債権回収からスタートして、不動産開発、都市再開発、建築紛争などへ軸足を移し、現在は知的財産権をはじめ多岐にわたる分野を取り扱う同事務所。不動産・建設関係においては、2000年前後、弁護士にとって手付かずのような分野だった、都市再開発法が定める市街地再開発(法定再開発)に取り組み、やがて多くの大型案件に関与していった。
菊地弁護士のもと、それらの案件に関与してきた鈴木大祐弁護士は、次のように仕事の醍醐味を語ってくれた。
「いわゆるマンション建替え円滑化法が制定され、建替え事業にかかわることが多くなりました。建替え事業の案件は、法律の解釈が曖昧で判例も乏しいなか、原理原則から考えて、現在も所内の弁護士と議論し、チームで解決策を模索し続けております。議論をして解を見つけることに、やりがいを感じます」
12年、消費者庁に消費者安全調査委員会が発足した際には、事業者側として第1号案件に関与。菊地弁護士とともに「消費者庁に乗り込んだ」のが石橋尚子弁護士だ。
「1号案件は“一定の流れ”をつくることになるため、事業者や業界への影響が大きく、責任重大。この経験ができたのも当事務所ならでは。私が入所した17年前は定型的な事件も多少ありましたが、今は前例がないご相談や事件がほとんどです。昨今話題に上ることの多い、AIが生成したイラスト、マンガ、文章などの著作権に関しても、数年前から当事務所の弁護士がご相談を受けています。そのように社会の変化を踏まえつつ、新たな分野で先陣をきって挑戦できることが、当事務所の魅力だと思います」(石橋弁護士)
続けて石橋弁護士に、思い出に残る事件をうかがった。
「東日本大震災の際に起きた、千葉県浦安市での液状化に伴う訴訟に事業者側で関与しました。時代をまたいで分譲された建築物に関する紛争で、埋め立てられた当時の技術論から今の技術論までを、当該分野の第一人者といわれる学者に学びながら、訴訟に臨みました。事業者側にとっては結果が今後の事業に影響するうえ、業界全体に影響が及ぶような非常に注目された訴訟です。菊地を筆頭に、私と3名の弁護士のチームで取り組み、成果を出せたことは得難い経験になりました」
同事務所が取り扱う案件は、大型の企業法務案件ばかりではない。鈴木弁護士は個人の相続や、個人地主の事件などの取り扱いも多い。石橋弁護士も、難易度の高い個人の事件に関与している。
「18年末、多くのメディアで報道された、災害公営住宅に飼い猫や荷物を残して不法占拠しているとして、市が明け渡し請求訴訟を起こした“猫屋敷”問題が一例です。明け渡し請求を命じられた人の連帯保証人となった方から相談され、賃貸借契約の解除や連帯保証額の圧縮などの交渉を行政に対して行いました。依頼者は最後の頼みの綱として当事務所に来られ、相談を聞いた菊地が『本当に困っていらっしゃる。請けなさい』と」
同事務所の理念は、「誠実にして正直であれ」。菊地弁護士は言う。「自己の正義を軸として事件に向き合うこと。クライアントの要望と相反しても正直に伝え、納得してもらう。クライアントや筋に流されない、ぶれない、強い気持ちが必要」と。鈴木、石橋両弁護士は「この軸があるから、どんな事件でも必ず根本に立ち返って判断できる」と語る。