Vol.3
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PIONEERS

法律的な知見を生かしながら日本という国に貢献できる仕事がある

分部 悠介

経済産業省
製造産業局模倣品対策・通商室
製造産業専門官
弁護士

#4

新時代のWork Front 開拓者たち

法律家として産業の振興に貢献できないか

弁護士 分部 悠介

首相を本部長とする知的財産戦略本部が設置されたのは03年。「知的財産推進計画2004」では、模倣品・海賊版対策が大きく掲げられた。この問題に対処するためにできた組織、経済産業省製造産業局模倣品対策・通商室で、06年4月から活躍している弁護士が分部悠介氏だ。

㈱電通勤務を経て、03年に長島・大野・常松法律事務所に入所。現在は出向の形になっている。大学在学中に司法試験に合格した分部氏だが、実は法曹の道に進むことを考えていたわけではなかったという。

「もともとゲームが好きで、その世界に進みたいと思っていたんです。小・中学校をアメリカで過ごしていたので、その頃から日本の漫画やアニメ、ゲームがいかに高いレベルのものかを強く実感していたんですね。それをもっと広く世界に知らしめる仕事がしたいと考えていました」

だが、あるゲーム制作会社の著名なプロデューサーを訪ねると意外な言葉が返ってきた。

「ゲームを作れる人は多いが、ゲーム好きで法律がわかる人は今の日本にはいない。これからはこのような分野での法律家が重要となる」と。ここから、法律知識を生かして日本のゲームに、さらにはコンテンツビジネスの発展に貢献する道があるのではないかと気づいた。

「ただ、当時はこの分野は裁判例なども少なく、リーガルマーケットとして成立していなかったんです。それで、まずはコンテンツビジネスを手がける現場を広く経験しようと電通に入社したのです」

電通では、映画の製作出資、キャラクターや音楽イベントなどを手がける部門に2年間携わった。この経験が、後に大きく生きることになる。

「第一に、コンテンツビジネスの現場の空気感を知ることができた。知識も得られましたが、何より実際の仕組みが見えた。法律事務所で企業法務に携わるにしても、クライアントは企業。彼らが弁護士をどう見ているか。何に期待しているか。企業の考え方がクライアントの立場から見えたわけです」

電通での仕事も肌に合ったが、法律家としてのキャリアを考え、退社を決意。知的財産権関連の案件に“ビジネス”という観点から幅広く携わってみたいと、日本最大級のローファームのひとつ、長島・大野・常松法律事務所に入所した。

「当時は知財関係の仕事は多くなく、まずは1年間、不動産証券化の仕事に従事しました。ビジネスロイヤーとして最も忙しい部門。大変に優秀かつ厳しい先生のもとで仕事をしましたから、弁護士としての基礎づくりには本当にいい経験でした」

その後、知的財産権関連の仕事を扱うグループが所内にでき、移った。

「著作権関係の案件や特許訴訟、職務発明紛争、映画の証券化案件などに携わりました。ほかにも電通時代の人脈からITベンチャー企業や、プロ野球の球団の顧問弁護士などさまざまな仕事を経験しました」

国の政策の形成に知見を生かすという新しい役割

「当初はエンターテインメント分野の業務に強いこだわりを持っていたのですが、いろいろな知財関連の仕事をするうちに、この分野の広がり、意義深さを実感するようになった。そんなとき、経済産業省が弁護士を募集しているのを知ったんです」

官庁では、旧来から弁護士を受け入れていたが、01年の法律改正で、その数が拡大。06年には、行政庁内弁護士総数は69人にのぼっていた。

「官庁での法律家のニーズはますます大きくなると思います。しかも、新しい役割の法律家が求められていく。まさに、今の私のような」

官庁で仕事をする弁護士の仕事は大きく3つに分けられるという。ひとつは、法律・法案づくりの支援。もうひとつは、訴訟や紛争への対応。そして、日本の政策の形成に対して、法律的な知見を生かして貢献するという新しい役割だ。1つ目と2つ目は、ある程度仕事が決まっている。だが、3つ目は明確に仕事の限界が規定されてないことが多い。

「特に模倣品対策室は新しい部署でしたから、とりわけ何をするということが明確に決まっていなくて。ですが逆に、日本の産業界のためになる政策を策定していけば、何でもできてしまうし、それが前例になる」

模倣品や海賊版には詳しいわけではなかった。だが、ここで模倣品被害の実態に驚く。

「模倣品被害というと、ブランド品のニセモノを思い浮かべる人が多いのですが、実態はもっと深刻なものなんです。日本製品は、自動車やその部品、電化製品、文具、おもちゃ、化粧品、食品など、すべての製品ジャンルにおいて模倣品被害を受けている。逆にいえば、それだけ日本企業のブランド価値はすごいということ。模倣品対策とは、ジャパン・ブランドを守ることなんです」

