Vol.89
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法務本部は約80名の陣容。日本法、外国法(米国、中国)の弁護士が6名所属する。なお2年ほど前までは知的財産本部と一体だった、“知財発祥”の法務部である

法務本部は約80名の陣容。日本法、外国法(米国、中国)の弁護士が6名所属する。なお2年ほど前までは知的財産本部と一体だった、“知財発祥”の法務部である

THE LEGAL DEPARTMENT

#153

TOPPANホールディングス株式会社 法務本部

DX・SX事業の拡大に向けて、前例のない事業やグローバル案件を法的に支援

法務の力で、事業と組織に命を吹き込む

120年超の歴史を有し、創業以来培ってきた印刷テクノロジーをベースに、多様な新事業を国内外で積極的に展開しているTOPPANグループ。2023年10月の持株会社体制への移行に伴い、TOPPANホールディングス株式会社法務本部では、契約法務、商事法務、プロジェクト案件、コンプライアンスなど多岐にわたる業務において、TOPPAN株式会社およびTOPPANエッジ株式会社、TOPPANデジタル株式会社といった中核会社を含む250超の子会社との連携を強化中だ。同本部ではそうした幅広い事業範囲に対応するため、本社部門担当と事業部法務部門(事業部駐在)担当に分けてメンバーを配置。その背景や効果について、法務本部長の小関知彦氏にうかがった。

「当社事業は事業部ごとに特色があり、顧客層も担当法分野も異なります。例えば、エレクトロニクス事業は電機業界が顧客となるので輸出管理が、パッケージ事業は食品関係の顧客が多く、食品の包材に関する規制や景品表示法などの知見が重要になります。現在、約80名のうちほぼ半数のメンバーを事業部に配置し、当本部のミッションである“事業部のパートナーとして経営に資する法務”を実践中です。事業部門の経営層の近くで法務業務を行うことで、事業経営に直接関与することが可能となります。この法務戦略を進めながらローテーションを行い、様々な顧客・分野に相対し、幅広い経験・知識を有する人材を育成できています。国内のみならず海外も同様で、米国とシンガポールに駐在員を置くなど、グローバル人材の育成にも効果を発揮しています」

同本部では、持株会社に移行後、新たな“パーパス”を策定した。

「“法務の力で、事業と組織に命を吹き込む”と、定めました。法務には、事業部門の事業アイデアやビジネスの芽を契約書にまとめたり、規制法をクリアする方法を考えたりすることによって“現実化する能力がある”と考えています。また、コンプライアンスやBCPの推進によって“吹き込んだ命を永らえる”ことも我々の役目。そのように事業と組織にとって重要なポジションにあるのが法務なのだということを、メンバー全員に自覚してもらいたいと考えて打ち立てたパーパスです」(小関氏)

前例のない事業に挑みグローバルに活躍

“従来の考え方、やり方を突破する”を掲げる同社の仕事の一例を、沖田亜希子氏にうかがった。

「以前は事業部に駐在していましたが、現在は本社部門で主に国内事業再編やM&A、出資案件などに携わっています。いわば“成長の種”を育てるフロンティア分野の新事業支援で、近年携わったのは、医療データをベースとしたビッグデータ分析を行う新規事業立ち上げサポートです。18年の次世代医療基盤法(通称)施行に伴い、ヘルスケア事業の立ち上げが企画された際、医療情報の収集・加工・提供等を行う企業と資本業務提携を行い、電子カルテデータの匿名加工・データベース構築を共同で推進しました。当該企業に対しては段階的に出資比率を引き上げ、23年1月に連結子会社化しています。当社では過去に医療データを扱ったことがなく、当時は規制法に基づく認定事業者もまだ存在していないなかでの挑戦です。どのような要件なら認定が取れるか、その可能性がある企業はどこか、どの企業と組めば事業展開できるかといった検討を、外部法律事務所の弁護士も交えて事業部門のメンバーと議論しながら進めていきました。立ち上げから医療データ分析・提供サービスのリリースに至るまで、規制法の確認や業務提携先の検証、出資やM&Aの検討など、“総合的な法務の力”を発揮でき、やりがいの大きな案件となりました」

