茨城県の人口は約280万人。県庁所在地である水戸市に人口が一極集中していない点が、ほかの地方都市とは異なる同県の特徴だ。水戸市に加え、つくば市、牛久市、日立市などが多くの人口を抱えている。
このような地域特性を踏まえ、同事務所では設立初期段階から複数拠点の展開を進めてきた。「市民のリーガルアクセスの観点から、早期に複数拠点を設けることは必然でした。一極集中の体制のほうがマネジメント上の負担は少なくて済みますが、将来的な事務所の発展を見据え、早い段階で拠点展開を行い、その体制に慣れることができたのは、茨城県の地域特性の恩恵だったと思います」と、長瀬弁護士は語る。
近年は企業法務分野の成長が著しく、顧問先は170社を超える。業務割合は、契約関連、会社法対応(株主総会・取締役会運営、非上場企業の経営権を巡る争いなど)、事業承継対応、労働問題対応(使用者側)、事業再生・法人破産などの債権整理、債権回収、知的財産関連、スタートアップ支援、顧問などの企業法務分野が約4割。一方で、交通事故、離婚、相続問題、労働災害、刑事事件などの個人法務分野が、約6割となっている。企業法務分野を担当している金子智和弁護士に、案件の特徴や、仕事のやりがいを伺った。
「後継者不足に端を発する、中小企業のM&Аの相談や依頼が増えています。また、企業内部の法的な体制――例えば財務管理における契約書の整備、コンプライアンス対応、ガバナンスの確立、リスク管理体制の構築などの整備や、取締役会・株主総会の手続きなど、体制見直しの余地がある部分をお手伝いさせていただく機会も多く、組織の基盤づくりに関与できることに、弁護士としての大きなやりがいを感じています」
続けて、長瀬弁護士が〝エリア特有の問題〟について、次のように教えてくれた。
「〝農業王国〟と称されるように、茨城県は農業が盛んな地域であり、法律相談でも農地に関連する紛争が多く見られます。例えば、遺産の一部が農地に含まれることから、相続時の処分方針を巡って相談を受けるといったケース。こうした事案では農地法の規制が関与しますから、名義変更や譲渡・転用の際、農業委員会の許可や届出が必要となりますし、手続きが煩雑で、膨大な時間を要することも。また、相続件数の増加に加えて、人口減少や高齢化の進行を背景に、農地に限らず地方の不動産が〝負動産〟と化す事例が全国的に広がっています。茨城県内でも、都市部とは異なり、転売や利活用の見込みが乏しい地域の土地・建物については相続人が取得を望まず、相続放棄をする例があります。こうして放置された不動産が空き家化し、地域の安全や衛生などに支障をきたす場合も。そのため最近では、各自治体が相続人調査や対応要請を行うケースが増えており、『相続放棄をしても、何らかの管理責任を残すべき』との議論が生じています。相続放棄した人に、不動産の法的な管理義務は原則ありませんが、相続財産清算人を選任して空き家を処分する必要が生じることもあり、当事務所でも、ここ数年、そのような相談が増加しています」(長瀬弁護士)