Vol.90
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法務部は13名の陣容(うち女性管理職3名)。「当社はお互いを役職名ではなく、社長も含めて全員“さん”付けで呼び合います。フラットな関係、風通しの良い組織であることが自慢です」(神田氏)

法務部は13名の陣容(うち女性管理職3名)。「当社はお互いを役職名ではなく、社長も含めて全員“さん”付けで呼び合います。フラットな関係、風通しの良い組織であることが自慢です」(神田氏)

THE LEGAL DEPARTMENT

#157

キユーピー株式会社 経営推進本部 法務部

“正しい論点”にたどり着く力を育み、攻めと守りの両輪で事業貢献していく

実効性ある助言を経営陣に提供

マヨネーズやドレッシングなどの調味料で知られる、日本を代表する食品メーカー、キユーピー株式会社。同社法務部の役割を、部長の神田岳志氏にうかがった。

「私たちの使命は、法務とビジネスをしっかり理解したうえで、当社グループのブランドなどの”資産”と”評価”を守り、高めていくこと。そのために、①リーガルリスクの低減と法的素養を生かした利益貢献、②適切な内部統制体制の構築推進、③グループ全体のリーガルマインドの向上を常に意識して業務にあたっています」

これを、社内の組織管理や内部統制に関する法務を担うコーポレート法務チームと、社外との取引に関する法務全般を担うビジネス法務チームの2チーム体制で推進する。前者は、取締役会とグループガバナンス委員会の事務局を務めていることもあり、社歴の長いベテランが多く所属する。コーポレート法務チームのリーダーを務める川村晶子氏は言う。

「チームには、長くコーポレート法務に従事している者からビジネス法務チームや他部門で経験を積んだ者まで様々なメンバーがいます。各自が培ってきた知見・新たな視点をチーム内で融合させることにより、取締役会やガバナンス委員会の実効性を高めていけるよう、日々みんなで話し合い、試行錯誤を重ねています」

キューピー株式会社
「チーム力が強く、フラットに意見を述べ合って仕事ができる環境。“楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)”というグループ社是が浸透しています」(川村氏)

若手社員の自主性を促す

同社では、2021年から24年までの中期経営計画で「持続的成長を実現する体質への転換」を掲げる。そのなかで、成長ドライバーとしているのが”海外市場”だ。ビジネス法務チームの井上健治氏に、関与した案件をうかがった。

「当社は15年頃から、米国や欧州で世界戦略商品である『キユーピーマヨネーズ』『深煎りごまドレッシング』の販売に注力しており、”KEWPIEブランド”の浸透を図ってきました。現在、米国、欧州、アジア、オセアニアといった海外市場でのブランド人気が非常に高まっています。これを受けて”サラダ調味料市場で世界最大”である米国での体制強化を狙って、子会社の改組、加えて工場の新設を進めています。一方、オーストラリアでは、オセアニア地域初の現地法人を設立。こうした積極的な海外事業展開に伴い、海外案件比率が増えてきたため、国内外の弁護士の協力を得ながら、法務が調整・サポートを担います。また、部長の神田は海外本部の担当部長も兼務しており、海外案件の動向をかなり早い段階からキャッチし、実効的なアドバイスができていると自負しています」

国内市場については、「原価高騰などの社会的要因も相まって、食品業界全体で価格交渉・価格転嫁について公正取引委員会の調査活動などが強化されているので、誠実に対応していかねばならない」と、井上氏。

「独占禁止法(独禁法)や下請法上、疑義や”抜け漏れ”が生じないよう、社内教育を徹底しながら、ビジネス現場をサポートしています」(井上氏)

