公設事務所を活動基盤とする松本氏が、手にしてきた「財産」は何だろうか。
「なんでしょうね。やはり『困難に立ち向かってこそ充実感もある』ということを知ったことでしょうか。『それって、普通におかしい』『私は、絶対おかしいと思う』……そう感じた一つひとつに手をつけていくのは想像以上に大変だけど、やり遂げてこそ集中感、爽快感、達成感が得られるんですよね」
では、弁護士として、大事にしていることは。
「相談を受けたら常に『事件をやる』のが弁護士。事件あるいは『おかしいと思うこと』に、立ち向かう姿勢は忘れたくない。事件にしっかり向き合っていたいんですよ」
松本氏は「これって、普通におかしいよね」、あるいは「許せないことは許せないですよ」と、よく語る。とかく多数派の意見に同調したり、自分の中の「悪・善」に自信が持てない人の方が世間には多いのではないか。松本氏には「ブレない・揺るがない」、何らかの基準があるのだろうか。
「わからない。直感なんです、それは。職務上、皆に共通する正義、社会正義があると思いたいのですが……。でもやっぱり『素朴におかしいと思うこと』、それに尽きますよ。当たり前に『おかしいでしょ』という感覚は、大事にしています。今の世の中、いわれのない謗りを受ける、懸命に働いても賃金が低い・待遇が悪い、生保の不払い、年金の消失……、そんな当たり前におかしなことが溢れてますよ」
自分なりの直感、世の中に照らして素朴におかしいと思うこと、それがブレたり、なかったりする人は弁護士には向かないということだろうか。
「それだけで向くとか向かないとか、断言できませんよ。依頼者も弁護士も十人十色で、相性もありますしね。最近は弁護士としての働き方もいろいろですから。でも例えば会社などの組織にいて『自分は承服できなくても皆が推すからのむ方がいいだろう』と思う人は、弁護士には向かないと、私は思っているんです。なぜなら、弁護士は少数者を守ることが職務だから。たった1人であってもその人の意見を守るというのは、憲法の理念であり弁護士の仕事。『多数決だからそっち』という感覚で弁護士をやっている人がいないことを、願います。ただ、こうした見方は『組織人』からすれば、何か欠落しているのかもしれませんけど(笑)。私自身、『自分はそこに嵌っていない』と、いつも感じてきましたし。でも、それでやっていける仕事なんですよ、弁護士は」
組織力に頼らない。素朴におかしいと思う直感を持てる。妥協ができない不器用さで突き進む。これが「在野の弁護士」の条件なのだろう。