Vol.75
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写真左より、取締役CFO・水口啓氏、法務部の池田紀子氏、柳元子氏、代表取締役社長・安達淳治氏。法務部ゼネラルカウンセルのジェフ・グリーン氏はアメリカ在住

写真左より、取締役CFO・水口啓氏、法務部の池田紀子氏、柳元子氏、代表取締役社長・安達淳治氏。法務部ゼネラルカウンセルのジェフ・グリーン氏はアメリカ在住

THE LEGAL DEPARTMENT

#106

株式会社Kyulux 法務部

有機EL市場の新たな未来を切り拓く、大学発ベンチャー企業を支える法務

ベンチャーならではの矜持を守り抜く法務

福岡県・博多駅から車で約40分。自然環境との共生に配慮して2005年に竣工した九州大学伊都キャンパスからほど近い一角にオフィスを構える株式会社Kyulux(キューラックス)。有機ELディスプレイや照明などに用いられる次世代型の発光材料を開発するベンチャー企業だ。15年に、九州大学の安達千波矢教授、CEOの安達淳治氏(パナソニック出身)、CFOの水口啓氏(元シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト)ほかが、共同創設者となり設立。同教授が開発した「熱活性化遅延蛍光(TADF)」を活用し、新たな有機EL発光技術となる「HyperfluorescenceTM(ハイパーフローレッセンス)」の開発を主力事業とする。高品質で低コストのハイパーフローレッセンスの実用化・量産化が進めば、有機EL市場は同製品が席捲すると目されている。

同社は、本社を福岡に、子会社をボストンに、開発以外の一部メンバーのためのサテライトオフィスを東京に置く。法務部は、ゼネラルカウンセルのジェフ・グリーン弁護士、池田紀子氏、柳元子氏という、3名の少数精鋭部隊である。なおアメリカ在住のグリーン弁護士は、ほとんどホームオフィスからのテレワークで業務に対応しているという。創業当時の法務について、水口氏が振り返る。

「実質、立ち上げから数年はジェフ一人で外部の法律事務所を活用しながら対応していました。彼は大学で物理学、数学、コンピュータサイエンスを修めた弁護士で、当社事業を理解する素地を持つコーポレート法務(商業訴訟、法人取引、債務関連など)のエキスパートです。契約書はほぼすべて英文で、大企業相手の交渉も多く、まさに八面六臂の活躍でした」

設立翌年、韓国のサムスンディスプレイとLGディスプレイが同社への共同出資を決定。「日本の大学の成果を事業化するのに、特定の一社だけから出資を受けるのは望ましくない」と、同社はサムスンの単独出資を拒否。結果、韓国のライバルメーカー同士が共同出資、株式会社ジャパンディスプレイの出資も取り付け、15億円を調達したという過去がある。その際、サムスンやLGとの交渉がハードなものであったことは想像に難くない。グリーン弁護士は言う。

「世界の大企業と交渉していくなか、まだまだ小さなベンチャー企業が会社を“ディフェンド”するのは、非常に難易度が高い業務です。当社の技術力や“未来”を守るため、出資を受ける際や事業提携の際、安易に譲歩しない、不利な条件で契約を結ばないという強い姿勢を貫くことが求められます。そうした難しい業務に挑戦できることが、ベンチャー企業における法務のやりがいだと思います」

「事業をバラバラにしたり、相手の提示する条件を簡単に飲んでしまえば、資金を調達することは簡単です。しかし私たちはこれまで一切、そうしてこなかった。サムスンとLGと交渉していた時は、安達とともに、『相手の要求に従うくらいなら会社をつぶしてもいい』という覚悟でした。実際、共同開発の契約締結には2年以上かかっています。闘って闘って、ギリギリのせめぎ合いの交渉を法務が担う。その過程で相手の信頼を得て出資を取り付ける、これが当社法務の要の業務です」(水口氏)

ナスダック上場に向けてサポート

出資先や取引先が加速度的に拡大するなか、本社常駐で法務を担うメンバーの確保が急務となり、17年に柳氏、19年に池田氏がジョインし、現体制が整った。池田氏に、法務部のミッションと、業務について伺った。

