病院内弁護士には、医療の知識よりも、〝病院という組織への理解〞が重要だと、私は考えます。例えば当院には多くの診療科があり、多様なスタッフが働き、様々な価値観が日々交錯しています。そうした病院組織の仕組み・あり方を理解し、法的観点からの解決を軸に職員らの〝異なる目線〞を同じ方向に向けていく、〝院内組織の調整役〞にもなれたらと思っています。
また病院という組織は、いうなれば専門家集団ですから、閉鎖的になりがちで、〝社会とは乖離した価値観〞によって判断してしまう危険性をはらんでいます。そうした組織に風穴を開け、コンプライアンスの観点から病院を守る役割を果たせるのも病院内弁護士に求められる役割でしょう。
では病院内弁護士は、顧問弁護士と何が違うのか。端的に言えば、「いつも医療スタッフや事務職員のそばにいて、いつでも、誰でも、相談できること」でしょう。私はかつて、病院の顧問を務める事務所に勤務していましたが、顧問としてかかわるよりも病院内弁護士は圧倒的に得られる情報量が多い。加えて当院の顧問弁護士の先生からは、「院内に共通言語で話せる人がいる安心感がある」と言っていただきました。顧問弁護士と病院の橋渡し役としても、重宝な存在なのです。
ただ、病院内弁護士が忘れてはいけないのは、「自分は病院のガードマンではない」ということ。院内でトラブルが起きた時、「弁護士に任せておけばすべて解決」という発想が広がると、現場力を弱めることになりかねないからです。病院に属しながら、一般市民である患者側の価値観を伝えることができるのも病院内弁護士。ですから私は、〝院内の異物〞でいいと思っています。結果として、医療スタッフ、事務職員、弁護士が一体となって、病院全体の問題解決力を高め、より高い価値創造をもたらせればいいのです。
病院とは、多様な職種が集まり、一つの事業を行っている特殊な組織といえます。とにかく毎日が〝発見〞の連続です。そういった意味で、病院内弁護士は無限の可能性を秘めた仕事だといえます。病院側が期待するニーズはきっと顕在化していくでしょう。まだまだこの道のパイオニアとして弁護士の活躍のフィールドを開拓していくことができる、やりがいの大きな役割。一人でも多くの読者の方々に、病院内弁護士の存在意義を知ってもらえると嬉しいです。