Vol.90
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#26

写真左から、家木祥孝弁護士(61期)、立花隆介弁護士(56期)、川井あかね弁護士(71期)、中島克元氏(獣医師)、谷村巴菜弁護士(72期)、森 崇志弁護士(61期)、岸本 悟弁護士(58期)。兵庫県弁護士会館に集まった、役員と運営メンバー(一部)

写真左から、家木祥孝弁護士(61期)、立花隆介弁護士(56期)、川井あかね弁護士(71期)、中島克元氏(獣医師)、谷村巴菜弁護士(72期)、森 崇志弁護士(61期)、岸本 悟弁護士(58期)。兵庫県弁護士会館に集まった、役員と運営メンバー(一部)

SPECIAL REPORT

#26

“モノ言えぬ動物たちの代弁者”として、虐待がなくなる社会の土台づくりに挑む

特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団

2022年9月、兵庫県弁護士会の公害対策・環境保全委員会で動物愛護問題に取り組んできた弁護士たちを中心に設立された、特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団。〝モノ言えぬ動物たちの代弁者〟として、動物虐待や不適切な飼育環境に対する法的措置、動物に関連する法整備・改正を求める活動などを通じ、動物たちの福祉向上を目指している。理事長の細川敦史弁護士と、理事・運営メンバーの方々に、NPO法人としての活動状況などをうかがった。

法律家の視点で冷静かつ積極的に活動

動物問題への取り組みのきっかけを細川弁護士は、こう話す。

「私は15年ほど前から動物虐待事件を発見した個人ボランティアや小規模な動物愛護団体からの相談を受け、代理人弁護士として刑事告発を行ってきました。弁護士業務の一環である犯罪被害者支援のノウハウを生かしたかたちです。当時も動物虐待の告発手続を行う弁護士は少なかったので、兵庫県以外の動物愛護団体などからの依頼も相当数届き、日頃の弁護士業務に支障が出ない範囲で対応していました。動物虐待事件の相談は、人の告訴事件よりも大幅に減額した費用で受任していましたが、被疑者が処罰されるなどしても、個人ボランティアや動物愛護団体にかかった費用が返ってくることはありません。弁護士費用の負担軽減をどうにかして図れないかということが、長く心にひっかかっていました」

2000年代は、年間30万~40万頭の犬や猫の殺処分数の高さが、深刻な社会問題となっていた。動物虐待に限らず様々な問題があったものの、法律や行政の対応は十分ではなかった時代だ。

特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団 ANIMAL DEFENSE TEAM
22年10月、兵庫県弁護士会主催で開催された市民シンポジウム「動物虐待事件の実効的対応を考える」。市民に向けても、動物保護の重要性を訴えるセミナーや勉強会を開催する
特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団 ANIMAL DEFENSE TEAM

「法律が変わったからといって、動物虐待が劇的に減らせるわけではありません。しかし、法改正によって少しでも減らすことに力添えできないか、多少なりとも影響を及ぼせないかと、法改正の運動にも取り組みました。兵庫県弁護士会の委員会で、動物愛護の問題について取り組み始めたところ、動物虐待事件を共同受任してくれて、勉強会や保護施設の見学会に参加する仲間ができ、市民シンポジウムの開催なども実現できました。このシンポジウムのパネルディスカッションに登壇依頼したのが、のちに当法人の監事となる津久井進弁護士と、副理事長の中島克元獣医師です。お二人からは、『もっと弁護士会が動物の問題に深くかかわる必要がある』ということや、『様々な専門分野の人々が一体となって情報交換することは動物の問題を解消する力になる』という意見をいただきました。その後、津久井弁護士が弁護士会に声がけしてくれたこともあって、『人と動物の共生社会の実現』への取り組みに興味を抱いた十数名の弁護士が集まりました。継続的かつ持続的に活動していくために、また、中島獣医師など多様な関連分野の専門家との協働を拡充する目的もあり、NPO法人を設置した次第です」

NPO法人設立手続にあたっては、理事の勝又陽香弁護士が尽力した。公式Webサイトを制作し、活動趣旨を伝えるとともに、Web情報提供窓口も設置。

「22年12月にWeb情報提供窓口を開設してから、寄せられた相談は約500件。日本の伝統的な行事への、動物利用に関する情報提供が最も多く、ほか動物愛護団体やペットショップなどの不適正飼養を指摘する情報が目立ちました。証拠の問題や殺傷・虐待罪と評価できるかといった問題で、刑事告発が可能な事案はそう多くありませんが、一つひとつの情報に目をとおし、捜査機関に対する刑事告発以外にできるアクションがないかを検討しています。モノを言えない動物の代わりに、〝おせっかいする人〟が私たち。とはいえ、〝動物の目線〟になることは難しいし、主観的になってしまうこともある。しかし、そこはなるべく冷静に、走りすぎないよう、私たちのベースは法律ですから法律的な視点で見て、ポジティブに活動していきたいと思っています」(細川弁護士)

