Vol.71
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メンバーは弁護士4名、シニアリーガルアナリスト1名、アシスタント1名の布陣。ライレ氏はドイツおよび米国ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。日本の弁護士資格を持つ神内氏は、外資系法律事務所や長島・大野・常松法律事務所等を経て同社インハウスローヤーに

メンバーは弁護士4名、シニアリーガルアナリスト1名、アシスタント1名の布陣。ライレ氏はドイツおよび米国ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。日本の弁護士資格を持つ神内氏は、外資系法律事務所や長島・大野・常松法律事務所等を経て同社インハウスローヤーに

THE LEGAL DEPARTMENT

#101

フィリップ モリス ジャパン合同会社 法務部

急速な事業の変革と、新たな市場形成に挑戦。世界的企業でスタートアップのような法務を体感

プロジェクトベースで様々な業務を遂行

フィリップ モリス ジャパン合同会社(以下PМJ)は、世界各国でたばこ事業を展開するフィリップ モリス インターナショナル(以下PМI)の子会社で、日本で販売されるPMI製品のマーケティングや販売促進活動を行っている。

同社法務部の構成について、シニアカウンセルのルーディ・ライレ氏が教えてくれた。

「PMI全体では約80の国と地域に約220名の弁護士がいます。登記上の本社はニューヨークですが、実際の経営はローザンヌ(スイス)にあるオペレーションセンター(以下ОC)と呼ばれる統括本部で行っており、OC内にも法務部があります。さらにPMIがビジネス展開している地域である、東アジア・オーストラリア、南米・カナダ、ヨーロッパなど6つの地域に区分した各リージョンにも法務部が置かれ、日本にいる我々法務部のメンバーはこれらのОCおよびリージョンの法務メンバーやアジア諸国のローカルの法務メンバーなどと連携しながら、日本市場における法的課題の解決に取り組んでいます」

フィリップ モリス ジャパン合同会社 法務部
カフェは打ち合わせや休憩、集中して仕事をしたい社員などが利用。ちなみにのダイバーシティ&インクルージョンは世界的に見ても先行している。PMJの従業員の国籍は約30カ国。本部管理職の女性比率は現在24%で、今後もさらなるダイバーシティを目指す。在宅ワークや、「ハーフデー・フライデー」と呼ばれる“金曜を午後休”とする制度など、多様かつ柔軟な働き方を支援する制度が整っている。なお、そうした働き方改革推進に、OC時代に携わったのがライレ氏だ

PMIは加熱式たばこ「IQОS」のグローバル展開に向けて、2014年11月に、世界に先駆けて日本で先行販売を開始。16年4月には日本で全国販売開始、以来、紙巻たばこから〝煙の出ない(スモークフリー)製品〞への切り替えによる加熱式たばこ市場の拡大をけん引してきたのがPMJだ。当時の様子について、法務部カウンセルの神内健次氏にうかがった。

「加熱式たばこという新しい製品を日本に輸入し、流通させる算段や、その際国内法は何が適用され、それらの運用実務はどうなっているのかなど、まったくわからない状態からのスタートでした。まず、外部の弁護士の協力を得ながら関連する法律を徹底的に調べる一方で、ユーザーガイド作成のために参考となるものを求めて家電量販店に駆け込んだという話も聞いています。当社の加熱式たばこシステムは、①たばこを加熱する電化製品であるデバイスと、②加熱により消費されるたばこ製品であるコンシューマブル(消費財)の2つの製品を組み合わせて使用するものになっていますが、日本での販売開始からしばらくの間、コンシューマブルは、たばこ事業法上「パイプたばこ」として整理されていました。一方、デバイスについては基本的に、同法の適用のない電化製品として整理されています。その後、当社の関係部門による関係各所への働きかけや対話を重ねた末、今般たばこ事業法施行規則が改正され、『加熱式たばこ』というカテゴリーが法令の中に組み込まれました。そのように、〝VUCAな世界〞に切り込み、開拓していく面白さが、今の当社にはあると思います」

神内氏は、LINEとの業務提携に法務部の主担当として関与。

「同プロジェクトはLINEの企業向けアプリを活用し、〝IQОSオーナー〞向けの新サービスを展開するもの。これも外部の弁護士の協力を得ながら、LINEと提携することでどんなサービスが展開できるのか、どんなビジネスチャンスが生まれるのかなどを当社のビジネス部門をはじめ、LINEのプロジェクトチームとも議論し、協働してかたちにしました。ビジネスと密に連携して、様々なアイデアを契約文書に落とし込んでいく作業はとても楽しかったですね。一方で非常にタイムセンシティブな案件だったので、〝突き詰めていく面白さ〞と、スピード感とのバランスに苦心しました」

