「私のキャリアで、一番のターニングポイントはGEエジソン生命保険への入社だったと思います。企業の意思決定に参加し、その結果を目の当たりにできる〝インハウスロイヤーの醍醐味(だいごみ)〞を味わいました。新生銀行においては、まだ入行半年なので、行内における法務部の位置付け、あるべき機能も含めて全てがこれからですが、当行には新しいものを受け入れる企業風土があり、優れた法務機能の構築が可能だと感じています。実務の大半は部員に任せており、私が担当する業務はその中で部下が迷うような場合の判断とか、困難に直面している場合に、仕事の進め方の方向性を指導し、また、そのための社内調整を行うといったマネジメント関係の業務が大半を占めています。ときには重要な法務リスクに対応するために、法務部主導でプロジェクトを立ち上げ、私がプロジェクト・マネジメントを行うこともあります。私個人の活動としては、インハウスロイヤーの多様な働き方と可能性を、弁護士社会内外に向けて積極的に発信していきたいと考えています。この関係で日本組織内弁護士会(JILA)の理事を仰せ付かっているほか、日弁連の委員会で企業内弁護士関係の座長を務めております。
インハウスロイヤーを目指す方にアドバイスしたいのは、逆説的な言い方ですが、最初のうちは『インハウスロイヤー』に対するイメージを過度に狭く考えないこと。与えられた仕事を受け入れ、むしろ法律事務所では体験できない、仕事の多様性・幅広さを楽しんでください。特に、『企業に入ればその業種にかかわる法分野の専門家になれる』という考えに過度にこだわるのは禁物です。『専門家』になるためには、自覚的な独自の努力と研さんが必要です。また、弁護士資格があるというだけでなく、司法修習などの独自の経験をどのように生かすかを考える必要があります。また、企業には長期的な人事上の柔軟性という課題もあり、一つの専門法領域専任で弁護士を雇用する企業は少数です。一つの専門分野だけをやることができると思っていると失望します。現実のところ、日本において『これがインハウスロイヤーだ』という理念形は存在しません。それはこれからみんなで作り上げていくものです。それを前提としつつ、私に関する限り、インハウスロイヤーの醍醐味は、単なるアドバイザーではなく、企業を動かしていく要素となっていくことだと思っています。そのためには、社内調整や説得、業務のロジスティクスはその本質的な仕事です。
現状、企業の意思決定にかかわるようなシニアなポジションには、長期にわたる法律事務所経験者が多く、この数年で急速に増加している若手インハウスロイヤーたちとの間に大きなギャップがあります。まだそのような人たちがシニアなポジションに就くほどの経験を積んでいないことが大きな要因ですが、そのギャップをどのように埋め、キャリア・パスを作っていくか、このあたりが大きな課題だと思います」