Vol.91
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#28

前列左から、事務局長・淺井健人弁護士(64期)、事務局次長・野中瑛里子氏。後列は、事務局メンバー。左から、加藤真理子弁護士(67期)、安部紗乙莉氏、伊藤直樹氏

前列左から、事務局長・淺井健人弁護士(64期)、事務局次長・野中瑛里子氏。後列は、事務局メンバー。左から、加藤真理子弁護士(67期)、安部紗乙莉氏、伊藤直樹氏

SPECIAL REPORT

#28

クリエイターが活動しやすい環境づくりと、自由かつ安全な活動を推進

一般社団法人クリエイターエコノミー協会

「クリエイターエコノミー」とは、デジタルプラットフォームを活用するなどして、個人がコンテンツを制作・発信し、その活動から直接収益を得ることを軸とした新たな経済の仕組み。2000年代後半から2010年代初頭にかけて、アメリカで注目され始めた言葉であり概念だ。この新たな経済モデルは、テキスト、動画、音声、音楽、アート、ゲーム、スキルシェア、ECなど様々な形態のオンライン上の取引が中心だが、イベント開催や対面販売といったオフラインでの活動も含まれる。テクノロジーの進化やプラットフォームの多様化などにより創出された“新たな市場”の活性化と健全な発展を支えるため、21年に設立されたのが、一般社団法人クリエイターエコノミー協会だ。事務局長の淺井健人弁護士に、協会の設立経緯や、活動状況などをうかがった。

――まずは、「クリエイターエコノミー」の“現在地”を教えてください。

淺井:インターネット社会の進展により、誰もが自由にコンテンツや商品をつくり、発表したり販売したりすることができるようになりました。これまでは一消費者だった個人が、発信者・販売者・生産者となって、支持層(ファン)・顧客、企業と取引するなどして収益を得られるようになりました。
コロナ禍によって自宅時間が増えたことをきっかけに、趣味の創作活動や副業で収入を得る人も出てきて、日本でも市場拡大が加速しつつあります。

――一般社団法人クリエイターエコノミー協会が設立された背景について教えてください。

淺井:前述のように、誰もが売り手・買い手となり得る“双方向の経済活動”がオンラインを中心に広がっているものの、従前の法律や社会制度の多くは、そうした取引の在り方を必ずしも想定していませんでした。例えば、個人情報保護が進むなかで、インターネット空間での商取引では特定商取引法(特商法)で個人情報を原則表示しなければならないなど、既存の法律との噛み合わせは必ずしもよくない部分があります。一方で、個人が活動するなかでの誹謗中傷など、対策を講じるべき点もあります。

24年11月に、いわゆる“フリーランス新法”が制定されるなど、個人として活動していくにあたって、個人を守る動きも様々でてきていますが、制度へのケアは今後も必要です。とはいえ、個人であるクリエイター自身が声をあげることはなかなか難しいので、クリエイターに代わり、業界団体が声をあげていく必要があり、彼らとかかわりの深いエージェントやプラットフォーマーなどが集まり協会を立ち上げました。代表理事社はBASE株式会社、note株式会社、UUUM株式会社です。

私は設立当時noteの法務室長で、規制に詳しいということで、事務局長を務めることとなりました。
既存の枠組みや考え方の転換、個人が創作活動を継続できる環境づくりのサポートをしていくには、実際のビジネスの在り方やテクノロジー・クリエイターの実態を熟知した民間サイドの私たちが、規制などに関する対話を行政と行っていくことが重要と考えています。

――協会のミッションとビジョンを教えてください。

淺井:ミッションは、「クリエイターが活動しやすい社会環境をつくり、その自由かつ安全な活動を促進する」。既存の規制を緩めるだけでなく、逆に一定の規制はあるほうが、クリエイターが活動しやすくなるという場合もあります。そのように、クリエイターの活動環境を鳥瞰し、何ができるのかを考えています。また、規制だけでなく個人の活動を後押しするような補助金などの支援のお願いや、制度を周知していくといった活動も行っています。
ビジョンは、「クリエイターエコノミーの普及で、誰もが自分の伝えたいことを伝え、売りたいものを売ることができるようになる。ひとは生き方の選択肢が増え、自由に自分らしく生きることができる。それにより、日本の経済が発展し、世界に羽ばたく文化が育まれ、人々と社会全体がゆたかになる」です。壮大ではありますが、協会としては、“クリエイターが創作活動に集中できる環境をつくる”ことを目指しています。