そのように、現在の法務部の業務は、昔ながらの契約書レビューや社内の法的相談にとどまらない。

「当社では今、急速なビジネスの変革に合わせ、〝プロジェクトベースの組織〞に変わろうとしています。各プロジェクトに各部署から人員がノミネートされてチームで動く形式です。法務メンバーもそれに組み込まれるわけですが、一方で従前のルーティン作業もあります。そちらにかける時間をなるべく短縮できるように契約書のテンプレートを完備するなどして、よりプロジェクトにシフトできるよう工夫しています」(神内氏)

法務部人材に必要な3つの要素

様々な規制に服する事業だが、「IQOS」などのスモークフリー製品の開発・販売に伴い、従来はあまり縁のなかった法律|例えば電気用品安全法、消費生活用製品安全法や廃棄物処理法などの業法|および法律以外の多様な分野の専門知識も求められるようになった。ライレ氏は言う。

「〝煙のない社会へ〞というビジョンを実現するべく、事業は急速に変容しています。それに伴い、弁護士としての我々の仕事は複雑化してきています。例えばGDPR(EU一般データ保護規則)、日本における個人情報保護法、それらに伴うデジタルのメカニズムなども理解し、複層的に仕事を進めるといった具合です。法律は理解できてもテクノロジーを理解せずにはうまくアジャストできません。そのため、外部セミナーにも積極的に参加して、学び続けることを推奨しています。メンバーには、好奇心をもって自発的に学び、ビジネスに寄り添い、法律以外の専門知識が身に付くことも楽しみながら仕事に臨んでもらいたいです」

今後、求められる人材とは。

「我々は、共に働く仲間に3つの要素を求めています。今後も当社の革新的な製品の開発・製造・販売など様々な分野において、既存の法律や規制にうまくあてはまらない、複数の分野の専門知識を必要とする問題に遭遇することが予想されます。したがって我々には、①卓越した法的スキルと、②新しいことへの好奇心や学習意欲が欠かせません。最後は、③ポジティブなマインドセットです。我々はほかのどんなビジネスより厳しいプレッシャーの下に置かれていますが、それを乗り越えるためにこの3つは必須の要素です」

グローバル企業で働く醍醐味

同社は「喫煙またはその他のニコチン含有製品の使用を続ける法定年齢に達した成人喫煙者のみを対象として製品を提供する」という原理原則を有する。OCの法務部でリスク分析やビジネスアドバイスの方向性を説いたガイドラインを作成、それに基づき日本の法務部でも議論し、ビジネスのサポートについて検討する。

「〝煙のない社会へ〞というビジョンの実現に挑む一方で、不確実な市場環境や明確な法的枠組みが存在しているとはいい難い状況の下、現在のみならず将来の法律規制に関するコンプライアンスリスクを管理するという使命を我々は負っています。ОCの関連部門や研究開発部門とも連携し、情報収集・精査を行いながら、ガイドラインに基づきPMIとして一貫性をもってビジネスを遂行していくとともに、何よりもコンシューマーセントリック(顧客中心主義)の視点を大事にしています」とライレ氏。実際の顧客の声に常に耳を傾け、顧客の立場からものを考えることが必要、ということだ。

PMIにはショートタイム/ロングタイムアサインメントという、他国で実務経験するプログラムが設けられている。これは、対象者個人が他国やОCでの経験から学ぶだけでなく、他国やОCに異なる視点を持ち込むことを目的とする。ライレ氏も、その制度の恩恵により、日本の法務部に着任した一人だ。

「法務や財務などの間接部門でも、この制度で人材交流を行っている。当該地域の業務内容、考え方、文化、コミュニケーションなどをお互いに学べる機会で、グローバル企業ならでは。ライレのようなマネジメント職も、この制度を活用しているのがユニーク」(神内氏)

「職位も性別も国籍も年齢も関係なく平等に」が企業風土でもある。

「当社はヒエラルキーがなく、〝ボトムアップ〞が特徴の一つ。当社はPMI全体で『EQUAL||SALARY認証』(当該企業が男女間での同一労働同一賃金を実現するための持続性のある原則および実務指針を有していることを、外部機関が認証するもの)を取得しています。PMJはこの認証を取得したスイス国外で第1号の会社でした。当社の社員が真に望むのは〝誰もが自由にアイデアを創造し、発信できる環境が敷かれている〞こと。それがボトムアップの本質です。また当社は、日々変革を問われる環境下にあるせいか、新しいアイデアが社員から次々と生まれます。それを実現していこうというパッション、挑戦意欲が高い。次は何が起き、何が起こせるのだろうという、スタートアップで働くような面白さがあります。それが当社の魅力かつ醍醐味だと思います」(ライレ氏)