フランスの法律事務所に勤めていた1990年代、日本では欧州の大手ラグジュアリーブランドがもてはやされた時期でもあり、フランス企業を中心に日本で展開するライセンスビジネスのサポートなど知財案件に対応することが多かったです。他方で、在仏日本人が絡む案件――交通事故や離婚などのいわゆる一般民事事件や、傷害や殺人などの刑事事件も担当。中堅職になると、ボスとともに、EU進出を目指す日本の大手メーカーとフランス大手自動車会社のジョイントベンチャー事業による200億円規模の対仏投資にも携わりました。ゆえに、在仏時代に経験した案件の規模は、大小様々です。ルクセンブルグのEU裁判所にもいた経験から、EU法の重要性も認識しており、「欧州に関係あることなら、できる限りワンストップで」というスタンスで、渉外・企業法務をメインに、様々な規模のクライアントのご相談に対応してきました。
現在は、日本企業のアウトバウンドの投資支援だけでなく欧州企業のインバウンド投資支援にも注力しています。主に日本企業の欧州進出の際のM&A、知財ライセンス契約、ディストリビューション契約といったコーポレート・トランザクション、国際仲裁や倒産などの国際紛争解決に携わっています。また、最近ではGDPR対応などのデータプライバシー案件を含むグローバル・コンプライアンス案件も取り扱っています。加えて、国内上場企業の社外監査役も務めており、コーポレートガバナンス関連の実績も豊富です。例えば、フランスを中心とした欧州企業へのアウトバウンドM&A案件では、対象会社のデューデリジェンス(DD)を現地弁護士に依頼する場合には、日本企業の事情や意向を汲んで適宜リクエストを行うなどしてDDの精度を上げ、その後の契約交渉では欧州企業側の行動について先回りすることで円滑に進めることができます。日本以外の大陸法系の国と英米法の両方での知識と経験がある弁護士は非常にまれであり、欧州の主要国(フランス、イギリス、ドイツなど)に投資したい日本の依頼者・現地企業・現地弁護士との間で生じやすいコミュニケーションギャップやロスを、かなりの精度で防ぐことができます。こうした理由によって、相手方の動きについて先回りし想定することが可能となるので、実際にクロスボーダーM&Aの成功精度が高まり、余計なコストが大幅にセーブできたと喜んでくださるクライアントが増えています。
また、私が所属する北浜法律事務所には、日本の法律事務所としてはめずらしく、欧州地域にフォーカスしたヨーロッパプラクティスグループがあります。私もその共同代表として、M&Aやトランザクション、国際仲裁、訴訟だけでなく、GDPRや個人情報保護法などのデータプロテクション、ESG・サステナビリティ法務など幅広く、かつ最先端の知見を共有しつつ、クライアントをサポートしています。
話を少し戻しますが、ルクセンブルグにある欧州司法裁判所(EU統合前の第一審裁判所)でもトレーニーを経験しました。EUでは行政は容赦なく法執行する傾向が強く、しかし法の原理原則に照らして行き過ぎや間違いがあれば裁判所がこれをしっかり是正するという良循環が社会の当然の前提となっており、その分、行政がのびのびと執行しているように感じました。これに比べると日本の場合、国民や企業に対する執行を行政があまりせず、また裁判所も行政に遠慮しがちであるような気がします。皆が互いに遠慮するなか、コンプライアンスが厳しくなっていますので、自ずと日本の企業は“がんじがらめ状態”になってしまっているようにも思えます。文化の違いといえばそれまでですが、欧米では、行政も裁判所も企業も互いに遠慮なしに行動することが前提となっているのです。こういった欧州を含め、各国の法律や裁判所のありようについて、経験を通じて理解しているからこそできるアドバイス――これが私の一番の強みだと考えます。