同グループが注力するのは、そのようなDX、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)分野など新規事業分野への挑戦と、もう一つが事業のさらなるグローバル化だ。この10年でグローバル案件が急激に増え、今ではグループの海外売上高比率は約3割、海外拠点数は150以上。シンガポール支社への駐在経験がある浦野慎一郎氏は、仕事の醍醐味をこう語る。

「グローバルセキュアとグローバルパッケージの2つが、現在の当社のグローバル重点事業です。前者を例にとると、中核子会社のTOPPANネクストを軸に、18年頃から積極的に買収や出資を行い、事業拡大しています。同社にはチーフリーガルオフィサー(CLO)がいるので、密接なコミュニケーションを取りつつ、様々な買収案件のデューデリジェンスから契約までをサポート。買収案件はアフリカ、南米、UAEなど世界にまたがり、今でも年間で5~10件程度の買収案件が上がってきます。日々条件が変更され、交渉が続くなかでも、しっかり状況を把握するため、関連企業のCLO、法務担当、現地弁護士などとのコミュニケーションは欠かせないものとなります。グローバル展開をしている子会社は意思決定スピードが非常に早く、的確かつ正確に戦略をキャッチアップするのは大変ですが、その分、鍛えられていると感じます。また、私のチームは全世界をカバーしてグローバル案件に対応しますので、各国の担当者と対話できることもモチベーションの一つといえますね」

沖田氏と浦野氏の例は本社部門の仕事。事業部法務部門の仕事について、大野郁英氏にうかがった。

「私は24年3月まで、パッケージなどを扱う生活・産業事業本部の事業法務部門を担当していて、北米、欧州、インドなど海外企業の大型買収案件に関与しました。出資案件や工場建設などの支援も、本社部門・海外チームの浦野と協力しながら行いました。多くの案件に関与して得た知見を元に、PMIを含めた買収の流れ・ノウハウをパッケージ化(データベース化とノウハウの共有)。社内に有益な知見を蓄積できたことも成果だと思っています」

事業部法務部門は“前例がないグローバル案件”にも携わる。

「ビジネスの最前線にいるのが事業部法務部門といえます。スピードを意識し、アウトプット・インプットの方法を工夫しながら、事業本部長など事業部トップに伴走できることにやりがいを感じています」(大野氏)

大野氏は現在、コンプライアンス部を統括する立場にある。

「これまで業務を通じて、各国の法制度・商習慣・文化の違いなどを学んできました。その経験を踏まえつつ、急速に広がる海外子会社・拠点などと連携を深め、法務本部としてグローバルのコンプライアンス体制整備をしっかり行っていくことが喫緊の課題であると考えます」(大野氏)

TOPPANホールディングス株式会社
スマートワーク制度(コアタイムなし)や在宅勤務制の活用、育児・介護休暇制度の取得など、ワークライフバランスの実現を考慮した各種制度が整えられている

各自のキャリアと部の成長を目指して

本社部門・事業部法務部門、法務本部内のローテーションを3~5年で実施。米国ロースクール(サマースクール)への留学制度もあり、個々のスキルアップを見据え様々なチャンスを提供する。

「最初は基礎力を国内案件で身につけ、グローバル案件の希望があれば、規模の小さな国際案件を担当してもらうこともあります。国内・海外でチームを分けていますが、各自の希望が叶うよう柔軟に担当業務を調整します」(沖田氏)

小関氏は、「若手育成と法務人材の確保が当面の課題」と言う。

「コーポレートガバナンス・コードが導入された15年頃から、法務が会社の基本的な設計部分に関与する機会が増えました。法規制やコンプライアンス観点で、下請法や輸出管理対応の強化、また生成AI関連など新しい法分野と、拡大傾向のグローバル案件への対応はこれからも続いていくでしょう。経営の実効性向上や経営戦略の実現に寄与する法務本部であり続けるために、若手社員の教育に尽力しつつ、法務人材の層をより厚くしていきたいと思っています」