Vol.5
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PIONEERS

自らの専門性を高めていく選択肢のひとつがインハウスだった

村上 玄純

三菱商事株式会社
法務部 法務第三チーム 部長代理
弁護士(1996年登録、48期)

#6

新時代のWork Front 開拓者たち

自分の将来を考えたい、と転職を通じて環境をリセット

きっかけは、名古屋の法律事務所に勤務して5年目、研修所の同期会に出席したことだ。なかに大手証券会社の企業法務に転職した同期がいた。何か縁でもあったのかと聞いてみると、弁護士会のホームページで募集をしていたというのである。

「家に戻ってホームページを見てみると、たしかに、いくつかの企業が弁護士を募集していました」とは、村上玄純氏。2002年、三菱商事に入社して以降、同社のインハウスロイヤーとして活躍を続ける。

「それまで6年半、名古屋にある中綜合法律事務所の勤務弁護士をしていました。ボス2人に私という小さな事務所でしたから、すぐに一人で案件を任されるようになりました」

ここでは民事・刑事事件から家事事件まで、あらゆる事案に関与。個人の人生を左右するような、そして依頼人や相手の家族のことを考えるとやり切れなくなるような訴訟や示談など、胃の痛くなるような事件も多かった。コツコツと誠実に案件に対応する村上氏は次第に信頼を獲得。自身で顧問先を得る一方、名古屋勤労挺身隊訴訟、豊田そごう民事再生事件など、大型案件にも携わった。

「5年も経つと、一通り自分で回せるようになるんです。そろそろ将来について考えはじめていました」

事務所からは、パートナーにとの声もかけられた。独立という選択肢もあったが、取り立てて専門性もなく、やりがいのある仕事に取り組んでいる将来の自分をイメージできなかった。

「もうひとつの選択肢として考えたのは、自らの専門性を高めていく道でした。それで、ほかの弁護士が味わえない経験をしてみようと」

ホームページで見つけた三菱商事にメールすると、すぐに会いたいという返事。商社への入社は独自性があっていい、と評価してくれた先輩も多かった。

本質を議論しながら利益貢献できるやりがい

仕事は、社内のあらゆる法務ニーズに応えていくことである。

「とはいえ、最初は大きな組織のメカニズムを知るだけで大変でした。企業には書類や経伺など、それまで経験したことのないルールや慣習がありますからね。これを理解するだけで相当な時間がかかりました」

広範囲な事業フィールドがある商社だけに、同社の法務部門には、営業部門に対応する一般法務チームが4チームあるほか、企画チーム、知的財産室がある。当初、所属したのは、機械、不動産などが担当領域のチーム。契約、遵守、紛争解決などについて、営業部門からの細かな相談もあれば、会社の重要な意思決定に携わるようなプロジェクトについて、法的見地から詳細な分析レポートを作成することもあった。

「弁護士業務との大きな違いは、何か問題が起きてから相談に応じるのではなく、自分たちの手で新しいものを作り上げていくという前向きで、創造的な話ができること。新たな事業戦略など会社にある案件について、法的観点から見直し、将来を見据えた問題を提起していきます」

法律事務所時代は、情報に手触り感のなさを感じたこともあった。

「弁護士に相談が来る時点で、情報はかなり取捨選択されています。本当のところはどうだったのか、本音はどうなのか、もっと本質的な話をしたいと思っていました。その点、ここでは物事の本質を議論しながらあらゆる情報を掘り起こし、会社や社会の利益につなげてくのですからね。やりがいを感じます」

05年の三菱自動車の支援、06年のダイヤモンドシティ株式売却では、担当の営業部門とともに戦略立案や議論を行い、投資家向けの資料や契約書の作成などを行い、大きな成果を上げた。

資格の有無より企業法務のスペシャリストとして評価される

入社から4年目には、社内の留学制度を使って、米国コロンビア大学のロースクールに学び、LL.M.を取得。現地法律事務所に勤務した。帰国後は、エネルギー分野のチームに所属。ロシアで行われている油田、天然ガス田の開発プロジェクト・サハリンⅡを担当することに。

「数十年先まで見越した息の長いプロジェクト。国家も関わるようなスケールの大きさです。これまでとは、違った醍醐味がありそうです」

同社法務部には現在、4人の弁護士が所属。資格の有無と担当する仕事に相関関係は全くないという。

「法務部のスタッフは皆、優秀です。彼らと私たち有資格者との間に差は全くありません。裁判実務など、弁護士ならではの知識を求められることはありますが、普段、弁護士の資格を意識することはないですね。弁護士というより、ほかの法務部員と同様、法的知識を持つ企業法務のスペシャリストとして評価される今の仕事に面白さを感じています。大切なのは弁護士であるかないかではなく、仕事にやりがいを感じ、社会にどう貢献していくのかだと思います」

とはいえ、時折は、弁護士として培ってきた経験やスピリットが顔をのぞかせるという。

「代理人として法廷に立つことはありませんが、訴訟案件の打ち合わせなどで判断を迫られたりすると、弁護士特有の鋭い感覚が蘇ってきます。それもこれも名古屋時代、尊敬できる先生の下で弁護士として鍛えられたおかげ。思えば、常に私は仕事の中身だけでなく、誰と仕事をするのかにプライオリティを置いてきました。だからこそ転機を迎えたときも、将来の進むべき道を明確に捉えることができたのだと思います」