法務最前線:2020年1月号 Vol.71

法務最前線

アトーニーズマガジン 法務最前線

経営そのものに深くかかわる企業法務部。現場からの相談に瞬時にかつ的確に判断することが求められる組織に必要なファクターとは、その精鋭が弁護士に期待することとは何か?各社の法務部長へ伺いました。

※掲載記事の内容は取材当時のものです。

「事業を守り事業を強くする」を合言葉に戦略法務を実践し、 グローバルかつ多角的な事業展開を支える

法務最前線

京セラ株式会社 法務知的財産本部 法務部

事業部担当制で ビジネス感性を磨く

 電子部品、半導体関連部品、通信機器、太陽電池、ファインセラミックス、機械工具、宝飾関連品などの製造を行う京セラ。日本をはじめ米国、欧州、アジア・パシフィックに広がる京セラグループのネットワークは286社におよび、グローバルかつ多角的な事業展開を加速させている。これに伴い、法務部も組織拡大を推進中だ。法務部長の廣田浩氏に、まず現況をうかがった。
「法務部は、京都本社の法務1部、東京事業所および横浜・みなとみらいリサーチセンターの法務2部で構成しています。事業部担当制をとり、事業部の拠点が関西方面なら1部、関東方面なら2部が担当。国内外の垣根はなく、契約書作成・検討、紛争対応、M&A対応などの業務は、両部が共通して行っています」
 法務1部に所属する樋口貴彦氏が、事業部担当制の利点を教えてくれた。
「私は現在、機械工具、電子部品関係の事業部を担当しています。一般民事や中小企業の企業法務を扱う法律事務所から転職してきたので、そうした製品の知識はほぼ皆無。入社以来、個人で勉強するほか、事業部の開発担当者等が議論を重ねる開発会議に参加させてもらって事業や商品を学び、開発内容の詳細やビジネスの進捗などの動向にもキャッチアップしています。事業部担当制により、当該事業担当者とのつながり・製品知識、それにまつわる法的知見などを深めることができています」

国内外問わず 契約交渉に参加

 同社法務部では、グローバル展開の下支えとして5極体制による強化を目指す。
「米国、欧州、中国、シンガポール、日本の5極があり、昨年度は日本からシンガポールへ1名の法務担当を配属しました。ゆくゆくは各拠点に、法務・コンプライアンスと知財の各担当を配置したいと考えています」(廣田氏)
 米国、欧州、中国のグループ企業は、販売会社としての機能が強く、モノづくりにおける品質保証、知財、損害賠償の上限についてなどの、知識や考え方の統一を図っていく役割が法務部に求められている。
「米国・中国にも製造子会社はありますが、基本的に知財、品質保証などについては、日本で考えるべき課題と捉えています。各拠点には現地有資格者も法務部のメンバーとして活躍していますが、彼らと協働して、考え方の統一や本社と現地の橋渡しのほか、現地の事情を本社にフィードバックして調整を行える人材が、今後一層、必要となっていくでしょう」と、廣田氏。
 海外配属の対象は経験10年程度、課長職相当のメンバーを検討しているが、若手にとってもキャリアプランの選択肢の広がりが期待できる。
 海外配属とまではいかなくとも、若手にとって海外出張の機会は非常に多いと、廣田氏。
「京セラでは、世界中から経営幹部が集まる『国際経営会議(IMM)』を毎年開催しており、法務部としてその会議で、〝法務と営業が同じ目線・考え方で交渉にあたるべき〞という宣言を行いました。つまり顧客との契約交渉に、法務部のメンバーも積極的に同席、あるいは主導するという動きを行っています。例えば、無理な要求・契約条件が顧客から届き、立場上、営業での対応が難しいという場合は、〝京セラとして最善の条件は何か〞を念頭に、法務部が前に出て交渉します。特に欧米企業の契約では非常に厳しい条項が増加傾向にあり、必然的に法務部の契約交渉への参加や海外出張の機会も増えていくというわけです」
「事業を守り、事業を強くする法務活動に徹する」が行動指針。まさに〝プロアクティブな法務〞を体現する、同社法務部だ。