経済大国としての日本の存在感は残念ながら薄まりつつある。日本を再び一流の経済大国にするために何ができるか。そのひとつが、模倣品対策ではないか。そう確信した。

「経済発展に直接的に資する政策が“剣”だとすれば、模倣品対策は“盾”。日本企業は世界レベルで大きな被害を受けているのが現状なので、この盾を強化していけば、日本の産業界の利益を守っていける。そこで守られた利益の分だけ結果的に経済発展に資すると確信しています」

経済産業省に来て何よりも良かったことは、視野が大きく広がったこと。そう分部氏はいう。

「ゲームからコンテンツ、エンターテインメントへの貢献を考えてきた私でしたが、今は日本の産業、日本全体のことを考えています。自分の法律的な知見を生かしながら、日本に貢献していける。そんなフィールドを見つけることができたんです」

リスクがあるからリターンが得られる

中国、ベトナム、インド、ロシア、ドバイなど模倣品被害発生国の知的財産権法制度や法律の分析を進める日々。国際会議や研究会、シンポジウムも積極的に開催する。

「最も印象に残っているのは、07年の4月と9月に行われた知的財産保護官民合同訪中代表団の派遣、参加です。中国に対して政府、民間50人規模の団体を派遣し、中国の15程の政府機関の人たちと約1週間、知財に関しての問題を議論したんです。その準備ために中国法を分析する必要があり、その年は年明けから毎日のように徹夜が続きました」

代表団の派遣は昨年で5回目だが、それまでは法律の専門家が入っていなかったため、あまり深い議論がなされない面があった。

「今回は、法執行上の問題点を日本企業の人たちとトコトンあぶり出し、中国政府に対する要望書に落とし込みました。相手の国を説得してその法律を変えさせたいときは、困っている、ということを伝えるだけでは不十分。法制度を精緻に分析し、具体的な改正案等を提示することまでしたことで、中国側と非常に充実した議論ができたと思います」

合同ミッションでは、法改正の“要請”だけではなく、最新の技術を説明する技術説明会や、商標侵害事例を集めた事例集、真正品と模倣品の見分け方が学べるセミナーなどの“協力”事業も提案したという。

「最近の中国では、前がホンダで後ろがトヨタ、などという車が作られてしまう被害が出ています。このような被害については、不競法上の規制や部分意匠制度の導入といったことが重要になりますが、要請ばかりではこうした新しい制度を導入することは困難です。まずは、両国が協力して、デザインの法制度の研究会や啓蒙のシンポジウムなどを開催して理解を求めていく必要がある」

世界的な模倣品被害の拡散を背景に、中国以外の対策も本格化。第一弾として、本年2月に初めてインドへミッションを派遣。インド法についても分析を続ける。同時に、日本企業の模倣品対策をやりやすくするためにも、模倣品対策の経営に対する貢献度をできるだけ見える形で作っていきたいと考える。

「数年前、知財がどのくらい企業の利益に貢献できるのかを可視化する試みが提唱され、『知財経営』『知財会計』といった言葉が使われるようになってきた。しかし模倣品対策では、このような発想が浸透していない。実際、企業では、利益への貢献度がはっきりしないという理由で、十分に予算が確保できず、結果として十分な対策が取れない。十分な対策を取っても社内で評価されにくいなどの悩みを聞くことがある。模倣品対策の成果を可視化することで、このような悩みを解決し、企業が必要十分な対策を取れるよう、後押ししたいんです」

知的財産をめぐる重大な国の意思決定で、大臣にレクチャーしたこともある。アメリカが中国の模倣品問題でWTOに提訴。では、日本はどうするべきなのか。国として非常に重要な判断について、意見を求められた。結果、国がどのように意思決定をしていくのか、そのメカニズムを見る機会を得た。

「自分の培ってきた専門性が、日本のために何ができるか、という大きなテーマの中で生かせる。本当にやりがいのある仕事です。官庁で働くというのは、弁護士として国の政策に携われるわけですからね。また、今後の法律家としてのキャリアにも、大きなプラスになることは間違いない。たとえば、中国やインドなどの法律にも精通し、現地弁護士と連携しながら、現地での訴訟などをサポートできる弁護士がいれば稀少でしょう。特に、模倣品対策については、法律分野を中心に、この分野特有の専門性を生かしつつ、ビジネスロイヤーらしいコンサルティングが可能かもしれない。将来の大きなヒントがもらえたと思っています」

今から思えば、法律事務所を離れ、経済産業省で仕事をすることはリスクも高かった。弁護士として、役に立つかどうかわからない数年を過ごすことになるからだ。いろいろと調べたものの、実際にどんな仕事が待ちかまえているか、最後まで具体的にはわからなかった。だが、だからこそ、得たリターンも大きかった。

「最終的には、結局、直感で来てしまいましたからね(笑)。でも直感が、意外にいい決断につながることはよくある。今は本当にいい選択ができたと思っているんです」