Vol.87
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経営サポート本部 法務室は、2002年8月に総務部法務課から独立して設置された。渡邉室長を含む15名のうち、現在2名が育休取得中(2024年1月時点)

経営サポート本部 法務室は、2002年8月に総務部法務課から独立して設置された。渡邉室長を含む15名のうち、現在2名が育休取得中(2024年1月時点)

THE LEGAL DEPARTMENT

#147

株式会社ヤクルト本社 経営サポート本部 法務室

“グローバル展開の強化による持続的な成長の実現”を支える法務

コンプライアンスをグローバルで強化

乳酸菌飲料をはじめとする食品、化粧品、医薬品などの製造・販売を行う株式会社ヤクルト本社。設立は1955年、東京証券取引所プライム市場に上場している歴史ある“ヘルスケアカンパニー”だ。近年は、同社初の機能性表示食品「Yakult(ヤクルト)1000」が注目を集め、急遽、生産体制の強化が図られた。そんな同社経営サポート本部法務室の体制について、室長の渡邉公久氏にうかがった。

「当室は法務チームと、2017年に新設したコンプライアンスチームの2チーム体制です。各チームに7名ずつメンバーが所属していて、私を除く14名の社歴は5~12年と、比較的“若いメンバー”で構成された部署といえます。前者は、ヤクルトグループの法務案件に対する協力・支援・指導や、訴訟が起きた場合の対応といった各種法務相談業務、契約書の審査などを、後者は、ヤクルトグループ全体のコンプライアンスに関する推進体制整備、教育・啓発活動、モニタリング、新規契約時の事前審査などを担当しています」

同社を中心とするヤクルトグループは、販売会社や工場、ボトリング会社など、国内約140社、海外約30社の関連会社を有する。各社の法務機能と連携し、統括の立場にあるのが同室だが、そのすべての業務に15名という少数精鋭で臨んでいるというわけだ。

「国内の販売会社の法務相談については、当該会社を管轄するヤクルト本社の支店、営業本部などを介して対応します。また海外も基本的に、当社の国際事業本部などを介して対応するので、すべての会社から直接法務相談がくるというわけではありません。ただ、コンプライアンスについては本社の経営サイドが重視していることもあり、当室でも、法務チームとは別にチームを立ち上げ、積極的に施策を打っているところです。国内のコンプライアンス体制は整ってきましたが、海外のコンプライアンスについても、これから体制を整備していきたいと考えています」(渡邉氏)

ヤクルト本社では各部署に、グループ各社では各社1名ずつ、コンプライアンス担当者を置く。年に1回、全担当者を集めた会議を、対面とオンラインのハイブリッドで実施。直近のテーマは「内部通報対応」

風通し良く、働きやすい環境

同社では新卒入社後、10年間で3部署を経験するジョブローテーション制度を導入している。コンプライアンスチームの磯貝征志氏は法人営業部門、法務チームの薛佳軒氏は国際事業本部からの異動者だ。

「私は教育・啓発の企画・立案・推進、ほか3年に一度実施されるモニタリングなどに携わっています。このモニタリングは、当社全体のコンプライアンス浸透度を評点化するもので、数値で明確な向上が示された時は、自分の仕事の手応えが実感できて嬉しいですね。営業部にいた頃は“法務室は守り”というイメージが強く、杓子定規な対応にもどかしさを感じたこともありました。しかし、自分自身が法務担当になってみると、“守り”の必要性・重要性がよくわかる。そこをかみ砕いて現場に伝えつつ、“攻め”の部分でもビジネスの役に立てる法務にしていくことが、営業の現場を経験してきた私の役目だと思っています」(磯貝氏)

一方の薛氏は、異動から半年ほど(23年10月時点)で、「まだ勉強しながら仕事に取り組んでいる段階です」と語る。

「私の主な業務は、契約書審査と法務相談です。法務室に来て感じたのは、国際事業本部にいた時とは比較にならないほど、ヤクルトグループの各社・各部門とやり取りがあるということ。それぞれの仕事内容を深く理解し、より適切なアドバイスができるよう成長していきたいです」(薛氏)

