Vol.82
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リスクマネジメント部のメンバーは、酒井氏を含めて10名(加えて1名が情報セキュリティ責任者と兼務)。有資格者は2名(大手渉外法律事務所、メーカーの法務部の出身者)

リスクマネジメント部のメンバーは、酒井氏を含めて10名(加えて1名が情報セキュリティ責任者と兼務)。有資格者は2名(大手渉外法律事務所、メーカーの法務部の出身者)

THE LEGAL DEPARTMENT

#126

株式会社エス・エム・エス 経営管理本部 リスクマネジメント部

経営の意思決定と事業の最適化・加速化に寄与するため“法務”の本質を追求し続ける

独自体制で、法務の価値と成果を追求

医療、介護、ヘルスケア、シニアライフの各領域で、医療・介護職向け人材紹介や、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」など、高齢社会×情報を切り口にした様々なサービスを展開する株式会社エス・エム・エス。「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」というグループミッションを掲げる同社の提供サービスは、国内外で40を超える。この法務機能を担当するのが、経営管理本部直下のリスクマネジメント部だ。部長の酒井玄氏に、その特徴をうかがった。

「当部は、法務機能を含めた“リスクマネジメント”を担当する部であることが最大の特徴です。『経営陣および事業責任者のパートナーとして、リスクをコントロールする観点からの支援を実行し、当社グループ全体としてリスクを最適化する』という部門のミッションを掲げ、グループミッションの実現の妨げになるすべての不確実性をリスクと捉えて業務に臨みます。そのため、部のコアスキルは法務ですが、単なる法的知識の提供にとどまらず、経営陣と事業の意思決定・実行を支援するべく、圧倒的な当事者意識と幅広い専門性を持って、“監査”への業務拡張や、“統制”の基盤構築・周知・実践も行います」

とはいえ、“リスクゼロ”を目指しているわけではない。

「社会に対する説明責任や事業活動への影響を加味し、トータルでバランスの取れたリスクマネジメントを行うことを目指しています。多様なビジネスモデルをグローバルで加速度的に成長させるという当社の事業特性に鑑み、ビジネスモデル、事業ステージ、国と地域といった変数を踏まえつつ、それらの変数に応じた個別の事業支援(個別最適)と、全社横断の施策のバランス(全社最適)を俯瞰しながら、当社の成長とグループミッションの実現を支えるべく、幅広い業務を担っています」

その個別最適と全社最適をメンバー各自が実行できるようにと、酒井氏が構築したのが、「縦と横のマトリックス体制」だ。

「キャリア事業や介護事業者事業などの事業領域を“縦の事業軸”、事業法務、内部統制、内部監査、情報セキュリティなど全社横断的な業務を“横の機能軸”として、各自が縦横両方の業務を担います」

例えば民法改正に伴う契約書のひな形改訂の際、縦の事業軸だけを担当していると、文言一つとっても各事業で表現や解釈はバラバラになりがちだ。そこで「契約書ひな形の作成」「サービスの利用規約の整備」といった横の機能軸となる事業法務を担当するメンバーが“司令塔”となり、全社で契約書文言の平仄を合わせ、改訂を行う。この体制が叶った背景には、酒井氏、経営管理本部長、社長共通の思いがあった。

「企業における法務機能は、『法律に関する知識の提供や単なる相談窓口として機能するのではなく、能動的に本質的な問題解決を行ったり、より効率的かつ効果的な仕組みができるよう社内外に働きかけたりすることに意義がある』というのが、私と経営陣の共通認識です。一例として、取引先から値引き要求があった場合、私たちの仕事は、その覚書の作成で終わりとはなりません。100万円を80万円に値引きするといった場合、『職務権限に照らして誰の承認を得るべきか』『その承認はとれているか』『承認をとったプロセスやフローを残しているか』といった内部統制にかかわる問題が生じるため、これらを解決するための業務プロセスを構築する必要があります。また、値引きの事実を顧客管理マスタに反映する場合には、データをどこに保持するか、アクセス権限をどのように設定するかなど、実際にツールの仕組みを理解したうえで、あるべき姿を検討します。さらには、経理が請求書を発行する際、『この取引先については値引きをした』というデータを見て正しく請求ができているかという点まで担保する仕組みにする必要があります。覚書をつくって終わりではなく、そのように後工程を意識しながら部内外のメンバーとかかわり、有機的かつ一体的に仕事を進めることで、当部の価値や成果が初めて出せます。メンバーたちも、その調整に仕事の面白さを感じているようです」

