のやり方だという。

「映画であれば、共同製作契約、制作委託契約から、監督や脚本家、出演者などとの個別の契約書作成はもちろん、例えば道路の使用許可をどうするか、といった制作に付随するあらゆる法的な課題に対応するのです」

そうした手法を取る理由を、「大手企業の法務などでは、契約書を担当する人は、ずっとそればかり、ということがありますよね。そういうスタイルだと、その道のプロにはなれるかもしれませんが、〝つぶし〞が効かない。私は、メンバーに、広く活躍できる法務人材として成長してもらいたいのです」と山内氏は説明する。

松竹株式会社 法務室
室員が作成した契約書は、山内室長がすべてチェックし、必要に応じてアドバイス。そうしたOJTに加え、外部のセミナーなどにも積極的に参加して、スキル向上に努めている

「ビジネスを知る」が、何より大事

松竹株式会社 法務室
5月16日公開の映画『駆込み女と駆出し男』(原田眞人監督・脚本、大泉洋主演)のポスター(©「駆込み女と駆出し男」製作委員会)

エンターテインメント界に確固たる地位を築く同社だが、「仕事を進めるうえで、業界ならではの〝お作法〞のようなもの」もあるそうだ。

「監督や出演者によっては、法的に正しいか否かとは別に、その都度意向をうかがったり、といった個別の対応が必要になることがあります。契約書には書かれない、独特の慣習もある。法務としてもそこをしっかり理解しながら、現場に対するように心がけています」

エンターテインメント企業の法務として最も神経を使うことの一つが、著作権など知的財産権の扱いだ。

「侵害行為の結果、作品が差し止めになったりしたら、目も当てられません。現場は、どうしても〝イケイケ、ゴーゴー〞になりがちなので(笑)、法務としては常に原則論に立ち返って、対応するようにしています」

全社的な問題意識の高揚に向けて、定期的に法務発のニュースなどをメール配信するほか、年に2回、室員が講師を務める社内セミナーを開催している。

講師をすることは、その人の成長にもつながる。「メンバーには、『ぜひこの人に相談したい』と頼られる存在になってほしい」と山内氏は話す。

「そのためには、法務の専門家である前に、現場を知るビジネスパーソンでなくてはいけない。契約書を読みながらビジネスを想像できるからこそ、『これが足りない』という的確なアドバイスも可能になるのです」

同時に、「室員全員に〝知的ミーハー〞になれ」とハッパをかけているそうだ。

「法律に凝り固まった頭でっかちではなく、何事にも興味を持って、視野を広げてもらいたいのです。それは、必ず仕事に生きてくるはず」

「扱う案件が、確実に増えている」こともあり、一緒に働ける仲間を増やしていきたい思いもあるそうだ。

「『ゼネラルに担当するので、いろんな体験ができる』『かかわった作品が劇場公開されるなどして、多くの人に見てもらえることに、やりがいを感じる』というのが、メンバーの〝職場評〞です。頭が柔軟で前向きな、できれば即戦力となる方に興味を持ってもらいたいですね」

  • 松竹株式会社 法務室
    『男はつらいよ』シリーズや、米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』などの映画、歌舞伎や松竹新喜劇などの舞台でおなじみの松竹が、今年、創業120周年を迎えた。(2)はその記念ロゴマーク。社員は、そのロゴの入った名刺やピンバッジなどでアピールする
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    (2)創業120周年記念ロゴマーク
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    2013年に新開場した第五期歌舞伎座(©松竹株式会社)。初代は1889年(明治22年)に開場