法務室では、各チームの取り組みの発信、社内研修などを、「みんなの法務ルーム」というポータルサイト上で行っている。“プロアクティブな法務”をグループ内に示す、一つの手段でもある。

「法務・コンプライアンスは受け身であってはならないと感じています。そのため、自社だけでなくグループの全社員がアクセスできるWebサイトを作成しました。コンテンツ企画・発信は法務室が行いますので、私たちにとってもよい学びの機会になっています。法務チームでは、恒常的に質問を受ける下請法や景品表示法等に関して理解を深めることを目的としたコンテンツを配信しています。また、コンプライアンスチームでは、ハラスメントの防止など、職場に深く関わるコンプライアンスについての情報を定期的に発信しています。そうしたテーマについて対面形式の研修はもちろんですが、ポータルサイト上でのウェビナー開催、Q&Aを掲載するなどして、必要情報の周知を図っています」(磯貝氏)

薛氏は、法務室を「風通しの良い風土です」と言う。

「困ったことがあれば、すぐに相談できる環境ですし、周りの先輩たちも常に目配りしてくれています。とはいえ、そうした環境に甘えることなく、早く“独り立ち”できるようになりたいです」(薛氏)

「自己研鑽に熱心なメンバーが揃っていると思います。例えば、法務室に配属されたメンバーは、比較的早い段階で『ビジネス実務法務検定』を受検するという慣例があります。誰かに強制されているわけではなく、当たり前のように皆、受けるんですね。私も異動して3カ月目の頃、2級を受検しました。そのために自学自習しますから、法務に関する知識をずいぶんとためることができました。すると今度は、実務に照らして知りたいことが次々出てきますので、そこを先輩たちに確認するといった機会が、異動した年は多かったですね」(磯貝氏)

同社は、20年に子育てサポート企業として厚生労働省の「プラチナくるみん」の認定を取得している。また、23年には6年連続で経済産業省の「健康経営優良法人~ホワイト500」にも認定。年次有給休暇の取得推進、不要不急な時間外労働の削減、育児・介護休暇を取得しやすくする環境整備などに積極的に取り組む。ちなみに、法務室の男性育児休業取得率は100%。在宅勤務は、週1回をめどに各自の実施を推奨する。働きやすい環境があるから、自発的に学び、仕事にまい進できる――それが同社法務室の風土のベースになっている。

「人も地球も健康に」を、コーポレートスローガンとするヤクルト本社。写真は、本社内の社員食堂。リーズナブルな日替わりメニューが好評で、毎日、ヤクルト製品も提供されている。ランチタイム以外は、各部署の社内ミーティングなどに利用されている

海外展開に合わせた法的支援を推進

18年、「ヤクルトレディによる宅配サービス」という“日本発のビジネスモデル”が、「第2回日本サービス大賞」(主催/公益財団法人日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)で、経済産業大臣賞を受賞した。この宅配型サービスのビジネスモデルは、現在、日本を含む14の国と地域で導入・展開されている。

今後も、同社独自のビジネスモデルを用いた海外展開は、加速化が予想される。

「“ヤクルトグループとしての成長を維持し、変化に対応していくための道しるべ”として、当社では長期ビジョン『Yakult Group Global Vision 2030』を策定しています。このうち、24年度までの中期経営計画の重点テーマに、“グローバル展開の強化による持続的な成長の実現”を掲げています。このグローバル展開を法務として支えていくために、コンプライアンス推進に関する業務の海外連携強化をはじめ、多角的に支援していく必要があると考えています。現状はあまりないものの、例えば法務室メンバーの海外出張の機会が増えるかもしれません。海外展開とともに取引規模が拡大・加速化すれば、インハウスローヤーの力が必要となる可能性もあるでしょう。そうした未来がすでに見え始めていますので、変化に柔軟に対応できる仲間とともに、ビジネスに伴走できる法務室として、存在感をさらに高めていきたいと思います」(渡邉氏)

2020年4月より本社を新橋から竹芝(東京都港区)の「ウォーターズ竹芝」に移転。本社組織(本社各部、支店)と一部の関係会社を集約し、経営効率の向上と円滑な事業展開を狙う