法務グループの守備範囲は非常に広い。取引所の信頼性を維持するために、取引所規則の改正作業をこなしつつ、取引所の未来を切り開いていくために、様々な事業領域で、M&Aなどの新規プロジェクトの下支えも行う。もちろんそれだけではない。日本取引所グループ自体が上場企業であるため、取締役会や株主総会の運営を適法に行うための法的サポートのほか、上場会社や取引参加者などによる、取引所規則違反が生じた場合の対応も重要な責務となる。
取引所の規則は、法令などのハード・ローに対しソフト・ローと呼ばれることがあり、その特徴として機動性や柔軟性が指摘されるところであるが、それに反した時は取引所が定める処分を下すこともあるし、処分の内容についてはその妥当性も十分に検討しなければならず、説明責任も求められる。
「カバーする仕事の範囲の広さにもかかわらず、法務グループは事務スタッフを除くとわずか6名で、これらの業務にあたっています。したがって、一人ひとりに与えられている裁量が非常に大きい。これも特徴といえますね。契約審査や新規プロジェクトの検討等においてもそうですが、特にM&Aに携わる場合は、財務も知らなければなりませんし、知的財産権に関する知識なども求められます。インハウスローヤーとして、関連規制はもとより、幅広い法分野に関して、常にアンテナを高くしておく姿勢が求められます」(中嶋氏)。
塚﨑氏は、言う。
「金融商品取引法をはじめ、関連する法律の知識は、もちろん必要。しかし、それ以上に大切なのは、コミュニケーションスキルです。我々の部署は、ほかの部署で取引所規則の改正案件が生じた時や、何らかのトラブルが発生した時、関係部署とコミュニケーションを取りながら、協働することが求められます。また、若手にも経営陣に対して法務面からのアドバイスを行う場面が多々ありますので、“自分の発言に説得力を持たせる修練・工夫”をすることが非常に重要なのです。様々な課題に同じ目線で取り組むためには関係者間の納得や共感は大切。我々はそのための潤滑油的な存在ですから、説得力も含めたコミュニケーションスキルが必要不可欠ですし、その積み重ねによって信頼を得ていくことが大切というわけです。我々の仕事は、“正解のない仕事”だと思っています。そのなかでいかに合理的な着地点を見つけ出すか。常に一歩先の気づきを提案できる人材が揃っている――そういう組織にしていきたいと思います」(塚﨑氏)
ちなみに他部署も含めて弁護士は、同社でどのような活躍をしているのか、塚﨑氏に聞いてみた。
「そもそも各部署では、日常的に制度改正に絡んだ検討が行われているので、法律や規則への高い知見や耐性を持つ弁護士は重宝されています。弁護士については、各部署において、“企画担当”というかたちで活躍しているケースが多いですね。当社では、弁護士も一般の社員と同様に人事異動がありますので、法務グループという枠にとどまらず、より制度運営の現場に近い各部署での企画担当など、様々な経験を積むことが可能です。なお当社では、リーガルマインドの醸成や見識を広げる目的で、様々な留学制度も用意されています。国内外の大学院で学び、MBAや弁護士の資格を取得するなど、それぞれのキャリアプランを描きつつ、業務に励んでいます。取引所は自身の定める規則に則ってその業務を行う組織ですし、グローバル化のなかで大きな変革も求められています。それだけに、弁護士が活躍できる場は無限です」