それら膨大な業務を着実に遂行するため氏が行った改革がある。
「入社当時、契約書だけで年間3000件の事案がありました。定型的な契約文書や細かい書類も法務を通過していたのです。『もっと付加価値と専門性の高い業務に集約しなくてはいけない』と考え、改善に着手しました。部署内では業務プロセスを分析して審査手続きを簡略化し、他部署にも協力を要請。契約書もビジネス文書である以上、担当部署がベースとなる項目を整理して盛り込むべきですが、『法務が全部やってくれる』と人任せだった状況が一部にあり、これを改めました。またルーティンな契約については、ひな型とともに書式内容の説明会を開き、理解した上で使ってもらうようにしました。これらの改革では、導入間もないシックスシグマ(経営改革手法)を大いに活用したので、以前所属したGE(ゼネラル・エレクトリック)での職務経験が役立ちました。結果、約30%の業務量削減など効率向上を実現したのです。現在では9名の室員のうち、私を含めて4名がシックスシグマのグリーンベルト認証を受けています」
ときに日米の法文化の違いに直面することもあったという。
「コンプライアンス事案の対応で日米の見解が大きく異なることがありました。アメリカ側は極めて厳しい処遇が適切と判断。しかし日本の社会環境にはマッチしませんでした。そこで電話会議などを重ね、結果的に『日本に任せる』という最終判断を取り付けたのですが、同時に大きな宿題も課せられました。再発防止に向けた対応策が早急に必要となり、より厳格な社内規定整備とコンプライアンス意識向上のための社内教育という全社的な取り組みに発展しました」
グローバル化のなかで、これからの組織をどう導いていくのだろうか。
「留学経験がある者や、海外法曹資格を持つスタッフがいる一方で、英語力の向上が必要なメンバーもいます。専門性で言えば法律事務所での実務経験者はゼロで、今まで知識向上のためにOJTなどで指導をしてきましたが、まだスキルアップが必要。室員の専門能力向上を目指し訴訟、下請法、薬事法などの勉強会を定期的に行っています。組織としては、こちらから出向く『積極的な法務』にしたい。そのために他部門との勉強会や定期ミーティングなどを開催し、業務知識の向上や良好なコミュニケーション、情報共有を図っています。さらに執行役員として私が経営に参画することで、企業戦略に即して将来を見越した法的業務の方向性を見いだしやすくなりました」