東京、大阪、名古屋、仙台、福岡に拠点を置く弁護士法人匠総合法律事務所。前身となる秋野卓生弁護士の個人事務所時代から、住宅・建築・土木・設計・不動産分野に強い事務所として成長してきた。代表の秋野弁護士は、1998年の弁護士1年目から第二東京弁護士会の消費者問題対策委員会土地住宅部会に所属し、同委員会内にシックハウス被害者救済ワーキンググループを設立、住宅品質確保法の施行準備などを行う機関で判例調査業務を手伝った。「専門性を持ちたい」と考えて取り組んだ活動だったが、「住宅関連業界は、手がける弁護士が当時少なく、若手弁護士にも温かかった」と言う。
「建築紛争は難しい技術用語を理解しなくてはならないし、訴額も大小様々で、ありていにいえば手間がかかる。しかし、労を惜しまず全力で取り組めば、業界の知見が深まり、キャリアが浅い若手弁護士でも実力者としての評価が得られる、やりがいのある分野です。私自身が若手だった頃にそこに魅力を感じて今に至っています。また、建築業界の国内労働人口は500万人を超えます。法の光で照らさなくてはならない領域がたくさんあり、これからも、弁護士がサポートできることはまだまだあると思っています」
そのように、特定の業界に強みを持つ事務所ならではの解決例がある。2019年に千葉県で起きた、市原ゴルフガーデンの鉄柱倒壊事故がその一例だ。
「台風の強風で倒壊したゴルフ練習場の鉄柱が、多数棟の近隣住宅に被害を与えた事件。事後の対応や補償をめぐって被災住民とゴルフ練習場側に軋轢が生じていたなか、ゴルフ練習場側の2人目の代理人として入りました。ゴルフ練習場を更地にしたうえで売却し、住民への補償費に充てることで、約1年かけて全住民と和解。この時は、千葉県弁護士会の『災害ADR』を選択しました。まず、人身・建物、ネット飛散、車両と、被害項目を3つに分類。千葉県弁護士会災害ADRのあっせん人の弁護士の皆さんが住民の皆さまに真摯に対応くださったおかげで、依頼者も住民も納得のいくかたちで解決することができました」
「争う趣旨ではなかった」ことが、災害ADRを選択した理由だ。
「東日本大震災発生後、岩手県庁の依頼を受け、現地で防災集団移転促進事業(高台移転)の法律相談に携わりました。震災という不可抗力にもかかわらず、裁判に発展する案件もありましたが、ふたを開けてみれば“足して2で割る解決”、いわゆる和解が多かったのです。『防ぎようのなかった損害で、誰もが争いたくなかった』裁判を、弁護士である私が提案してしまっていたわけです。その反省を踏まえ、5年後の熊本地震の処理の際は、『裁判はしません。互譲の精神で、手を携えていきましょう』といった方針を貫き、様々な揉め事を早期解決に導くことができました。そういった経験を経て、千葉の案件でもゴルフ練習場側と住民側で手を携えていくことが最善であると考え、災害ADRを活用したのです」
一方で、「地裁で負けて高裁で戦うにあたり、業界により詳しい弁護士に頼みたい」という依頼も多く受ける。「『負けられない』という依頼者の本気に応えるかたちで、しっかり結果を残せてきたと思う」と、秋野弁護士。例えば、『判例時報』2199号に載る「太陽光反射光逆転勝訴判決」もその一つだ。
「『太陽光パネルの反射がまぶしい』という隣地建物所有者が、建て主と建設会社に対して、不法行為に基づく損害賠償請求を行ったものです。一審で、パネル撤去と損害賠償請求の一部が認められる判決が出ましたが、それが確定してしまうと、太陽光パネルの設置を推進している住宅関連業界全体に多大な影響が及ぶ。そこで各ハウスメーカーの法務担当者から相談があり、この案件に入りました。春夏秋冬の太陽軌道を計算するなどして、太陽光パネルの反射光による被害は受忍限度を超えるものではないことを突き止め、一審判決のうち、建設会社の敗訴部分の取り消しと同社への請求棄却を果たし、逆転勝訴となりました」
ほかにも21年に群馬県渋川市から、運動場の擁壁倒壊は施工不良が原因であると指名停止措置を受けた建設会社の代理人として自治体側による指名停止措置を違法と断じる勝訴判決も勝ち取っている。
「構造欠陥や不同沈下などの重大な瑕疵や建築基準法の解釈が問題となる訴訟など、高度な建築的知識を要求される紛争案件についての実績を豊富に有していることも私たちの強みです」