Vol.8
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PIONEERS

行政の運用を知るからこそなし得る社会貢献の道がある

鍬竹 昌利

金融庁
検査局総務課
専門検査官
弁護士(57期)

#9

新時代のWork Front 開拓者たち

専門性を磨き、視野を広げる機会を求め、金融庁への出向を決意

近年、多くの中央官庁にインハウスロイヤーが任期付き公務員として所属するようになった。中でも特に多くの「行政庁内弁護士」が所属しているのが金融庁、法務省、公正取引委員会、外務省などだ。

現在、金融庁検査局総務課で専門検査官を務める鍬竹昌利氏が、自身の転機について考えていた2007年は、ちょうどサブプライムローンの話題が出始めたころだった。

「弁護士となって3年が経過し、自らの将来を考える時期でしたし、弁護士増員が叫ばれる中で自身の専門性を磨きたいという思いもありました。大学院や海外留学の道も頭に浮かびましたが、実務を学びながら経験を積みたい気持ちが強く、企業や官庁に行く道が向いていると感じていました。また、法令上の問題につき、実際の運用がどのようであるか不明な点を何度か行政庁に確認した経験を通し、より適切なアドバイスを行うためには、法令を企画、執行する行政側の視点を理解することが重要だろうとも思っていました。そんなとき、ちょうど『金融機関に対する検査等に従事する職員【弁護士】』の募集告知を見つけたんです」

金融庁検査局の検査というのは、銀行や保険会社などの金融機関に立ち入り、各金融機関の健全性や適切性の確保のため、法令等順守態勢、各種リスク管理態勢等を検証し、その問題点の指摘およびそれに対する認識を確認する業務である。

「金融検査は、これまでの弁護士業務とは一線を画するもの。とかく金融機関からは敬遠されがちですが、実際はどのようなものか興味がありましたし、まったく別の世界に足を踏み入れ視野を広げるには、絶好の機会だと思ったのです」

鍬竹氏が弁護士を目指すようになったきっかけは、若いころに誰しもが持つ「社会で役立ちたい」という思いからだった。修習後は、法律事務所で企業法務の実務に携わった。

実際、社会に出て経験を積んでいくと「どんな業態であれ、必ず社会に貢献できる道がある」ことを実感するようになったという。例えば、今回の世界的な金融危機の問題でも表面化したが、金融機関の経営が不安定になると、被害を受けるのは預金者である国民。鍬竹氏は、金融をめぐる法的問題がさまざまな局面で重視されていくことを感じたという。

「以前は、『金融』というと投資のイメージが強く、この分野の弁護士業務には当初抱いていた弁護士像との距離を感じていました。しかし、社会に出て数年で金融不安の時代が来て、メディアではその影響を受けた方々の声が多く聞かれるようになった。そのような状況を目の当たりにし、国民が平穏かつ安定的に生活し、国民経済が健全に発展するためには、金融行政を円滑かつ適切に進めることが非常に重要だと自分なりに納得できたとき、金融庁出向への思いはより大きくなっていました」

金融行政の円滑かつ適切な運営が経済の健全な発展につながっていく

現在、金融庁検査局にいる弁護士は7名。金融機関に立ち入り、法令等順守態勢や顧客保護等管理態勢などの検査のほか、金融検査マニュアルの改訂作業や検査官からの法令照会について検討などを行っている。

「一般的には、クライアントとのやりとりでは、弁護士ということである程度信頼してもらえるところがあります。しかし検査官の立場だとそうはいきません。現在の金融検査では、金融規制の質的向上を進めるため、金融機関の自主的な改善につながる問題に焦点を当てた納得感の高い検査が重要になっています。一方的に押し付けるような検査をしても金融機関から納得を得られません。ですから、金融法令に関する深い理解を有することのみならず、双方向の議論を尽くす中で真に納得してもらえる、高いコミュニケーション能力が重要なのです」

ちなみに検査局での任期中は、弁護士として法廷に立つことはない。当然、準備書面、証拠調べ、証人尋問など弁護士の実務からは遠ざかる。弁護士として、そういう面でのリスクも少なからずあるのではないか。

「現在検査局にいる弁護士たちは、ここへ来るまでは収入的にもある程度安定していたと思います。それを一度リセットするわけですから、かなりの覚悟を持って臨んでいるのではないでしょうか。だからこそ、周りの弁護士のモチベーションはとにかく高い。検査局での業務を通じて何かの形で社会に貢献したい、自分のスキルをアップさせたいなどの思いが強い方が多いように感じます」

昨年の7月からは、鍬竹氏らが提案した新しいプロジェクトが動き始めている。より効率的で質の高い検査を、弁護士の専門的な見地からアドバイスするという取り組みだ。

「実現するまでには当然慎重な検討と折衝を繰り返しますが、必要性や合理性のあるものであれば、たとえ下からの提案でも受け入れる土壌が検査局にはあります。出向前は、金融庁はもっと堅いイメージでした。しかし入ってみると意外にも風通しがよい上に明るく気さくな方が多いので、職場の環境はとても良好です」

とはいえ、リーマンショック以降、金融庁内でも対策や制度面で激しい動きがあった。

「まさに、この瞬間を間近で経験したのは貴重な経験でした。私自身の当初の目的は、行政側から見た金融法令の運用を身に付けて、民間に戻ったときに適切なアドバイスができる存在になるというものでした。いま、出向して思うことは、民間に戻った後に行政側の視点を理解した上でアドバイスを行うことは、民間の金融機関にとっての利益に資するのみならず、ひいては金融規制の質的向上、国民経済の健全な発展にもつながるものであるということです。ここで身に付けたスキルに対する使命を常に意識しながら、業務に取り組んでいくことが大切だと思っています」