Vol.76-77
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PIONEERS

自然体験活動、アウトドア分野のリスクマネジメントを啓蒙し、被害者の未来、加害者の未来をも明るく照らしていく

早川 修

早川総合法律事務所
弁護士(54期)

#33

The One Revolution 新・開拓者たち~ある弁護士の挑戦~

「皆さんは、豪華客船タイタニック号の転覆事故が、なぜ起きたと思いますか? 映画でも描かれていますが、それは船長が氷山をリスクと捉えず、速度を下げずに航行したことが一つの原因で……」と、早川修弁護士の研修は、そんな実際の事故や映画を絡めた講話から始まる。長年にわたり、自然体験活動やアウトドア分野の事業運営者にリスクマネジメントに関する啓蒙を行ってきた早川弁護士に、当該分野を専門とするに至ったいきさつ、同分野でパイオニアとなれた理由などを聞いた。

被害者遺族との約束を守るため

2003年、利根川(群馬県)で起きたリバーラフティング転覆事故で、女性が亡くなりました。私は事業運営会社とガイドの弁護を行いましたが、それが弁護士としての最初の大きな仕事。民事訴訟、刑事弁護、海難審判での弁護でした。当該事件の民事訴訟での和解の際、「私たちのような家族を二度とつくらないでほしい」と言われたご遺族の言葉が、今の自分の活動の礎です。ご遺族との約束を守るために、まずラフティング業界で安全に関する研修を始めたところ、口コミで山・海などほかの団体・事業者からの研修依頼も増えていきました。呼ばれたら、どこへでも、ボランティアでも駆け付けて、リスクマネジメントの話をし続けました。

当時、同業界では民法や損害賠償に関する研修はあっても、実際の事故の怖さや過去の事例をリアルに伝える研修はなかったようです。また、日頃から弁護士に接する業界ではなかったので、条文の説明や法律論だけでは敬遠されてしまう。そこで、事故が起きるとどうなるか、その怖さをわかりやすく伝えることにしました。ラフティングやカヌーなど各分野の第一人者と呼ばれる人たちや協会のトップを尋ねて教えを乞いながら、事件を調べ、事故の特徴を分析し、それを現場のガイドの目線に合わせて話すというスタイルです。参加者が飽きないように毎回違う物語仕立てで話をします。私の研修に参加して「リスクマネジメントをしないことの怖さ」を感じた人は必ず、リスク管理意識を高く持って帰られます。そうした活動の結果、ラフティングをはじめ、カヌー、キャンプ、ハイキングなど、川、海、山をフィールドとする自然活動団体、観光・宿泊施設、青少年自然の家、幼稚園、保育園、校長先生の勉強会などから講演依頼が舞い込み、事件や顧問の依頼も受けるようになりました。

国のマニュアル策定委員などを務める機会もあります。例えば、国土交通省港湾局の「自然体験活動指導者のための海辺の安全対策マニュアル」、林野庁の「森林体験学習等における安全管理手法に関する調査」など。自然活動やアウトドア分野を俯瞰して見られる弁護士がおらず、自然と第一人者になったというわけです。

極論、事故が起きたら弁護士にとっては仕事になります。しかし私は、この業界で弁護士の仕事をなくそうと考えた――被害者ご遺族との約束を守るため、本気で死亡事故をなくすことを目指し、無我夢中で駆け抜けてきました。実際、ラフティングの死亡事故は、ここ10年以上起こっていません。「死亡事故を絶対に起こさない」という事業運営者の皆さんの思いに伴走し続ける毎日です。

被害者・加害者両方に目を向けて

司法試験受験生の頃は、検察官志望でした。刑事事件の被害者のために戦う、被害者の権利を守るということに私なりの熱い思いがあったからです。実は、弁護士になってからも検察官への思いが残っていました。ですが10年が過ぎた頃、ある特捜案件の1審で無罪を勝ち取り、その思いが吹っ切れた(笑)。特捜部がどんな捜査を行い、どんな立証を行うかを体感して満足したこともありますが、あらためて「弁護士のほうが、視野が広く持てる」と感じたことが大きかったからかもしれません。弁護士は、裁判官の目線に立って弁護をしていきますから、全方位的に物事を見られる。また、弁護士の仕事は当然、刑事事件だけでなく、労働事件もあれば、企業法務もある。検察官になって刑事事件だけをやっていたら、もしかしたら物足りなさを感じたかもしれないなと、ふと思うことがあります。

