現在の各事業部門と法務グループとのかかわり方については、「案件スタート時から関与し、契約書の審査やリーガルリスクのチェックに加え、ステークホルダーに対する責任、ブランド価値、コーポレートガバナンスなど、様々なリスク視点で案件の検討を行い現場にフィードバックしています」と小林氏は説明する。
「ただし、たとえ現場から頼まれても、法務グループが前面に出て、例えば相手との話し合いの場に同席し、交渉当事者の役目を引き受けてはいません。しかし、海外の会社との交渉では、テーブルにつく先方の弁護士や法務担当者に圧倒されることが珍しくありません。現場の交渉力の問題もありますが、今のような法務グループのサポートのスタンスでよいのかどうかは、検討課題だと思っています」
小林氏を補佐する齋藤茂樹法務グループリーダーは、「実際の契約では、交渉がデッドロックに陥ってしまうことも結構あります。前面に出ないとはいえ、それを調印まで持っていけなければ我々の存在意義はありません。最終的にどこまで譲ってどこを死守するか、といった点を現場にていねいに説明し、交渉が前に進むようフォローしています。そういう局面では、送ったメールがそのまま相手方に転送されてもいいように、細心の注意で文章にするんですよ」と語る。
日本が高齢化、人口減少に悩むなか、同社にとっても、グローバル化は経営上の重要テーマに位置づけられている。法務グループの課題について、小林氏は「英文契約、英米法などの知識に加え、特にこれからは、各国の法体系、商習慣、言語への対応などに対し、幅広い見識が我々に求められているという思いを強くしています」と話す。
「新しい国で事業を興したり、現地企業と提携したりという時、それに潜むリスクは具体的に何なのか、契約でどこまでカバーし、カバーできないものは何で担保するのかなどを捻出しなければならず、そのためには、論点のポケットを多く持ち、意見の奥行を深める訓練が必要です。この意味で、法務の視点で活字を読みまた話を聞き、日頃から自らの興味の幅を拡げる努力が重要です」
ところで小林氏は、営業、人事、マーケティングなどの現場を経験した後、現職に就いた。他のメンバーもほとんどが他部署からの異動である。
「いろいろな現場を経験させるのが社の方針で、実際、これまでの経歴が今の仕事をするうえで糧になっています。一方で、法務グループにますます専門性が要求されているのも事実。今後の人材育成や採用は、やや〝専門性志向〞になっていくと思います」
最後に、法律を学ぶ若い人たちに対するメッセージを小林氏に聞いた。
「当社のような食品メーカーの場合、研究開発から始まって、生産、マーケティング、物流、営業といったたくさんの機能が凝縮されていて、そこで様々な関係者が働いています。彼らと日常的に接しながら仕事をしていくことになるので、非常に躍動感に満ちた日々を送ることができるのは確か。事業会社での仕事に少しでも興味があれば、ぜひチャレンジしてほしいと思います」