そのように〝市民派の事務所〞として歴史を重ねてきた同事務所に、30期代の中井康之弁護士や福田健次弁護士など〝第2世代〞が参画。徐々に企業法務や事業再生などのビジネス案件も増えていった。全国倒産処理弁護士ネットワーク理事長や事業再生研究機構理事なども務める中井弁護士は、大阪ワールドトレードセンタービルディング、家電量販店ニノミヤをはじめとする多くの企業の更生管財人、量販店マイカルや足袋靴下製造販売の福助などの民事再生申立代理人を務めてきた人物だ。松尾洋輔弁護士は言う。
「2020年春から改正民法が施行されますが、中井はその法制審議会の弁護士委員2名のうちの一人。中井が会議に出るためのバックアップを大阪弁護士会のほか、我々も行ってきました。所内で勉強会を開き、次回法制審議会の論点をメンバー間で揉むなどしていたので、おそらく他事務所よりもいち早く改正民法に関する勉強ができています。ひいては、それがお客さまの役にも立っているのではないでしょうか。事業再生、倒産処理についてもトップランナーとなる弁護士から、多くのことを学ぶ機会に恵まれた環境にあると考えます」
近年は上場企業などの顧問先からの相談、事業再生、М&A、金商法関連の案件など企業法務の比重が高まっている。同事務所の「大阪空港訴訟」における環境への姿勢、知見の深さが評価され、公害関連事件におけるメーカー側代理人を務めるなど、企業法務分野の知見に加え、事務所の特色も生かした業務分野を手がけている。
業務範囲がシフトしても、「市民派の事務所である」という原点、弁護士としての在り様は、脈々と受け継がれている。
「各パートナーの顧客には個人や中小企業オーナーもたくさんいます。他事務所の弁護士と協働して弁護団活動に注力する者もいます。もちろん、パートナーによって、そうした一般民事と企業法務の案件の割合は異なりますが、それぞれが〝市民の事件〞を非常に大切に考えています。〝一通りのことができてこそ弁護士である〞というのが、我々の共通の姿勢です」(松尾弁護士)
このように、〝一通りのことができる〞ことに期待して入所したのが、3年目のアソシエイト、王宣麟弁護士だ。
「入所まだ間もない頃、山本淳弁護士に声をかけていただき、発達障がいとクレプトマニア(窃盗症)に悩む方の、執行猶予中の裁判に関与しました。数年前に山本弁護士が国選で弁護をしたことをきっかけに、現在まで縁が続いている方でした。彼は病を自覚していて非常に苦しんでおり、私も彼をその苦しみから解放してあげたいと強く思いました。窃盗症を治療できる機関を探し、保釈して入院させ、自立訓練施設を紹介。一審で実刑判決、控訴審で戦い、執行猶予を狙ったものの控訴棄却。窃盗症は入院治療で治せていたので、彼も我々も悔しい思いをしましたが、控訴審での判決が下りた日、『自分の病(発達障がい)と向き合えるよう、刑務所で頑張ってみる。そう思えたのは先生たちのおかげ』と言ってくれました。彼がそのように、前向きに人生を捉えてくれたことが本当にうれしかったです」
「うちは〝M&Aから刑事まで〞幅広く対応できることが誇りです」と微笑む、奥津弁護士。なお、その奥津弁護士は「The Best Lawyers in Japan(刑事弁護分野)」に、14年から6年連続で選出されているつわものだ。
王弁護士は言う。
「私は大阪弁護士会で子供の権利委員会に所属しており、児童虐待の問題に取り組んでいきたいと思っています。一方で、中国語が話せるので、中国法や中国語を用いて日本法を処理するといった分野も、自分の強みとしていきたい。パートナーのそばで、刑事事件もビジネス案件もできる限り経験させてもらい、弁護士としての高みを目指していきたいです」