「九州大学発の有機EL技術を基にして、これを実用化していくのが当社の事業。世界規模の企業を目標としているので、それに合わせて法務の観点からサポートすることが、私たちの使命となります。カバーする国は、アメリカ、日本、韓国、中国、台湾、カナダ、ドイツと多国にまたがります。法律は国ごとに、アメリカなら州ごとに異なりますが、それら多国の法律を下敷きとする契約書を、法務3名でハンドルしていくわけです。また、当社は九州大学の持つ特許の譲渡や独占的なライセンスを受けているため、大学との連携も必須。そのように、おそらく一般企業にはない法務の特性がいくつもあります。私たちが作成・レビューする契約書は、およそ年間100件。これまでの累計では、おそらく500~600件ほどあるのではと思います。そのほとんどが英文契約書というのも当社ならではです」

一つの有機EL素子をつくる際、同社の材料以外にも20種類以上の他社の有機材料が使われるそうだ。現在、同社技術に合わせた材料開発を、韓国、中国、日本の材料メーカー12社と連携して行い、量産化に向けて動いている。

「私たちは自らが材料を合成して大量生産するのではなく、アウトソースのビジネスモデルを採用しています。ですから各国大手メーカーとのコラボレーションが多く、ここでもハードなネゴシエーションがあり、そこで法務の力が大変重要になります。そうして、私たち経営層が考える方針を文章にして、契約書というかたちに落とし込んでくれるところまでが法務の役割。当社においては、まさに経営と直結する非常に重要なポジションです」(安達氏)

法務の池田氏と柳氏は二人とも海外生活経験があり、TOEICスコアは満点。両氏にとっての英語は、日常のコミュニケーションツールに過ぎないわけだ。ただ、専門的な技術知識・用語が満載の英文契約書の解読と作成は、さすがに難題だったという。

「入社当時は、技術的な知識の習得に苦労しました。有機ELに関する書籍などを熟読しましたが、ジェフをはじめ、事業開発や研究開発、知的財産部門のメンバーなど、様々な部署の方に実務を通して教えてもらうのが一番でしたね。社員75名のベンチャー企業ですし、お互いの顔が見える環境。ジェフも含めて海外にいるメンバーともオンラインミーティングなどでよく話しますし、社内はカジュアルな雰囲気で、気軽にメンバーに相談したり、アドバイスをもらえるのが、ありがたいです」(両氏)

池田氏に、この仕事のやりがいを尋ねた。

「当社は、創業当初から米国ナスダック上場を目標に掲げています。日本の大学発ベンチャーをナスダックで上場させるのは、私個人にとっても人生の夢。法務としてそれをサポートできることは、これから、仕事の最大のやりがいとなっていくでしょう。今からすでにワクワクしています!」

  • 株式会社Kyulux
    福岡市産学連携交流センター内の実験室の様子
  • 株式会社Kyulux
    未来型有機EL発光技術のサンプル(左は従来の蛍光材料)

先進性や挑戦を旗印に

ナスダック上場を、現実的な達成目標として視野に入れている同社。過去、シリーズA、Bで50億円を調達し、20年末にはシリーズBプライムとして、さらに40億円の資金調達が決定。21年からはこうした開発費用で、実際に製品を世の中に出していく段階に入る。安達氏に、今後の事業の展望について伺った。

「私たちの有機EL発光材料は、大型テレビやスマートフォン、自動車のインストールメントパネルなど多くの製品に使用されていく予定です。先述の九州大学のライセンスほか、ハーバード大学から独占的ライセンスを受けた人工知能を利用し、独自に開発したTADF材料探索システムを強みに、有機EL発光材料市場でのシェア拡大を確実に行っていきます。また、九州大学や福岡県と連携して、“有機光デバイスシステムバレー”をつくる、つまり有機ELを中心としたシリコンバレーの福岡版を実現することも、将来的なビジョンの一つ。大学と行政との連携を生かして、当社がいち早く有機光デバイスシステムバレーで成功することで、大学発ベンチャー企業のロールモデルとなっていきたいと思います。さらに、ディープテック=先端材料を基点に、アプリケーションやデバイスがつくられるという新たな商流を創出していくことが、私たちが抱く、最終的で最も大きなビジョンです」

CFOの水口氏も、「福岡に、こんなに面白い企業がある。誰だって、本気を出せば、場所や企業規模など関係なく、世界で成功していけることを示していきたい」と目を輝かせる。

福岡発・大学発のグローバルベンチャー企業の挑戦は、今後ますます面白みを増していきそうだ。

株式会社Kyulux
社員数75名の内、外国籍社員19名、海外勤務・留学経験者16名。女性比率約4割のダイバーシティに富んだ職場