特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団 ANIMAL DEFENSE TEAM
「保護犬への私見を弁護士会の会報誌に寄稿したところ、記事を読んだ細川弁護士が声をかけてくれ、参加しました」と、理事の岸本悟弁護士(右:保護犬と、細川・岸本弁護士。左:立花隆介弁護士)

"動物の権利問題は〝人の社会〟の問題

同団体に寄せられる情報で、全国の伝統行事における動物利用に関するものの次に多いのは、SNSや動画投稿サイトなどで見つけた〝虐待ギリギリ〟の小動物の扱いに関するもの。ほかにも、動物園での飼育環境に関してなどの情報も寄せられる。「情報提供者にとってひどいと思うものが、普遍的・社会的に虐待といえるかどうか。その判断は難しい」と細川弁護士。

中島獣医師は言う。

「獣医師の仕事は、目の前の患畜を助けることが第一。しかし、飼い主の管理ミスやネグレクトによって、繰り返し同じ症状で運びこまれる患畜も少なくありません。事情を聞けば、そこにあるのは飼い主である〝人の問題〟が大きい。つまり、動物に起きてしまう様々な事件は、すなわち人間の事件といえます。人間世界の歪みが正されない限り、犠牲になるのは弱い動物ばかりです。12年の動物愛護法の改正をきっかけに、経営を持続できないペット業者が100頭もの子犬を放置する事件が起きたり、近年では、SNS上で面白半分に小動物を痛めつけ、その動画配信によって利益を得るといった〝人間の営みによって動物たちに被害が及ぶ〟という悲劇が多々あるわけです」
 
20年の改正動物愛護法の施行で、獣医師に対して動物虐待の都道府県・警察への報告義務が加わったが、「目の前の動物の治癒を最優先するのが獣医。それから〝どうしたらいいか〟を、ともに考えてくれるどうぶつ弁護団は非常に大切」と、中島獣医師は語る。同団体ではこれまで、「奈良県王寺町における猫傷害事案」「東大阪市における多数の猫の遺棄事案」「北海道佐呂間町における犬多頭飼育崩壊事案」などを告発してきた。特に動物の受傷事案で要因を特定する際など、弁護士にとって獣医師の知見と協力は重要になる。

「必ずしもすべての事案で〝縄付き〟を出すとは思っていません。人間に、動物の命を軽んじる行為を止めさせ、冷静に反省させ、動物虐待の抑止につなげる。人間が間違った方向に向かっていれば、正しい方向に誘導する――それがどうぶつ弁護団の役割です。弁護士会には多くの弁護士がいますから、どうぶつ弁護団が告発した事案で、被疑者側につく弁護士も弁護士会内で出てくるでしょう。お互いに指摘し合いながら、丁々発止やり合ってほしい。そうして犠牲になっている小さな動物ちが少しでも救われる社会に、報われる社会になることを望みます」(中島獣医師)

堅実に地道に仲間を増やしていく

理事および運営メンバーの弁護士は「単に動物好きだから」「かわいそうだから」取り組んでいるわけではない。勉強会や施設見学、議論を通じて、ペットの流通問題や貧困問題など様々な社会問題が動物虐待事件の背景にあることに気づき、弁護士として、それらの社会問題にどのように働きかけていけるかを、探っているのだ。

「目の前の事案一つひとつに対応していき、シンポジウムのような機会に私たちの活動の経過報告などを行い、啓発活動もしていきたい。まだまだ私たちは〝マニアック〟な存在ですが、そうした地道な活動の積み重ねでネットワークを少しずつ広げ、やがては全国の弁護士、獣医師など専門知識を持つ人たちに多くかかわってほしいと思っています。そうして〝動物と人が正しく共生できる社会の実現〟を目指し、社会全体を変えていきたいですね」(細川弁護士)
 
若手弁護士や司法修習生の方々に、細川弁護士からメッセージをいただいた。

「皆さんに、ぜひ興味を持ってもらいたいし、参加してほしいと思っています。しかし、若手弁護士から『参加したい』という嬉しい手紙やメールをいただいた時、私がお伝えすることはだいたい決まっています。それは、『弁護士の仕事をしっかりとできるようになったのちに、ぜひ参加してほしい』ということです。なぜなら、動物の問題だけでは、弁護士として〝飯は食えない〟から。私自身がそれを実感し、思い悩みながら、今に至っています。参加したいという思いを持ち続け、時機がきたら会員になって、ともに活動していただきたい――その時のために、私たちもこの活動を盛り上げ、堅実に継続していきたいと思います」