英語力はもとより 人間力を鍛える場

 同社法務部の業務においては、グローバル案件が当たり前にあり、英文契約書にかかわる頻度も高い。「とはいえ、英文契約書がまず読めて、ある程度書ければ大丈夫です。聞く・話すはプラスアルファ」と、廣田氏。なぜなら同社では、語学力を鍛えるための制度のひとつとして、セブ島語学留学があるからだ。
「セブ島で8週間、マンツーマンで英語力を鍛えるもので、参加メンバーの一人は研修前780点だったTOEICが915点まで上がりました。それなりに効果が認められるので、法務部としても年に2名ずつ継続して参加させる予定です」(廣田氏)
 ほか、LL・M・留学も制度として設けている。これまで4名が米国などのロースクールへ留学した。英語については、興味・関心さえあれば、厚く支援される環境であるといえそうだ。
 また法務面では、「特に若手にとっては、学びの機会が潤沢に用意されている」と、廣田氏。
「外部セミナーへの自発的な参加を推奨していますし、若手を中心とした部内プロジェクトもあります。民法改正などのタイミングでメンバーを固定し、1年がかりで研究を実施。その成果を冊子にまとめて発表するというものです。これまで仲裁やM&A手続、ライセンス契約などのテーマで、立派な冊子を作成しました」
 法務1部責任者の鈴木利直氏に、同社でのやりがいをうかがった。
「私は中途採用で入社しました。結論からいえば、やはり『京セラフィロソフィ』にある〝人間として何が正しいか〞を物事の判断基準に置くことがすべての根幹にあり、全員が共通してそれに向かえるということでしょうか。当社に入社して間もなかった頃、欧州で訴訟を担当したことがありました。当社が事業撤退したために製品供給が止まり、欧州の代理店から多額の損害賠償請求訴訟を起こされたのです。1審、2審と勝訴し、訴訟費用も代理店が負担という判決となりました。しかし、その時点で相手方から和解の申し入れが届き、『最高裁まで持ち込まない代わりに訴訟費用は京セラで持ってほしい』というのです。私としては当然、和解はせず最高裁までと考えましたが、上司に相談したところ、『和解を受けろ』と。『そもそもの原因は当社が製品供給を止めたことであり、理不尽な訴訟ではあったが、代理店に迷惑をかけたことには違いない。相手が和解を申し入れているのに、さらに叩くのは京セラの精神ではない』ということでした。リーガル的に見れば当然の判断も、京セラはそうした姿勢をとるのかと衝撃を受けました。その考え方は素晴らしいし、好きだと感じました。振り返ると、その時の経験により、さらに仕事に誇りが持てるように。この会社で働けて、よかったと思える仕事でした」
 同社では、「2020年度の連結売上高2兆円。その先に3兆円」という目標を掲げている。
「その目標に向かう中で、M&Aも活発化していますし、戦略法務的な動きの比率も増しています。これに対応していくには、法務部の陣容拡大は必至。向こう5年以内に現在の37名から60名体制にしていきたいと考えています。しかし、ただ人員を増やすのではなく、メンバー一人ひとりが人として成長していくための場を用意すること、そこに一人ひとりが積極的にコミットしていこうという意欲が持てること、を大事にしていきたい。法務の行きつくところは〝人〞です。すなわち個々の成長が、組織の成長となるので、一人ひとりを大事に成長させられる組織、組織力の強化を目指していきたいと考えます」(廣田氏)

■企業概要

  • 京セラ株式会社
  • 設立日 1959年4月1日
  • 代表者 代表取締役社長 谷本秀夫
  • 所在地 〒612-8501
  • 京都市伏見区
  • 竹田鳥羽殿町6番地
  • URL https://www.kyocera.co.jp/
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