一般社団法人クリエイターエコノミー協会
参加企業数は57社(2024年10月時点)。誹謗中傷対策では、検討会や分科会が設置され、分科会の設立には、総務省、警視庁刑事部などが後援している

――これまでどのような活動を行ってきたのでしょうか。

淺井:主な活動は、①特商法の運用見解、②法人登記の代表者住所一部非表示措置、③誹謗中傷対策検討会立ち上げ、④市場調査などです。

①特商法の運用については、「プラットフォームが一定の条件を満たせば、その利用者は『特定商取引法に基づく表記』において、プラットフォームの住所や電話番号を記載する運用で問題がない」とする見解を消費者庁から受けました。わかりやすく言えば、自宅でハンドメイド作品をつくってインターネットで販売する人の場合、以前は個人の住所や電話番号の公開が必要だったため、抵抗感を覚えて販売(ビジネス)を始めることをやめてしまう――といったケースが一定程度ありました。しかし、消費者庁の見解を受けて解釈を活用したプラットフォーマーでは、相当数のクリエイターが新たなサービス・モノの提供者として活動できるようになりました。クリエイターが“最初の一歩を踏み出しやすくする”ことを後押しできたと思います。

また、②法人登記の代表取締役の個人情報保護については、“法人登記の代表取締役の個人住所を原則非公開とする提言”を作成し、自由民主党の「新しい資本主義実行本部 スタートアップ政策に関する小委員会」と「スタートアップ推進議員連盟」に、私たちを含むスタートアップ協会など5団体共同で提出。「住所の一部を省略表記とすることができる」旨の省令改正が24 年10月になされました。使い勝手についてご意見をいただくこともありますが、ビジネスを拡大したい(法人化したい)クリエイターの一助になっていると思います。

③誹謗中傷は、長い間クローズアップされてきた問題で、今は“エスカレートしすぎている”という感覚があります。残念ながら、誹謗中傷によって創作活動を断念する人もいます。法律事務所など相談先はあっても、開示請求の裁判には数十万円の費用がかかります。プラットフォームに申し立てて記事削除ができれば、そこまでの費用はかかりませんが、自分でやるハードルは高いです。費用面だけでも、個人が対応できる範囲には限界があります。私たちは、そうした誹謗中傷の発生自体が減るよう、予防につながる啓発活動を行ったり、実際に起きてしまった場合の対応ノウハウ共有などを目的に、検討会や分科会を立ち上げました。分科会を立ち上げ、クリエイターをサポートするエージェントが大勢参加したということで、悪意なく便乗するなどして誹謗中傷を行う人たちに対しては一定の抑止効果があったと考えます。

④市場調査については、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で、国内のクリエイターエコノミー市場規模の将来予測などを行い、その結果を発表しています。23年時点で、市場規模は約1.87兆円、これまでの成長ペースで拡大すると、24年には2兆円を超える市場になるという予測が立っています。そうしたエビデンスをもとに、クリエイターのサポートや、クリエイターエコノミーを広げていくための活動を、様々な企業・有識者からも意見をもらいつつ行っています。また、クリエイターに関連するパブリックコメントも随時提出しています。加えて、改正された法令に関するセミナー、クリエイターエコノミーに関するテーマのイベントも実施。懇親会を含め、会員企業向けの施策、クリエイター向けの施策、双方で活動を展開しています。

――今後、どのような課題に注力していかれますか。

淺井:誹謗中傷対策は今後も継続して向き合っていくべき課題です。インターネット社会の進展により、誰でも自由に発言できるようになった結果、誹謗中傷も増え、逆に“息苦しさ”を感じるケースも増えています。クリエイターが自分の活動に集中して、面白いコンテンツを出していけるよう、サポートしていくことが業界全体の課題です。また、前述のとおり、クリエイターを後押しするような施策(補助金など)、表現の自由、表現の幅を守ることなどもありますし、今後、新たに出てくる様々な問題に適時適切に対応していくことが必要と考えます。民間という立場から、例えば、様々なジャンルのクリエイターの事例を紹介して、クリエイターという仕事のイメージや認知を広げていく、海外でも活躍しやすくなるよう行政に実態を伝え、実態に即した支援策を検討していただくなどということも考えられます。協会のマンパワーの制約はありますが、クリエイターが“安心・安全”に活動していける環境づくりを、現在の社会実態に沿って行っていきたいと思います。そうして、クリエイターの活動を促進しながら、日本が誇る文化やコンテンツ産業を育てていくことに寄与する活動を展開していきます。