私はラフティング事件の際、加害者側の弁護をしましたが、同時に被害者とご遺族のことを思いながら、バランスを取った弁護(解決)を目指しました。加害者側の弁護士として、勝てそうだったら勝つ、賠償金をゼロにするという勝ち方もあったでしょう。しかし私は、許される範囲で“被害者も救済したい”と考え、客観的かつ冷静にジャッジしたつもりです。そのほうがむしろ加害者側も“再起できる”と思ったからです。社会的に適正で、100年後も「この解決が正義であった」と言いきれる結論に導いて差し上げることができれば、加害者側もきちんと事業が再開・継続できる。不当に勝つべきでない事件で勝つと、事業者は罪悪感を持ちながら事業を継続しなくてはならなくなる。それは不幸です。何が最も妥当な解決か、これからどうしたら再起できるかというプラン設計を依頼者と一緒に行うわけです。バランスを取った弁護とは、そういう意味です。

そう考えると、検察官でも弁護士でも、成すべきことに大きな違いはないのかなとも思いますね。検察官になりたかった自分だからこそ、被害者に対する思いをもって、今、この仕事を続けていますから。

弁護士の仕事は泥臭い。10年続けて花開く

私が、ラフティング事件に関与することになったのは、独立前に勤務していた野田総合法律事務所で、弁護士1年目にしてボスの野田謙二弁護士に一任いただけたからです。私が検察官志望と言っていたこともあり、ボスが「事故系は早川君だな」と任命してくださいました。

事務所としてラフティング事故を取り扱うのは初めてで、ボスからは「やるからにはこの分野の第一人者になれ。ついては、業界の第一人者に話を聞きに行け」と。そうしたアドバイスをくれる、素晴らしい指導者に巡り合えたことに今も感謝しきりです。

当時は、常時20~30件ほどの事務所案件に関与させていただいていました。ラフティングの事件は、その中の一件。「何でもやらせてください」「(気持ちは)雑巾がけからやります!」と、働きまくったアソシエイト時代でした。でもそれがよかったとつくづく思います。研修などで、人前で話す機会が多い私にとっては、経験値がすべて。自ら経験していない人間の話は、説得力も、視野の広がりもありませんから。

現在、事務所の弁護士は私一人です。前事務所のときに懇意にしてくださった上場企業・学校法人のお客さま、独立前の人脈によるつながりで得た医療法人からのご依頼もあって、「企業・団体7割、個人3割」、企業法務や顧問業務がアウトドアの事件の3倍以上あります。弁護士1名ながら幸いにも多くの立派なクライアントを得て、今はこの事務所を残したい、人を増やして後継者を育てたいという思いです。しかし、この無名の弁護士が率いる小さな“泥船”に乗ってくれる人材を探すのに難儀しています(笑)。

私の場合、「新規分野を開拓しよう!」と意気込んで、今の立場を得たわけではありません。ボスから与えられた事件に実直かつ全力であたり、加害者・被害者の立場を理解しようと努め、事件が終わったあとも正しいと思ったことをやり続ける――。結果として、それが弁護士としての底力になり、新規分野の開拓につながっただけのこと。つまり、何か特定の分野に特化してやりたい! 究めたい!という強いこだわりがなく、何でもやる!と自然体で仕事に臨んだことがよかったのではないかと思うのです。

私が弁護士1年目だった頃、当時の日弁連会長がこんな話をしてくれました。

「富士山がなぜ日本一高いか? それは裾野が広いから。裾野が日本一広いから、日本一高くそびえることができた。だから、与えられた仕事は何でもやりなさい」

それが自分自身の考えとも合っていたので、殺人と性犯罪の加害者弁護以外はなんでもやってきました。

弁護士の仕事は原則、泥臭いものです。その泥臭さを受け入れながら、最低10年、弁護士としてがむしゃらに目の前の事件、与えられた事件に取り組む。そうやって裾野を広げることで、自分なりに世の中の役に立てる分野や、得意なことなどが見えてくるのではないかと思います。

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

  • 弁護士 早川 修
    新型コロナ禍以降、早川弁護士は“コロナ禍特有”のリスクマネジメントや、新たな事業運営の研修で業界を元気づけている(写真は以前の研修風景)
  • 弁護士 早川 修
    “手弁当”で研修講師として奔走する日々。「この分野で事故をなくすことが私のポリシーですから、やり続けます!」(早川弁護士)