「食品を扱う企業ですから、お客さまの安全・安心を守るための食品法令の遵守は絶対です。加えて、マヨネーズというトップシェア商品を持っているので、独禁法・下請法も非常に重要。『知らずに行ってしまった』というミスを起こさないために、社内教育に力を入れていますが、これについてはビジネス法務チームの若手メンバーに、あえて任せています。彼らは、『下請法に関する担当者を各社において勉強会を開催しよう』『チェックリストを作成しよう』など、様々なアイデアを出し、かたちにしてくれています。おかげでこの2~3年は、独禁法・下請法に抵触していないかのチェックをグループ各社が自主的に行う流れができています。若手メンバーのやる気も向上しており、任せることの大切さを実感していますね」(神田氏)

川村氏に、コーポレート法務チームの業務についてうかがった。

「取締役会やガバナンスというと、定型的な業務が多いイメージかもしれません。取締役会は、経営に貢献し、実効性のある会議体であることを社会から強く求められていますから、その実効性を高める施策を私たちなりに試行錯誤しています。例えば、取締役会で議論すべき経営上のテーマを年間で決めて、事務局から提案し、議事に組み込む。議論できる状況を、経営企画など他部署のメンバーと協働で組み立てていくといったことを、コツコツと行っています。加えて、グループ会社の取締役会の実効性向上も目標としており、本社からグループ会社に派遣される役員やグループ会社社長に対してガバナンスに関する勉強会を行っています。そうした地道な活動の積み重ねのおかげもあり、『取締役会の中で積極的に経営課題を話し合える雰囲気をつくってくれて助かっている。有効な話し合いができるようになった』といった評価もいただきました。試行錯誤が実を結んだことの喜びや、やりがいをチームメンバー全員で実感しています」

キューピー株式会社
米国における2カ所目の生産拠点が、2025年5月に稼働予定。生産能力を増強し、同市場での事業展開を加速する。写真はQ&BFOODS, INC. テネシー工場の完成予想パース(提供:キユーピー)

予防法務を徹底し戦略法務に挑む

法務部内を2つのチームに分けているが、日々の法律相談はもとより、海外での大型M&A案件などの際には、チームの垣根を越えて、ベテランと若手が組んで業務に臨む機会も多い。

「会社の規模にしては法務部が10数名とまだまだ小さいため、よく言えば”一人で様々な法務業務を経験できる”ことが特徴です。一方で、業務の属人化を防ぐために”シングルタスクをマルチパーソンでこなす”といった進め方にも挑戦しています。『私の業務範囲はここまで』ではなく、『部としてみんなでやっていこう』という気風が醸成され、そうしたトライアルをメンバーも素直に受け入れてくれており、とてもよい風土です」(神田氏)

神田氏は企業価値の観点からみて、今後の法務部の在り方について次のように話す。

「M&Aや新規事業、投資・アライアンス支援といった戦略法務、つまり企業価値を増大させる業務をしっかりできる法務が一層望まれていくでしょう。しかし、それを遂行するには、契約書チェックや規程管理、勉強会の開催といった、予防法務をおろそかにしないことが大変重要です。上流段階で案件に関与し、早期に法的リスクを回避する対策を講じ、トラブルを未然に防止する――予防法務をベースに、企業価値を維持し、成長につなげることを、全員、強く意識するようにしています」

最後に、神田氏は強調する。

「私たち法務部は、”キユーピーの良心”であり、”ラストマン(判断の最終責任者)”でありたいと思っています。経営陣にとって最高・最強のブレーンと言い換えてもいいでしょう。企業価値を高めるために、法務部の一人ひとりが”ラストマン”の自覚をしっかり持ち、正しい判断を行っていかねばなりません。正しい判断とは、”論点の正しい把握”にあります。一見正しいと思える判断を導き出せたとしても、そもそも論点・問題点自体を間違えてとらえてしまっていたら、正しい結論がでるはずもありません。そんな過ちを防ぐために、日頃から正しく判断を行う自己研鑽を積み、ラストマンであること、それが法務部のパーパス(存在価値)であり、私がメンバー各自に最も望むことです」

米国・欧州では、2015年頃から、世界戦略商品の販売に注力(提供:キユーピー)