今でこそ多くの企業が、デジタルマーケティングの恩恵を当たり前に享受している。ネットイヤーグループ株式会社は、CX(カスタマーエクスペリエンス)を起点としたマーケティングの重要性、オウンドメディアの効果性などに20年以上前から着目し、デジタル時代のマーケティング戦略やCXデザインなどのサービスを、日本を代表する多くのクライアントに提供してきた。2019年には、大手SIerのNTTデータと資本業務提携契約を締結。これにより、NTTデータの得意とする基幹システム領域の知見や経験を生かしてクライアントにとって新たな事業価値創出の根幹となる「守りと攻めのDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス」の提供をより深化させている。
そうした業容拡大や事業再構築を法的視点で支えてきたのが、法務監査室室長の草場亮典氏。
「当室の所管業務は、コーポレート法務・事業法務・渉外法務、内部統制、内部監査、知的財産関連、М&A対応、株主総会関連、役員会議案審査・議事録作成および監査等委員会補助使用人(監査役室スタッフ)です」と、草場氏。
特徴的なのは「法務監査室」という名称に表れるとおり、法務と監査を兼ねた役割であること。この室名は、草場氏が室長に就任した際に、自ら改称したものだ。
「経営サイド(経営者や取締役会)からは、事業執行機能・本社機能、および各種役員の指揮命令とは独立して、社内の各機能を支援・牽制することを求められています。“一般的な法務業務”に加えて、上場企業におけるコーポレートガバナンス体制の中核となる部署として、本社機能・事業執行機能から完全に独立していること、各種の監査機能を有することを社内外に示すため、この名称にしました」
例えば売上計上処理を行う経理機能に対しても、牽制機能を持つ。
「一般的には、売上計上の問題は、経理や内部統制部門で判断することになりますが、当室は内部統制や監査の機能を有しているため、契約審査にあたり、法律上の有利・不利のみならず、会計上不適切な処理になっていないかといった視点も含めて審査します。その結果、当室が不適切と判断した契約は締結できないし、売上計上もできません。つまり、事業差止権を有しているわけです。また、監査等委員補助使用人として、監査権と内部監査権に基づく調査・監査・差止権も有しており、売上計上にかかわらない事案に対しても牽制する権限を持っていることが、当室の特徴です」
社内における草場氏は、いわばゼネラルカウンセル(GC)と同等の存在であるようだ。
「その肩書ではありませんが、実質は近い役割を担っていると思います。私がGCに近い権限をセットするにあたってモデルにしたのは、国連の常任理事国が持つような絶対的な“拒否権”です。それは、法務や監査という職制で決裁権限上の“承認ルート”に入っていくという考え方が、日本の企業風土には適さないだろうと考えたからです。私が実際に行ったこととしては、監査等委員補助使用人としての監査権・内部監査としての監査・調査権という既に法的根拠が認められた権限をベースに、その権限を決裁権限に関する規程に反映することで環境を整備し、実際に試行錯誤しながら行使していくことで、GCが行使できるような“拒否権”をルールメイクしたわけです」
しかしながら、たった一人ですべての事案について目配りすることは難しい。
「例えば、経理、総務、人事などが『これはマズイのでは』と気づいた時に、私のところに連絡をくれる。それを精査して、私が差止権を行使するというのが、日々の“拒否権”の行使状況です」