株式会社エス・エム・エス
経営管理本部に属するリスクマネジメント部。経営企画、財務企画、人材開発などと並ぶ、経営の中核。各自、「縦と横のマトリックス体制」で経営に資する法務を標榜

法務の戦略性と創造性の発揮

2015年、アジア・オセアニアで医療情報サービスを提供するMIMSグループを三井物産と共同で子会社化し、17年からグローバルキャリアビジネスに本格参入。18年には株式の追加取得により、完全子会社化を行った。そのプロジェクトマネージャーとして案件を主導したのが、リスクマネジメント部だ。

「契約書レビューや法的手続きのサポートといった通常の法務業務だけでなく、交渉条件の決定、スケジュールの確定といった業務も主導しました。私自身が、当社に転職してすぐかかわった案件であり、当社での働き方を実感する経験でした。一般的な弁護士業務だと、デューデリジェンスなり契約書の作成なり、依頼を受けてから動くということがほとんどです。契約や交渉の当事者・主体者として原案作成するやりがい、自分が携わった業務が直接自社の成果として目に見える実感は、非常に大きかったですね」

この経験が、酒井氏にとって“企業法務の在り方”をあらためて考えるきっかけとなった。

「現在のリスクマネジメント部の土台は、私が入社後、経営陣と議論しながらつくりました。当社の成長に貢献し、働く自分たちもやりがいのある部にしたい、と。その際、企業における法務の役割、予防法務、臨床法務、戦略法務について考えました。予防法務と臨床法務は受け身の業務で、来たボールを打ち返すような単調な作業だと思われがちです。しかし、同じことの繰り返しのなかに気づきを得て、自ら動けば、受け身から脱却できる。予防法務であれば、『社内から同じ質問が何度も来るが、次に同じ質問が来ないためにはどうするか』と考えてほしい。臨床法務であれば、不祥事やインシデントが何度も起きてしまうなら、起こさないための仕組みを考えてほしい。また、内部監査の手法によって、問題点に主体的にアプローチしていくことも、仕組みづくりに生かせるはず――つまり予防法務+臨床法務+内部監査を通じて、あるべき統制を構築していくことが、本当の戦略法務(戦略性のある法務)といえるのではないかと、私は考えています」

企業法務という枠にとらわれず、各自の創造性や行動力の発揮を促し、やりがいを生み出す。それが同部の長所と言える。

株式会社エス・エム・エス
同部が採用する「縦と横のマトリックス体制」。各メンバー、1つの事業(縦領域)と、全社最適のための機能(横領域)のいずれかをセットで担う。ビジネスを知り尽くし、経営に資するリーガルスタッフとして成長できる仕組み

成長企業ならではの変化を楽しめる

部内の“縦と横の役割”は、数年単位で少しずつローテーションさせていく予定だ。完全子会社であるMIMSグループのリーガル部門に在籍する現地弁護士と協働し、M&Aや訴訟について連携するといった仕事に携わる機会もあり得る。

「当社は東証プライム上場企業ではあるものの、ベンチャー気質も持ち合わせています。新規事業や新サービスが次々と立ち上がり、その相談が当部に寄せられるので、正直、仕事の質・量は相当なものですが、その分、変化に富んだ環境で働けます。経営陣や事業トップとの距離が近く、決断が早いことも仕事の後押しとなります。そうした環境下で、プロジェクトをリードする局面では、高い視座で物事を捉えて目標を明確に設定し、適切な粒度で問題点やタスクを体系的に整理し、関係者を巻き込んで実際に成果を出す力を、また一つひとつの事象に対しては、当事者意識を持って、想像力を働かせたうえで、妥当な結論を導き、それを周囲に説明できる力を、各メンバーが養っています」

最後に、「各メンバーが成長し続ける事業のパートナーとして並走し、ミッションを実現できる組織でありたい。そのためにメンバーの成長もあらゆる面から推進していきます」と、酒井氏は結んだ。

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。